【環境】水素社会って本当にやってくるの?
はじめに
この数年、青と黒の2色のカラーに塗られたバスが走っているのを見かけるようになりました。ボディには大きく、「FUEL CELL BUS」と書かれています。このバス、量産型燃料電池バスと呼ばれるもので、ガソリンで走っているのではなく、水素をエネルギーにして走っています。タンクに充填した水素と空気中の酸素を化学反応させて電気を発生させ、その電力でモーターを回して走るバスです。走行時に地球温暖化ガスの二酸化炭素、さらには有害な排気ガスを排出しませんし、走行音も静かなので都市環境の改善にも有効なことから、普及が進んでいます。
自動車だけではありません。家庭用燃料電池もやはり水素です。水素をエネルギーとして使おうという動きがあります。水素社会は本当にやってくるのでしょうか。
水素ってどんなもの?
水素は「水の素」っていう言葉からもわかる通りの気体です。無色・無臭、地球上に存在する気体の中で最も軽い気体です。元素記号は「H」。水はH2O、つまり二つの水素が一つの酸素と結びついてできたものです。
水素は使用したとき、温室効果ガスを排出しませんし、電力を貯蔵しやすく、また熱を発生させることもできるといった特徴があり、クリーンなエネルギーと呼ばれています。環境負荷低減という観点から、水素をエネルギーとして活用する水素社会の構築を進めようとしているわけです。
政府は2017年に再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議で、世界に先駆けて水素社会を実現するための「水素基本戦略」を決定しました。この戦略は2050年を目指してのもので、水素調達の低コスト化や再生可能エネルギーから水素への変換技術を実用化することなどが打ち出されています。
Power to Gas技術は再生可能エネルギーを水素に
ところで、この「水素基本戦略」における戦略の一つが「再生可能エネルギーから水素への変換・貯蔵」です。これはどういうことかというと、太陽光発電や風力発電で作った電気を使って水を分解して水素を作り、水素の状態で貯蔵するということなのです。太陽光発電や風力発電は気象条件によって、発電量が増えたり、減ったりします。ですから、発電した量を使いきれない場合、電力を貯蔵しておく必要があります。
これまでは蓄電池などを使っていますが、水素で貯蔵するということも進めていこうということ。これが「Power to Gas(P2G)」という技術です。水素の状態で貯蔵し、必要な時に貯蔵している水素で発電することができます。
商用水素ステーション
水素をエネルギーとして活用しているのが自動車です。「FUEL CELL BUS」のほか、自家用の車両、 FCVも販売されています。FCVとしてよく知られているのはトヨタのMIRAIでしょう。FCVに燃料となる水素を充填できるのはガソリンスタンドとよく似た施設で「H2」のマークがついている水素ステーションです。2022年1月現在で、首都圏に58箇所、中 京圏に45箇所、関西圏に19箇所、九州圏に14箇所、その他21箇所の計157個所に設置されています。
水素自動車に燃料としての水素を充填することができる水素ステーションをどれだけ用意できるかが水素社会の実現のカギになっています。
エネファームも水素で電気エネルギーを
ガス会社などが販売している家庭用の燃料電池のエネファームはガスを燃料にして発電するのですが、これも実は水素を使っています。エネファームは、都市ガスやLPガスから取り出した水素を空気中にある酸素で化学反応させて、電気を作り出しています。このとき、同時に熱も発生するのでお湯を沸かし、給湯などに利用します。エネルギーを無駄なく使えるのです。
まとめ
政府は「水素社会の実現」を目標に掲げています。2022年2月、福岡市とトヨタ自動車、Commercial Japan Partnership Technologiesは、水素社会の早期実現に向け、共同で、相互に連携した幅広い取り組みを推進していくことに合意し、その第一歩として燃料電池車両の導入に向けた検討を開始しました。水素を「つくる」「はこぶ」「つかう」という一連のサプライチェーンに関する技術開発や実証を行っていくと発表しています。
政府が掲げた水素基本戦略は2050年が目標です。あと28年、どこまで進むことになるのでしょうか。日本は水素社会を構築することができるのでしょうか。実現できるかどうかは水素を利活用できるよう、水素の調達や製造などにおけるより一層の低コスト化実現がカギとなるのではないでしょうか。
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