米国企業のDXへの取り組み動向➋
連載「米国企業のDXへの取り組み動向」の第1回目では、DX戦略の焦点(プロダクトの革新、顧客経験の生成、オペレーションの変革、プラットフォームの構築、収益モデルの確立)、汎用的なテクノロジーであるSMACIT(ソーシャル、モバイル、アナリティクス/人工知能、クラウド、モノのインターネット)を取り上げました。
今回からは、米国の主要企業におけるDXの取り組みと業績の改善についてご紹介していきたいと思います。
なお、ご紹介する企業におけるDXの取り組みについては、フォーブス誌のサイトの記事「DXがいかにビジネスパフォーマンスに影響を与えたかの7つの事例」を中心に、日本において紹介されている記事も織り込みながらアップデートしていくことにします。
ベストバイ
今回事例として取り上げるベストバイは、米国、カナダ、メキシコを中心に事業展開している大手家電量販店です。
多くの小売り事業と同様、アマゾンをはじめとするEC勢の台頭に大きな遅れをとっていた同社は、2013年からRenew Blue、2018年からはBuilding the New Blueという独自戦略を実行しながらDXに取り組んできました。
当初の数年間は、人員削減、不採算店舗の閉鎖、欧州事業の撤退といったコスト削減を中心としたオペレーションに関する改善を進めていった同社ですが、ここ数年間はデジタルテクノロジーを活用した顧客経験の生成や革新的なサービスにも力を入れるようになってきました。
主要な取り組みを挙げていきましょう。
電子棚札の採用
1つ目は、日本の大手小売りチェーンも導入を開始している電子棚札(ESL: Electronic Shelf Label, ESL)の採用です。
これにより、商品の需要と供給に合わせて価格を動的に変動させるダイナミック・プライシングという価格戦略が容易になります。
また、価格情報を一元管理できるようになると同時に、価格変更の労力削減、貼り間違えなどの人間によるミス防止といったオペレーション改善だけでなく、クーポン表示などのプロモーション施策、商品の場所表示といった新たなサービスを提供することを可能にしています。
プライス・マッチング・ポリシー
2つ目は、プライス・マッチング・ポリシーと呼ばれる最低価格保証制度の採用です。
これは、物理的な小売店舗で見た商品をその場では買わず、最も安いオンライン店舗で購買するショールーミングという、デジタル時代における消費者の新しい購買行動への対応です。
この制度を強化する上で、同社はメーカーへの店舗への出店依頼、スタッフのサービス品質向上、配送サービス改善などに対する投資にも積極的に進めているようです。
デジタルマーケティング
3つ目は、積極的なデジタルマーケティング活動です。
同社のウェブサイトには人工知能や機械学習テクノロジーを組み込み、利用者がサイト内を検索する際、利用者ごとに推奨する商品やコンテンツを表示することを可能にしています。
これらは、パーソナライゼーションと呼ばれ、アマゾンやネットフリックスで有名になった「おすすめ」と同様のものであり、デジタル時代におけるマーケティング施策の中で最も重要なものの1つです。
また、利用者を判別する1万2000の属性を分析することによって、誰に何のコンテンツをどれくらいの頻度でメールを送るかというきめ細かいターゲットマーケティングも実施しているようです。
その他の新しいサービス
その他、同社は訪問型のライフスタイルを提案するホームアドバイザー、電話、ネット、チャット、店頭といった様々なタッチポイントにおいて顧客から相談を受け付けたり、年間200ドルで家庭内のデジタルトラブルをサポートしたりするテックサポート(GeekSquad)、宅配プロバイダーと協力した即日配達などのサービスを展開しています。
また、オンラインで商品の注文をした後、店舗の駐車場でスタッフが車のトランクに商品を積み込んでくれる、ドライブスルーを進化させたコンセプトであるカーブサイド・ピックアップという新しいサービスを現在提供しており、コロナ禍において多くの消費者に喜ばれているようです。
業績の改善
このように、同社は守りのDX(オペレーションの革新)からスタートし、徐々に攻めのDX(顧客経験の生成/プロダクトの革新)にDX戦略の焦点をシフトしてきたといえるでしょう。
2012年末に23.7ドルであった同社の株価は、2020年末には99.8ドル(7年間で約4.2倍)にまで伸びています。
また、DXに取り組む以前の売上の約70%は実店舗における販売であったのに対し、現在は売上の約90%は何らかのデジタルテクノロジーが貢献しているとのことです。
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