私だけの空間

2019年4月に大学3回生になるとともに、学生アパートに引っ越した。

引っ越しは友達に頼んで、新たな家具なども実費だった。元々、大学入学時に下宿する予定だったが、なぜか母と兄も来ることになり、微糖一家は引っ越しをしたのである。それから2年経ち、私は一人暮らしをしたくて、友達の力もかりながら不動屋さんに行き、今住んでいるアパートへとたどり着いた。

最初は段ボールだらけだったが、今では良くも悪くも生活感のアパートの一室となっている。

私の家は引っ越しをするのは4回目、私は今回を含めると5回目となる。

最初の家は父が建てた家だった。小学生1年になる前にはその家を出なければいけなかったので、あまり記憶にない。

2つめの家は一番小さかったのを覚えている。2階建ての小さなアパートの一室であった。

3つめの家は一軒家が連なるところだった。1つ1つの家がアパートとして機能していた。車1台入る駐車場をはさんで家が並んでいた。

4つめの家は4階建てのアパートの一室だった。隣に住む中国人が夜な夜なカラオケをしているため、すごくうるさかったのが印象的である。

私は自分の部屋がなかった。実際は私の部屋として与えられた部屋はあったが、私だけの空間としての部屋はなかった。

兄は異性であったためか、兄だけの空間は存在していた。

私の部屋はいつも母の寝床となるか、母の部屋とすりガラス1枚の扉を隔てたところだったりと、自分だけの空間がなかった。

それほど苦労がないように思えるが、自分が気をぬける時間がないというのはなかなか大変である(私の性格も関係あると思うが)。

テスト勉強を夜遅くまでしていたら怒られたり、寝付けないときにごろごろと安眠ポジションを探っているとうるさいと怒られたり、夜トイレに起きたら怒られたり、、、母は少々神経質であったため仕方ないことかもしれない。ただどうしても夜中までアニメを見ているような兄が怒られないのはとてもやるせない気持ちになるのだ。

泣きたいときに泣けず、心配をかけまいと無理やり笑顔を浮かべることもあった。自分の好きな趣味を否定されたときに、どこで趣味を満喫したら良いか分からなかった。

兄も母も他人と過ごす時間より、一人の時間を、一人の時間より家族との時間を、という優先順位であった。私はどうしても、一人の時間や他人と過ごす時間が家族と過ごす時間よりも優先順位が高くなる時があったし、ないととてもストレスがたまった。

親と喧嘩した原因は彼氏との電話だった。彼氏はイギリスにいて時差の関係上23時頃に電話をしていた。一カ月間の留学中、初めての電話だった。

私の部屋は母親とすりガラス一枚でつながっていた。寒い中ベランダに出た。吐く息がとても白くて、パジャマの上にコートを着たのを覚えている。ベランダは兄の部屋ともつながっているため、なんとなく気恥ずかしくて小声で彼氏と話していた。

すると30分後くらいに母がいきなり窓を開け、「あんたね、さっきからうるさいんだよ!!!早く電話切れ!!!!もう寝たいのに部屋の電気もつけっぱで!!!」と怒鳴ってきた。私は本当に小声で話していなかったから、聞こえるはずはない。きっと電気が明るくて寝れなかったのだろう。いつも誇張して急に怒鳴ることがあったため慣れてはいた。きっと部屋の明かりがまぶしい、早く寝てほしい、電話をやめさせなければ、という思考回路だろう。

ただ、電話をしている相手にも聞こえるようにわざとらしく怒鳴った母が正直相当腹立たしかった。彼氏に聞こえたのも恥ずかしかった。私は「電気消しておいていいよ」と言ったら、母は電気を切って、窓を閉めて、カギを閉めた。1時間ほど鍵が開く気配はなかった。私はもうどうにでもなれと思い、ベランダに横になった。それから見かねた兄が窓を開けてくれたが、兄は「お前が悪い。早く切ればよかったのに」としか言わなかった。「声うるさかった?」と聞いた。「聞こえなかったけど。切ればいいじゃん」と返ってきた。母は寝ていた。

私は家を出た。アルバイトしてためた10万円を使って、新しい家へ。離婚した父にお願いして家賃は払ってもらっているが、家具レンタル代や水道代や電気代は自分で支払っている。

私視点では家は安心できるときもあれば、とてもストレスのかかえる場所でもあった。自分の部屋を見て、すべてが親から買い与えられた物で、それからも愛情も感じる。嬉しい。だが、それすらも窮屈に感じる。苦しい。ストレスをかかえることが当たり前と思ったり、本当に申し訳ないと思ったり。

今の私の部屋は私だけがいる空間である。買ったものも私が買ったものである。何をしても許される部屋である。私は自分が自分でいることのできる空間。

クローゼットは小さい。壁は特別あついわけではない。ベランダから隣の人が食べたであろうグミのゴミがとんできたこともある。

ただそれ以上に自分だけがいる部屋というのはとても、とても安心する場所である。

これから社会人になり、もっといいアパートの一室をかりることになるかもしれない。でも私は今住んでいるはじめて借りたこの部屋を忘れることはないだろう。

#はじめて借りたあの部屋