見出し画像

アニメでは、なぜ女性声優が少年を演じるかを論じた研究書

【読んだ本】
◆石田美紀(いしだ みのり)『アニメと声優のメディア史――なぜ女性が少年を演じるのか』(2020、青弓社)
+-+-+-+
 

目次
とある仕事の資料になるのではないかと借りてみた。
目次は以下のとおり。
 
序 章 少年役を演じる女性声優――リミテッド・アニメーションと声
第1部 少年役を演じる女性声優の歴史
第1章 連続放送劇と民主化
 第2章 子どもを演じること――木下喜久子と『鐘の鳴る丘』
 第3章 他者との同期――1950年代テレビ黎明期における声の拡張
 第4章 アニメのアフレコにおける声優の演技
 第5章 東映動画という例外――1950年代末から60年代の子役の起用 
第2部 ファンとの交流と少年役を演じる女性声優
第6章 アニメ雑誌とスター化する声優――1970年代の変化
 第7章 声優とキャラクターの同一視――1980年代の新人声優たち
 第8章 「萌え」と「声のデータベース」――1990年代における
                キャラクターの声
 第9章 「萌え」の時代に少年を演じること
 第10章 受け継がれていく「ずれ」と「萌え」――キャラクターに
                  仮託された理想
補論  アニメ関連領域から再考する少年役を演じる女性声優
おわりに

占領期からの掘りおこし
副題の「なぜ女性が少年を演じるのか」という問いは興味深く、知ってみたいことだった。それに対する記述は、子どもの就業・雇用規制が戦後さだめられ、年少者修学のため夜間の子役のあつかいが検討されたことに端を発するという歴史的経緯だった。この内容は、戦災孤児を取りあげたラジオドラマ『鐘の鳴る丘』を例に論じられた第2章にくわしい。『鐘の鳴る丘』は、練馬区豊玉第二小学校の童劇部シロバトが『こども風土記』『子供の時間』、学校放送などで活躍していたことから依頼され出演して評判を呼んでいたが、大阪の浮浪児役が東京の子にはむずかしいということから、声優を専門とする木下喜久子が起用されたという(48-49頁)。
収穫はこれに先立つ第1章で、占領下でのラジオの立て直しを論じるにあたり、戦前・戦時下のラジオドラマに関する言及もあることだった。1925年9月に東京放送劇団としてラジオドラマ研究生12人が選ばれ、これが「声優第1号群」だったこと(34-35頁)、1939年10月の新人テストを経て1941年6月、30人が東京放送劇団1期生としてJOAKの俳優養成所に採用され、これが「声優第2号群」で実践に向けて待機していたこと(35頁)などが紹介されていた。おそらく、この第2号群の話は、国民学校放送に関する公刊予定の拙論文にリンクしてくる。

いろいろ拾える論稿
紙芝居実演で強い印象をのこした右手和子さんには、お目にかかったことがある。実は私が編集担当したある紙芝居を、非常に評価してくださった。彼女が1956年、アメリカの連続アニメを日テレで放送されたときに吹き替えをしたという(67頁)。そういうかただったとは知らなかったため、驚いた。ほかにもアフレコとアテレコの事情など、拾える面白い知識が多かった。
本書の議論の中心はジェンダー、セクシュアリティ、エロチシズムにあり、上のような私の受容はちょっとずれているだろうけど、何が拾えるかなという読み方だったから申し訳ない。
それと、著者の所属である新潟大学には渡部コレクションほかアニメの中間素材が多く寄託されて研究拠点になっている(現在は「アジア連携研究センター」)ということに、いろいろ考えさせられた。アーカイブという形での史料の継承と、その研究の継承について。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?