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ドラッカーとマッキンゼーと経営コンサルティング

それにしても、自分の本棚から本を探すのがいかに大変な作業か、思い知らされている。どっかで2日3日かけて、綺麗に本棚を整理したいところ。

は、ともかく、今日のタイトルは何かしら、部屋とTシャツと私を匂わせていますが、よく考えると、単に3つの名刺を「と」で繋いでいるだけです。いかに構造がオリジナルだとインパクトがあるかがわかりますね。

昨日、ある勉強会で、ドラッカーがかつて日経新聞に連載していた「私の履歴書」が単行本になっているという話が出て、あ、そういえば持っていたな、と引っ張り出してきた。

この本の中で、ドラッカーがいわゆる「経営コンサルタント」について、下記のように述べています。

当時、GEで分権化などの組織改革プロジェクトを指揮していたのは副社長のハロルド・スミディ。コンサルティング会社ブーズ・アレン・ハミルトン出身で、私をGEに呼び寄せた張本人である。改革を進めるに当たって大量の報告書をまとめる仕事に取りかかり、私にその執筆や編集作業を委任した。どんな改革を進めるべきかについて提言し、報告書を作成する部隊を何と呼べばいいのか。スミディが私と一緒になって考案したのが「経営コンサルタント部」だ。コンサルティング業界が揺籃期にあった時代であり、これは目新しい名称であった。(中略)
バウワーとは親しい関係にあった。五年間か六年間にわたって、毎週土曜日の午前中にマッキンゼーへ出向き、コンサルティング業について教えていたからだ。彼がマッキンゼーのトップに就いた1950年には「うちに来ないか」と誘われたこともある。そのころには私は一匹狼として働くほうがずっと効率的だと思うようになっていたので、その誘いを断った。けれども協力はできた。バウアーから「マッキンゼーを何と呼んだらいいだろうか?」と相談された時のことだ。迷わずに「経営コンサルタント」と提案すると、受け入れてもらえた。「経営コンサルタント」という言葉は、スミディと私によって生み出され、マッキンゼーに持ち込まれて世に広まったわけだ。

ピーター・ドラッカー『ドラッカー20世紀を生きて 私の履歴書』P127-128

ちなみに、この話をマッキンゼー側はどう受け取っているのか、という話なんですが、2冊に当たってみました。

1冊目は、マッキンゼーの中興の祖、マービン・バウワーの生涯に焦点を当てた『マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー』。この本には、こう書かれています。

CEOの重要な任務の一つは基本方針や戦略を立てることだが、マービンの見るところ、その任務について客観的なアドバイスを与えてくれる第三者がいない。法律問題は、顧問弁護士あるいはお抱えの法律事務所に聞けばよい。資金調達なら投資銀行に任せればよい。だが組織や運営のことになると、助言してくれる専門会社はどこにもなかった。マービンはそうした助言を与える仕事を経営コンサルティングと名付ける。

エリザベス・ハース・イーダスハイム『マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー』P.19

ドラッカーのことなんて、完全スルーw

もう一冊は、マッキンゼーの暴露本なのか紹介本なのか、その名もずばり『マッキンゼー』という書籍。こちらも見ましたが、「経営コンサルティング」という名称についての話は一切、ない。

ただ、思うことは、バウワーも、実はものすごく「経営コンサルティング」という仕事とその倫理観のようなところには、とても尽力されていて、自分の名前よりは創業者の名前を残すとか、とっても、いい人っぽい。ドラッカーも別に「それ、俺が考えたんじゃーい」と声高に主張するキャラクターでも、もともとない。

こういう彼らのスタンスそのものに、彼らが「経営コンサルティング」という言葉に込めた思いが、そこはかとなく伝わってくるのではないかな、と思うのです。

バウワーがあらわれる前には、どんな詐欺師でもコンサルタントと名乗ることができたし、多くがそうしていた。そこでバウワーは、20世紀の実際の職業を借りて、次のような説明を考え出した。コンサルタントは弁護士のように慎重かつ誠実にふるまい、エンジニアや会計士のように科学的な「事実にに基づいた」厳格さと正確さを仕事に取り入れる。医者のように、健全でない企業に元気になる方法と、その状態を保つ方法を助言する。そして牧師のように、クライアントに奉仕する。

