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ビヨン酢少女とただのデッキブラシ

私は幼少期から夢見がちだった。

どんな自分になるかワクワクしたもの

とにかく影響をすぐうける。

たとえばバレーボールの世界大会で日本女子チームが活躍する(大林素子さんの時だったかな!)シーンがテレビで放送されるとその歳の将来の夢はバレー選手だったり。

モトコスペシャルの真似をしていた


セーラームーンが流れればそれはもうもう!セーラームーンになりたがり、ナタ・デ・ココが流行ればお菓子屋さんになりたがったり。

おどりのひと。なんの影響(笑)

とにかく影響を受けやすい。
そんな秋の空のような影響の受けやすさは小学生4年生辺りまで長く続いた。そんな少女時代であった。

しかし。

 夢見る少女じゃいられないようになったのは
小学4年生のある事件だった。

うちの家は中二階立ての不便な家だった。
台所は車庫の上にあった。なのでリビングから伸びた急な階段は台所へ繋がっていた。

台所の窓から瓦でできた車庫の屋根に出られる仕様だった。
よくそこから星を見るのが大好きだった。

丁度良い大きさの屋根で瓦がひんやりして気持ちいい

金曜ロードショーで【ジブリ】作品は欠かさず見た。とにかくあの世界観が今も私は大好きなのである。なので当時はもちろん見た日は影響がバリバリ受けているわけです。

となりのトトロに会いたいからドングリを植えてみたりオカリナないから夜に屋根の上でリコーダー吹いてみたり。(田舎で周り田んぼでよかった!!!(笑))
ラピュタをみたら飛行石が欲しくてその辺の石を青く塗って紐付けて首からぶら下げ神社のスズメに向かってバルス!!と唱えたり。
ナウシカ見たらあの飛行するのに乗ってみたくて平行棒で真似したり。(ガリマッチョやったんです)
まぁとにかく私の乙女心ワシャワシャするくらい刺激を受けたのです。

広がる妄想!止まらぬ熱情!

とくに刺激を受けたのは【魔女の宅急便】でした。

黒いワンピースに赤い大きなリボン。
黒猫をつれてホウキで空を飛んで旅をする。
ラジオをつけて少し大人の世界へいく。

『落ち込んだりもしたけど私は元気です。』

そんな世界観がすごくすごくすごーーーく!!

憧れた!!!!!!!!!!!!!!!!!!

どの作品よりも大好きだった!!!

それを見た日は眠れないくらい興奮した。

あわーい紫の風呂敷を引っ張り出して頭に巻いて、黒いワンピースは無いので姉の制服のスカートを拝借して 布団にすっぽり潜り込んで妄想再現をしたものだ。

(次の日制服がシワシワなので姉にボコボコにされてもやめられなかった!!!(笑))

そんなそんなで過ごしたある日である。
魔女の宅急便をみた次の日が家に誰もいない日だった。 この頃は(町内のビンゴ大会やくじ引きの引きが強くて)自分は魔法を使えるかもしれないと思っていた。←

竹ホウキが家には無かったが、うちの玄関はレンガを埋めたようなタイルなのでデッキブラシで洗うため家にあったのだ。なのでよくそのデッキブラシにまたがって掃除の邪魔をしたもんだ。母ケイコに「振り回して壊したらダメやぞ」なんとも言われていた。

主人公のキキはデッキブラシで空を飛んだ事実があるので私も出来るんじゃないかと車庫の中からデッキブラシを引っ張り出してそれにまたがり、念を込めた。

ぐぬぬぬぬっと息を止めて 顔が真っ赤になっても念を込め続けた。

が。


どうにもならない。

毛がぶわっとしないのだ。
おかしい。

キキができてわたしにはできないのか。

しかし。閃いてしまったのだ。

…高いところからジャンプすれば飛べるかもしれない。と。


私はデッキブラシをもち、車庫の屋根へと続く大好きな台所の小窓からでたのだ。

きっと1回きりになるような気もしていたので、黒じゃないけど青のワンピースと風呂敷リボンは装備して黒い瓦の上に立ったのだ。

風がいつもと違う気がした。

キキも家を飛び立つ時風が強かった。

ザワワザワワと庭の草が揺れた。

私は慎重にデッキブラシに またがり屋根の端へ立った。

下を向いちゃダメ…女の子はほんの少しの勇気で変わるの。


深呼吸して…


念を込めて…

風をよみ取って…




ピョーン!!!


ビヨン酢少女 車庫の屋根から大空へ…

ではなくそのまんま落下。
畑に落下。


スローモーションにもならず、
飛んだ感覚も無いまま落下した。

ぴょん飛んで瞬きした瞬間には 土の香りと頬に草の湿り気。そしてジンジンとした強烈な痛み。

何が起きたか分からないはずがない。
落ちたのだ。

理解した瞬間 私は主人公のキキにはなれない。
思い知ったのだった。その悲しみと強烈な痛みに涙がボロッボロ溢れた。

ゆっくりと起き上がるとデッキブラシのブラシの部分がボキリと折れていた。

デッキブラシのこと母ケイコに叱られる。

そうおもってどうにか治さなければと思って立ち上がろうとした瞬間 右足にピキーーーンとした痛みが走った。

痛みは歯の神経まで伝わるくらい痛くて鋭いものだった。

しかし。周りに助けてくれる人はいない。

折れたデッキブラシと立ち上がれない私。

どうしようもないまま そのまんま寝転んで飛びたかった空を見上げた。

大きな白い雲がゆっくり流れていた。
私の目からゆっくり暖かいものが流れていった。

足は痛いし肘も擦りむいて痛い。
拳もボロボロ。ズタボロ。

「なにやってんだろう…わたし。」

そう思ってしまった。
バタンと扉がしまったような。二度と開くことない扉。コナンくんの扉くらい重厚な扉が閉まる音がした気がした。
ここでわたしの夢見る少女時代は終わりを迎えるのだ。

私はゆっくりと目を閉じた。

草がさわさわ揺れる音。
ドクンドクンと心臓が右足にあるかんじ。
もう…どうしようも無いから…。

…ただ寝た。←

そのあと畑作業にきた じーちゃんに見つかり
「ビヨが畑で倒れとる!!」と一輪車にクワと大根と一緒に乗せ近くの病院へ運ばれた。

手押し車・ねこ車とも呼ばれてるあれ。


捻挫と打撲擦り傷。全治3ヶ月程度ですんだが、怪我した理由を伝えたら親族一同からフルボッコで叱られたり呆れられたりしたのだった。

あんなに囲まれてあいやあいや言われたのははじめてだった。かごめかごめな気分。

しかし、その日は正月以来の集まりになったのでそのまんま宴会になったのだった。

私たち子供たちはマリカー対決だった。

体ごと運転する私は ビリけつでこれまた号泣したのであった。

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