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『PERFECT DAYS』ロングラン御礼ティーチイン イベント

この度、公開後半年が経った今もなお、多くの観客が劇場に詰めかける『PERFECT DAYS』ロングラン御礼ティーチインイベントを実施いたしました!

公開から半年経った平日の夜にも関わらず会場はほぼ満席の大盛況。映画評論家の森直人氏が聞き手として参加し、高崎卓馬氏が登壇した。昨年12月の公開よりロングラン上映している本作、繰り返し鑑賞する="おかわり"現象が増えており、来場者の中には20回以上という方も。
ほか、半数の方が複数回の鑑賞をしており、観客からの深い作品愛が伺えた。 ヴィム・ヴェンダース直撃世代から見た監督、そして『PERFECT DAYS』初めの話題は1980年頃のミニシアターブームを経験した二人にとっては偉大な存在であるヴィム・ヴェンダース監督について。
高崎は「とてもユニークな存在。今まで見ていた映画とは違う文法で作られていて、映画が”時間を写しとる装置“だと教えてくれた」と当時を振り返った。続けて「(監督は)物語を追わない。世界をそのまま映画のなかに切り取るという叶わぬ夢に立ち向かうロマンチスト。ピュアでナイーブで。そこに一番影響を受けてきた。」と監督への憧れを熱く語った。
続いて森も、「本作を観て一番驚いたのが、すごくヴェンダースの味が濃いなと。近年のヴェンダースにはない初期のロードムービー三部作 (『都会のアリス』『まわり道』『さすらい』)のような。きっとそれは監督の真のファンでもある高崎さんのおかげかなと思いました」と返した。
それに対し高崎は「僕は彼に導かれただけでした。好きだから嫌われたくなくて、自分の細胞のなかにあるすべてのヴェンダースの記憶を蘇らせながら、必死にやっていました。ずっと彼の横にいられるのは、本当に特等席でした」と答える。

続けて撮影時の監督について、「ヴェンダース監督は当然日本語がわからないので、その部分は僕が補って、完璧なツールになることを意識しました。自分を出すとかぶつけるとかそういう意識はなく、監督が今の日本をどう見つめるのか、そのためのレンズのひとつ、として徹しようと思っていました」と振り返った。

その後、観客からの質問に高崎が答えるティーチインへ。たくさんの手が挙がる中、初めの質問者から「祖父がヴィム・ヴェンダース監督のドキュメンタリー映画『東京画』に出演しています」と驚きの前置きが。名カメラマン・厚田雄春氏を祖父に持つ方の登場に高崎、森両氏も思わず前のめりに。会場がざわめくなか、「監督がリスペクトしている小津安二郎さんを意識した点は?」という質問へ。
小津監督作品の笠智衆の役名にも共通する、主人公の“平山”というネーミングに関して、実は本作の“平山”は小津作品のことを初めは意図していなかったという。「シナリオの打ち合わせのときヴェンダース監督が、それまで資料には”男”と書いていた主人公のことを”そろそろ僕たちは、彼の名前を知ってもいいかもしれない”と言ってきて。それで僕が考えました。
「東京はある種、歪な場所で。たとえばあのスカイツリーとあの下町が同居する。そういう対比を見たときにどういう反応をするのか、自分がいる世界をどう感じるのかとても興味がありました。だから進化とそうでないもの、みたいな対比のある場所をよく見てもらっていたんです。
そのときのことを思い出して、対比ということから平らな山で、平山と名づけました。それが、小津作品で笠智衆さんが演じる主人公の苗字だとはそのときは忘れていて。あとで東京物語をぼんやり見直しているときにあ!となって」。
そのエピソードに会場からも驚きの声があがり、森が「潜在意識に”平山“がはいっていたのかもしれませんね」と返すと、「監督にすぐメッセージ送ったら「WOW!」と。それ知らずにつけてたのか!?という感じで」。と高崎が答えると会場は笑いに包まれた。

小津監督の影響についてはさらに言及が。「後から考えると”小津だな”と思う場面は多々あるのですが、表面的にそうしたみたいなことはひとつもありません。でも一番は“繰り返す”ということではないでしょうか。同じことを繰り返と、そこに起きた小さな変化を自ずと大きく感じることになる。
気づくこととか、感じることの大切さをいつのまにか映画に教えられる。映画は小さいな見逃しそうな大切なものを、大きくみせてくれる装置でもあると思っています」と高崎は答えた。
ただ監督は作っているときはそういう解説的なことを言わなかったそう。たとえば映画のテーマについて尋ねると、「それを言葉にしてはいけない。言葉にできるなら映画はいらない」と叱られたと。
「現象として追っていく、対象を観察して切り取っておいていくことで何かが浮かび上がることを映画と呼ぼう。自分たちが物語のプロットを書いてそれ通りに人を動かして作っていくのは、どこか不遜である」と監督に言われたという話も。

 役所広司のアイディアから生まれたワンシーン「代々木八幡にあるトイレ清掃のとき、平山が鳥居にお辞儀したのはヴェンダース監督の考えなのか」という質問に対しては、「役所広司さんのアイディアで、役所さんの自然な所作だと思います。役所さんはもう平山という存在そのものでしたから。ある意味役所さんが半分くらい脚本を書いたといっても良いくらいです」と答えた。また、「監督は、日本人が見ておかしくないようにしたいとよく言っていました。ときどきSNSで”やっぱり外国人の監督から見た日本だから・・・“というような感想を見かけますけど、それは全部僕の判断ミスが原因です」と笑いを誘った。

ちなみに本作のタイトルは、はじめはずっと「PERFECT DAYS/KOMOREBI」だったそう。高崎は「”KOMOREBI”だけになりそうな時があり、外国にはない言葉なので監督は良いなと思っていたそうだけど、僕はPERFECT DAYSがいいなと思っていた」と吐露。
「でも完成間際に “この男の日々をPERFECT と決めてしまっていいのか」と監督に言われたそう。その後話し合いをしていくなかで「これは決めつけではなく、問いかけなんじゃないか。あなたはどう思うのか?と映画が問いかけている」となってこれに決まったと映画タイトルが決まった背景を話した。そして「10年たってこの映画をあらためて観たときにその問いかけにみなさんがどう感じるかとても興味があります」、と話した。
また、映画が生まれる背景について、ヴェンダースと高崎が過ごした約2年間をふりかえった本 「WIM WENDERS PERFECTDAYS DAIARIES “ AGAINST THE LIGHT”逆光(リトルモア)」と、初公開のドキュメントが収録されたDVD・Blu-rayについてその内容を少しだけ会場のみなさんに披露した。(両方とも7月26日(金)に発売予定) 

WIM WENDERS PERFECTDAYS DIARIES「逆光」 7月26日(金)発売
『PERFECT DAYS』UHD/Blu-ray/DVD 7月26日(金)発売

最後に高崎から「最初に“絵や写真みたいな映画を作りたい”と監督が言っていたんです。それは、映画という起承転結があるものは一回見たら二度と見ないものが多いけど、絵とか写真ってそうではなく何度も見ることができる。何年かたってからもう一度この映画を観ると違う感覚になると思う。今感じているものと違うものを感じる、そんな時間を楽しんでいただきたい」と締めくくった。貴重な本作の裏話と、会場からのたくさんの挙手にまだまだ答えていきたいそんな名残惜しい雰囲気のなかイベントが終了した。 

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