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"後半に行けば行くほどエモが増していく""細部に至るまで美意識が行き届いている" 映画ライターSYOさんが徹底解説‼ 映画『林檎とポラロイド』

第77回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門オープニング作品として選出され、さらにケイト・ブランシェットが作品に惚れ込み完成後にもかかわらず、エグゼクティブ・プロデューサーに名乗りを上げたクリストス・ニク監督のデビュー作『林檎とポラロイド』が3月11日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開となります!
公開に先立ち、2月22日(火)ヒューマントラストシネマ有楽町にて、一般試写会を行いました。本編上映後には、数々のメディアでご活躍されている映画ライターのSYOさんをお迎えし、本作の魅力について、そして散りばめられた監督の拘りについてたっぷりと語っていただきました!


本作の海外版ポスターを見つけたときから、「おしゃれで気になっていた」というSYOさん。ケイト・ブランシェットが、作品完成後にエグゼクティブ・プロデューサーに名乗りを上げたという異例の経緯や、クリストス・ニク監督がヨルゴス・ランティモス、リチャード・リンクレイターら名監督の助監督を務めていたこともあり、注目していたそう。

実際に鑑賞してみて、「すごく良かった。全部が素敵」と絶賛の感想が。「とても余白がある映画。質感や世界観がとても素敵ですし、上映時間が90分という見やすさもある。設定が面白いというのはもちろんありますが、上品さや洗練された感じというか、ひとつひとつの小道具・調度品の細部に至るまで美意識が行き届いていました。」とヴェネチア国際映画祭で脚光を浴びた本作の魅力を語った。
記憶にまつわる物語を描くなかで「スマホやPCという記録・記憶媒体をいかに排除するかという問題は現代のつくり手にとってすごく大事」とした上で、説明もなく自然にこの世界を受け入れさせる本作は「冒頭からの世界観の構築というところが大きい」、「私たちが映画やドラマを見るときってすごくノイズにさらされている時代。大量のコンテンツを日々消費しているからこそ感じる、‟これがない、こういう設定か”などということを、本作では意識させられることがない。それだけでもすごい映画だなと思います」。

ヨルゴス・ランティモス、リチャード・リンクレイター…名監督たちから受け継いだものと独自性


今回が長編デビュー作となるニク監督は84年生まれ。「この年齢でこんな作品を作れるなんてすごい」と感嘆の声をあげながら、過去に助監督を務めているヨルゴス・ランティモス監督からは「日常を描いているんだけどどこか奇妙な世界の構築の仕方」、リチャード・リンクレイター監督からは「淡々とした日常の積み重ねを観察する視点のようなもの」に影響を受けているように感じるという。「ただ、例えばランティモス監督の作品にはある種の過激さというのがあって、ニク監督はよりマイルド、よりポエティックな感じがします」とも。「他にもスパイク・ジョーンズ監督(『her/世界でひとつの彼女』〔13〕)や、チャーリー・カウフマン監督(『脳内ニューヨーク』〔08〕『エターナル・サンシャイン』〔04/脚本〕)がお好きだというのもすごく伝わりました。独自性というものもすごく感じましたが、前出の監督たちがお好きなのであれば僕のすごく好きなマイク・ミルズ監督、そしてさらにはソフィア・コッポラ監督もお好きだろうなとか、そういった流れは感じますね。めちゃくちゃ趣味が合うなと思います(笑)」とニク監督へのシンパシーを語った。

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後半に行けば行くほどエモが増していく作品


本作の特徴であり、SYOさんも「好き」と明言している“モノローグがない”という点については「観る側が能動的に作品に参加することが可能になる。解釈・考察を能動的にすることで、自分の作品になる。“自分はこう思う”とすることによって、よりパーソナライズされていく良さがある」とコメント。「(観る人によって感想を好きに持っていいというのが)ある種の多様性ですし、現代だったら作品の楽しみ方として、SNSで考察が捗る作品でもあると思いますしね。SNSやスマホの存在が排除されたアナログな世界観の本作でそういったことがなされるのは、逆説的でもありますが」。
さらには、監督が本作へ散りばめた哀しみの要素についても「後半に行けば行くほどエモが増していく作品ですよね」と言及。さらには『ユージュアル・サスペクツ』〔96/ブライアン・シンガー監督〕を引き合いに「主人公が何かしらの嘘を抱えているんだろうなという目線もカバーしている。伏線というか、ヒントのようなもののまぶし方が絶妙です」と述べた。
アイテムの使い方も上手。林檎に限らず果実というものはすごく意味を持ってきます。ほかにも机・椅子・キッチン…ここに住みたいと思いませんか?(笑)照明も基本的に間接照明ですごく良いです。(ポラロイドを意識した画角や、はっきりとしない淡さを持った色彩感も相まって)ディストピアではあるのだけれど、この世界に行ってみたい。」とさらなる魅力を語った。
「記憶」というテーマについては、「最近の作品では『ファーザー』〔20/フロリアン・ゼレール監督〕や、『選ばなかったみち』〔20/サリー・ポッター監督・公開予定〕が思い浮かぶ」と述べつつも「本作のようにも、『メメント』〔00/クリストファー・ノーラン監督〕のようにも扱うことができる」とジャンルの幅の広さについて述べた。

圧倒的にパーソナルな生活に集約されている物語


好きなシーンは「全部」というSYOさんがこの作品で面白い、と感じたのは「世界的なパンデミックのような世界でも圧倒的にパーソナルな生活に集約されている点」。「出て来る医師やその治療法もとてもアナログ感にあふれていて、そこに可愛らしさがありますよね。監督が、InstagramやTikTokなどのSNSに関わりのないような世代ではないのにも関わらず、敢えてやっているというところもまた良いと思いました。

最後に、「いまのような状況下で、こういった作品が映画館で見られるということへの感謝をすごく持っています。映画をご覧になった方おひとりおひとりの声というのが、まだ観ぬ誰かの鑑賞欲を誘発する力になっていくと思います。力を貸してください!」と映画業界全体の盛り上げを祈って締めくくり、会場からは拍手が沸き起こった。

イベント写真①

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記憶喪失を引き起こす奇病が蔓延する世界――。
それでも男は毎日リンゴを食べる。


「お名前は?」「覚えていません」——。バスの中で目覚めた男は、記憶を失っていた。治療のための回復プログラム「新しい自分」に男は参加することに。毎日リンゴを食べ、送られてくるカセットテープに吹き込まれた様々なミッションをこなしていく。自転車に乗る、ホラー映画を見る・・・——新たな経験をポラロイドに記録する。ある日、男は、同じプログラムに参加する女と出会う。言葉を交わし、デートを重ね、仲良くなっていく。「新しい日常」に慣れてきた頃、男は以前住んでいた番地をふと口にする・・・。新しい思い出を作るためのミッションが、男の過去を徐々に紐解いていく。

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監督:クリストス・ニク 脚本:クリストス・ニク、スタヴロス・ラプティス 撮影:バルトシュ・シュフィニャルスキ 編集:ヨルゴス・ザフィリス
出演:アリス・セルヴェタリス、ソフィア・ゲオルゴヴァシリ 2020年/ギリシャ=ポーランド=スロベニア/カラー/スタンダード/5.1ch/90分/原題Mila
配給:ビターズ・エンド

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3月11日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、

新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!


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