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地銀の仕組み金融戦略

仕組み金融の魅力

最近、地銀がストラクチャードファイナンス(仕組み金融)に注力しているというニュースを耳にしました。この記事では、仕組み金融の概要とその魅力、そして成功のためのポイントについて解説します。私自身、地銀の取り組みを見て感心し、他の企業でも再現可能な方法を考えてみました。

仕組み金融とは

まず、仕組み金融について簡単に説明します。仕組み金融は、融資先の事業の将来的な収益性を基に融資を行う手法です。通常の融資とは異なり、プロジェクトファイナンスやLBOローンなどが代表例です。この方法では、再生可能エネルギー不動産などの資産が生み出すキャッシュフローを裏付けに融資を行います。

プロジェクトファイナンスとは

特定の大規模プロジェクト(例えば、インフラストラクチャーの建設やエネルギープロジェクトなど)を実施するために必要な資金を、そのプロジェクト自身が生み出すキャッシュフローを担保として調達する金融手法です。この手法では、プロジェクトの資産や収益が直接返済の源泉となり、プロジェクトのスポンサー(通常は企業)の財務状況とは独立しています。

プロジェクトファイナンスの特徴には以下のようなものがあります:

オフバランスシートファイナンス: プロジェクトファイナンスは、プロジェクトを行う企業のバランスシート外で行われることが多いです。これにより、企業はプロジェクトのリスクを自社の財務状況から分離できます。

非リコース貸付: 融資はプロジェクトのキャッシュフローにのみ依存し、プロジェクトが失敗した場合、貸し手はプロジェクトのスポンサーに対する追加の責任を求めることができません。

リスクの分配: プロジェクトファイナンスでは、プロジェクトに関連する多くのリスク(建設リスク、運営リスク、市場リスクなど)が、関係者間で適切に分配されます。

複雑な契約構造: 多数のステークホルダー(貸し手、投資家、政府機関など)が関与するため、プロジェクトファイナンスは複雑な契約と法的構造を伴います。

プロジェクトファイナンスは、初期投資が大きく、長期間にわたる収益性が見込まれるプロジェクトに適しており、エネルギー、インフラ、採掘、通信などの分野で広く利用されています。

LBOローン(レバレッジド・バイアウト・ローン)とは

企業買収の資金調達手段の一つで、買収対象企業の資産やキャッシュフローを担保として借り入れを行うローンのことを指します。LBO(レバレッジド・バイアウト)は、主に以下のような特徴を持ちます。

高いレバレッジ:LBOでは、買収資金の大部分を借り入れで賄い、自己資金の割合を低く抑えることで、少ない自己資金で大規模な買収を行うことが可能になります。

担保の利用:借り入れの担保として、買収対象企業の資産や将来のキャッシュフローが利用されます。これにより、買収者は自らの信用力だけでなく、買収対象企業の価値をもとに資金調達を行うことができます。

リスクの分散:買収者は、買収対象企業の収益力を活用して借入金の返済を行うため、自己資金のリスクを分散させることができます。

高いリターンの可能性:成功すれば、少ない自己資金で大きなリターンを得ることが可能です。しかし、借入金の返済が滞ると、買収対象企業や買収者自身が財務的に困難な状況に陥るリスクも存在します。

LBOは、プライベート・エクイティ・ファンドや投資ファンドによる企業買収でよく用いられる手法です。買収後の企業のキャッシュフローを利用して借入金を返済し、企業価値の向上を図ることが求められます。

地銀の取り組み

群馬銀行滋賀銀行などの地銀は、この仕組み金融に大きく注力しています。群馬銀行は2023年3月期には647億円だった残高が、この1年で倍増し、1307億円に達しました。滋賀銀行も、24年3月期の1200億円から、29年3月期には3000億円まで拡大する計画です。これらの地銀が仕組み金融に力を入れる背景には、高い利回りがあります。

高利回りの魅力

通常の貸出金利が1%前後であるのに対し、仕組み金融では2~3%、LBOローンでは3~5%の金利が取れるため、地銀にとって非常に魅力的です。大和総研の内野逸勢・主席研究員も、「効率的に自己資本利益率(ROE)を上げるために仕組み金融に注力する地銀が増えている」と述べています。

自己資本利益率(ROE: Return on Equity)とは

企業が株主から預かった自己資本をどれだけ効率的に利益を生み出すために使っているかを示す指標です。ROEは、企業の収益性を測るためによく使われる比率の一つで、以下の式で計算されます。

ROE(%)=当期純利益 ÷ 自己資本 × 100、またはROE(%)=EPS(一株当たり利益)÷ BPS(一株当たり純資産)× 100。

ここで、
純利益は、企業が1年間に稼いだ利益から税金や利息などの費用を差し引いた後の利益です。

自己資本は、企業の総資産から総負債を差し引いたもので、株主からの出資や過去の純利益の蓄積によって構成されます。

ROEが高いということは、企業が株主からの資本を効率的に利用して高い利益を上げていることを意味し、経営効率が良いと評価されます。逆に、ROEが低い場合は、自己資本に対して利益が少ないため、資本の使い方が効率的でないと考えられます。