ダフ・マクドナルド『マッキンゼー』P.54

もうひとつ。

成功するコンサルタントは、人に好かれる魅力がある

ダフ・マクドナルド『マッキンゼー』P.58

いや、これ、すごいw

自分自身、過去に出会ってきた(自称)コンサルタントさんを思い出して、この言葉以上に、まともなコンサルかどうかを見抜く方法はないんじゃないかと思いましたよ。

ちなみに、日本でどこまで普及しているのかわからないですが、「経営コンサルティング」に関しては、ILO(国際労働事務局)がまさに『経営コンサルティング』という書籍を出していまして、こんな風に定義が書かれています。(最新版ではないかもなので、変わっているかもですが。)

2つあります。(太文字は筆者)

「コンサルティングとは、ある業務または一連の業務の内容、プロセスないし構成について、形式を問わず助力を提供することであり、その場合、コンサルタントは業務それ自体の遂行に責任はなく、実際の責任者を助力しているというものである」

ILO『経営コンサルティング』P.3

もうひとつ。(太文字は筆者)

「専門教育を受けた適格者が組織と契約して提供するアドバイザリーサービス、これが経営コンサルティングであり、クライアントの組織に対しては客観的、かつ独立した方法により経営管理上の問題の発見を助力し、その分析、問題解決策の提言、さらに要請があれば解決策の実施助力を行うものである」

ILO『経営コンサルティング』P.4

多少、ニュアンスは違いますが、通じるものがある、とこの本ではまとめています。

で、どうでしょう?日本人の方の中には(って、日本語なんで日本人しか読んでないと思いますが)、ちょっと自分が出会っているコンサルタントとは違ったスタンスだなぁ、と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

何やら提案書を書いてきて、それを偉そうにプレゼンし、予算を確保して、彼らのやり方で実行してこちらの仕事を増やするのがコンサルタント、ではないのです。いや、コンサルタントが提案したりプレゼンしたりしない、と言っているのではありません。

ここで言われているコンサルタントのメインのお仕事は、助力
ダメ出しをすることでも、プログラムを売りつけることでもありません。

ちなみに、助力を辞書で調べてみましょう。

じょ‐りょく【助力】
読み方:じょりょく[名](スル)他の人の進めている仕事や活動などに力を貸すこと。手助け。じょりき。

Weblio辞書
https://www.weblio.jp/content/%E5%8A%A9%E5%8A%9B

はい。手助け、ですね。

こう考えると、ドラッカーの手法もまさに、これだったと思い当たります。例えば、ドラッカーはバウワーが自分のサービスの名前に困っていたとき、「経営コンサルティング」という名前を提案したのかもしれません。しかし、それを採用したのはバウワーであり、これは、バウワーが決めた、と言うことを意味します。これが「助力」のスタンスです。先のコンサルティングの定義にもありました。「コンサルタントは業務それ自体の遂行に責任はなく、実際の責任者を助力している」という奴です。責任が無いのだから、手柄もない。

手柄は取るが責任は取らない。こういう人っていますよね(笑。でも、こういう人はコンサルティングではないのです。

ではなにか、ということで、次に考えを深めていきたいのが、エドガー・シャイン先生の次の著作群です。

エドガー・シャイン著作群

謙虚なコンサルティング、人を助けることはどういうことか、問いかける技術。

ということですが、これを原著の刊行順に並べると、
人を助けることはどういうことか(2009年)
問いかける技術(2013年)
謙虚なコンサルティング(2016年)
という順番になります。最初の疑問から、最後にコンサルティングの在り方の話につながるわけですね。

自伝を見ると、このシャイン先生も面白い研究経歴をお持ちなのですが、それについてはまた別な記事で書かせていただくとして、最初の本の冒頭に問題提起が書かれています。

支援とは複雑な事象だ。役に立つ支援と、役に立たない支援とがある。本書はこの両者の違いを明らかにする目的で書かれている。教授として、ときにはコンサルタントとして働いてきた経験から、私はしばしば考える。何が人の役に立ち、何が役に立たないのか。(中略)公式な講義よりも、コーチングや、経験に基づく学習のほうが成功を収める場合が多いのはなぜか

エドガー・H・シャイン『人を助けることはどういうことか』P22

ここに、コンサルティング業もカウンセリング業もコーチング業も、共通の問いでくくられることとなります。

何が人の役に立ち、何が役に立たないのか。

この問いを持ち続け、探究している人以外の人に、コンサルティングもカウンセリングもコーチングもお願いしない方が良いかなー、というのが、今回の私の結論です。

まあ、さすがに、カウンセラーやコーチで、この問いを持っていない人は居なさそうですが、コンサルタント、特にコンサルティング会社にお勤めのサラリーマン・コンサルタントは居てそうだなー、ということを、個人的には思っています。会社のお仕事でそんなコンサルタントに会ってしまった方には、御愁傷様、とお声がけしたいです。

とりあえず、現場からは以上です。

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