米国企業のDXへの取り組み動向❺
連載「米国企業のDXへの取り組み動向」では、大手家電量販店のベストバイ(第1回)、スポーツ関連メーカーのナイキ(第2回)、テクノロジー企業のマイクロソフト(第3回)におけるDXの取り組みについてご紹介してきました。
最終回である今回は、米国に本社を置く住宅リフォーム、建設資材、サービスの小売チェーンであるホームデポのDXに関する取り組みや業績の変化についてご紹介していきます。
ホームデポ
ホームデポは、米国を中心に約2,300店舗(カナダやメキシコ含む)を運営する小売りチェーンです。
同社は、物理的な世界とデジタルの世界の間でのシームレスなショッピング体験を提供するという、ワンホームデポ(One Home Depot)というDX戦略を2017年から進めています。
この戦略を遂行するために、2017年以降の3年間で110億ドル以上を投資し、約1,000人のITおよびユーザーエクスペリエンスの専門家を雇用することを公表しました。
ポケットに入る店舗
ホームデポは、シームレスなショッピング体験を提供するために、ポケットに入る店舗(Store in the Pocket)と同社が呼ぶアプリ構築に力を注ぎました。
同社は、通常の店舗において3~4万アイテムの在庫があり、オンライン上では100万以上のアイテムを販売していますが、顧客は3通りの方法で膨大なアイテムの中から自分が欲しいものをアプリ上から検索することができます。
1つ目はキーワード入力による検索で、2つ目は音声認識による検索です。3つ目はイメージ検索で、アプリ上からカメラを起動することによって可能となります。例えば現在使っているアイテムの名称が分からない、または忘れてしまった顧客が、その写真を表示することによって類似するアイテムの一覧が表示されるというものです。
また、選択したアイテムをクリックすると詳細情報が表示されるだけでなく、最寄りの店舗における在庫数と在庫場所が表示されます。在庫場所はアプリ内の店内マップからナビゲートされる仕組みになっています。
さらに、家具のような大きなアイテムに関しては、AR(拡張現実)テクノロジーを活用することで、アプリ上で自宅に置いた際のイメージをシミュレーションすることができます。ARとは、実在する風景にバーチャルの視覚情報を重ねて表示することで、目の前にある世界を仮想的に拡張するというものです。
ホームデポの顧客は、もちろんアプリ上から選択したアイテムを購入することもできますが、実店舗で購入する顧客の多くは、事前にアプリ上で欲しいアイテムの情報を検索しているようです。
4つのショッピング体験の選択肢
ホームデポは、従来のショッピング方法(実店舗で購買してその場で受け取る)の他に、4つの選択肢を提供しています。
■オンラインで注文したアイテムを店舗で受領する – 大半の顧客は、この選択肢を好んでいるようです。顧客は、身分証と注文番号で開けられるロッカーから注文したアイテムを受け取ることができます。
■オンラインで注文したアイテムが店舗に配送される – 顧客からみれば1つ目と同じですが、こちらは注文されたアイテムを倉庫から店舗に配送されるところが異なります。なぜならば、店舗にあるアイテムは取り扱いアイテムの一部だからです。
■オンラインで注文したアイテムを自宅で受領する – アマゾンと同様に、この選択肢は定期的に購買する消費財に適していることでしょう。
■オンラインで注文したアイテムを店舗で返品する – 日本の商慣習では、商品に瑕疵がない限り返品は難しいのですが、米国において返品は比較的寛容なようです。キャンプ用品を購入した人が、キャンプで使用した後に返品したという話を聞いたことがあります(さすがにこの場合は、購入時の価格での払い戻しとはいかないようですが)。
また、同社は地域ごとの購買データから得られた動向を追跡することで、実店舗と倉庫の双方における適切な在庫量の最適化を実現しています。
業績の改善
ウォルマートと同様、ここ数年ホームデポの出店数は横ばいにもかかわらず、売上を順調に伸ばしています(2016年の885億ドル→2020年の1320億ドル)。これは、量の拡大(店舗数)から質の拡大(デジタルを活用した優れた顧客体験)への転換を意味するものかもしれません。
結果として、2016年末に135ドルであった同社の株価は、2020年末には265ドル(4年間で約2倍)にまで伸びています。
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