投資家は、ROEを用いて企業の投資魅力を評価することが多く、特に長期的にROEが高い企業は、安定した収益性と良好な経営状態を維持していると判断されます。ただし、ROEだけで企業を評価するのではなく、他の財務指標や市場環境なども考慮に入れることが重要です。

成功のポイント

仕組み金融で成功するためのポイントは以下の通りです。

  1. リスク管理:高い利回りが魅力ですが、その分リスクも大きいです。適切なリスク管理体制を整えることが重要です。金融庁もこの点を重視し、モニタリングを強化しています。

  2. スキームの精査:山陰合同銀行のように、案件ごとにスキームを精査し、厳選することが求められます。滋賀銀行も、融資対象や年限、外貨建てなどの分散を図っています。

  3. 規制への対応:2025年3月から本格導入される国際的な資本規制「バーゼル3」に対応するため、リスクウエートの引き上げに備える必要があります。

バーゼルIIIとは

国際的な銀行規制の枠組み
であり、2007年から2008年にかけて発生した世界的な金融危機を受けて、以前のバーゼルI、バーゼルIIの規制を改正・強化したものです。この規制は、バーゼル銀行監督委員会によって策定され、銀行が持つべき最低限の資本比率を定めることで、銀行のリスク管理能力を高め、金融システムの安定性を向上させることを目的としています。
バーゼルIIIの主な特徴は以下の通りです:

資本比率の強化:バーゼルIIIでは、銀行の自己資本比率をより厳しく規定しています。具体的には、コアTier1資本比率(銀行の最も信頼性の高い資本の比率)を引き上げ、金融危機時にも銀行が十分な資本を保持できるようにしています。

レバレッジ比率の導入:資産に対する自己資本の比率を制限することで、過剰なレバレッジ(借入れ)によるリスクを抑制します。

流動性規制の導入:銀行が短期的な資金需要に対応できるよう、流動性カバレッジ比率(LCR)と安定資金比率(NSFR)の二つの基準を設け、銀行が一定期間の資金不足に耐えうるような流動性の確保を義務付けています。

サイクリカルバッファーの設定:経済が好調な時にはリスクを抑制し、逆に経済が不調な時には銀行が貸し出しを継続できるよう、追加的な資本バッファー(資本の余剰分)を設けることで、経済サイクルに応じた柔軟な資本規制を実現しています。

バーゼルIIIは、各国の銀行が直面するリスクに柔軟に対応できるように設計されており、銀行がより堅固な財務基盤を持ち、将来的な金融危機に対する耐性を高めることを目指しています。各国はこの規制を国内法に取り入れ、段階的に実施しています。

他社での再現

地銀以外の企業でも、仕組み金融の成功を再現するためには、上記のポイントを押さえることが重要です。特に、リスク管理規制対応は欠かせません。また、融資先の事業収益をしっかりと評価し、安定したキャッシュフローが見込めるプロジェクトを選定することが成功の鍵です。

結論

仕組み金融は高い利回りを狙える一方で、リスクも大きいため、適切な管理が求められます。地銀の成功事例を参考にしながら、他の企業でも同様の手法を取り入れることで、効率的な資金運用が可能になるでしょう。

ストラクチャードファイナンス(仕組み金融)の代表的な失敗事例

1. サブプライム住宅ローン危機(2007-2008)

サブプライム住宅ローン危機は、ストラクチャードファイナンスの失敗が引き金となった最も有名な事例です。具体的には、サブプライムローン(信用力の低い借り手向けの住宅ローン)が担保として使用されたモーゲージ担保証券(MBS)やコラテラライズド・デット・オブリゲーション(CDO)といった複雑な金融商品が大量に発行されました。

  • 問題点: サブプライムローンの借り手が返済不能となり、これらの証券の価値が急落しました。複雑な仕組みにより、リスクが広範囲に分散され、どの金融機関がどれだけのリスクを抱えているのかが不透明でした。

  • 結果: 多数の金融機関が巨額の損失を被り、リーマン・ブラザーズの破綻や世界的な金融危機を引き起こしました。

2. エンロン事件(2001)

エンロンは、エネルギー企業としての業績を粉飾するために、ストラクチャードファイナンスの手法を悪用しました。

  • 問題点: エンロンは、特別目的事業体(SPV)を設立して負債をオフバランス化し、実際の財務状況を隠しました。これにより、投資家や規制当局を欺き、株価を不当に高く保ちました。

  • 結果: 企業の実態が明るみに出ると、エンロンは倒産し、多くの投資家や従業員が大きな損失を被りました。

3. アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)のCDS問題(2008)

AIGは、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)という金融商品を大量に引き受けていました。CDSは、債務不履行リスクを他の投資家に転嫁する保険のようなものです。

  • 問題点: AIGは、リスク管理が不十分なまま膨大な額のCDSを引き受けていたため、サブプライムローン危機により大量の保険金支払い義務が発生しました。

  • 結果: AIGは巨額の損失を被り、最終的には米政府からの大規模な救済措置を受けることとなりました。

これらの事例は、ストラクチャードファイナンスが持つ潜在的なリスクと、その管理の重要性を如実に示しています。複雑な金融商品は高いリターンを生む可能性がある一方で、そのリスクも同様に大きく、適切なリスク管理が求められます。

引用: 2024/06/05 日本経済新聞 朝刊 8ページ 1


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