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DTM日和 2023年9月配信号 芸術の秋とDTM

さて暑い夏がすぎ芸術の秋が始まろうとしています。今回はアートとDTMをテーマにお届けします!

アートと電子音

 現代アートが好きなのでよく展示を見に行きます。現代アートですから自由な切り口で多種多様な作品がありますが、特に音楽が組み合わさったものなどを見ると電子音が効果的に使われていたります。もちろんピアノやギターなどの生楽器を使う作品もあるのですが自由なタイミングで自由な使い方をしやすい、という点ではサンプラーやシンセサイザーの出番が多くなるのも分かる気がします。
 現代アートでは現実社会で見てわかるものというよりは、人の内面であったり現実にはない抽象概念の様なものであったり、あるいは現実には存在するが表現が難しいものであったり、そういった物を表現する事が多いかと思います。ご存知の通りシンセサイザーもある音色だけを表現する楽器ではなく、この世に存在しない音色を作り出す事のできる楽器です。また、ピアノっぽいけどピアノではない、ギターっぽいけどギターではないという表現もできるかもしれません。

デ・キリコ

 私は若い頃からシュールレアリスムが好きで、ダリやマグリット、マン・レイなどのアーティストの展覧会をよく見たものです。それぞれの作品にはそれぞれのアーティストが本来表現したいテーマはあるのでしょうが、見る側によって本当に広い受け取られ方ができるものです。 
 特にデ・キリコの作品は子どもの頃に美術の教科書か何かで見て、心を奪われました。帰ってからも教科書を見続けていたものです。その頃の私の住んでいた地域はお世辞にも風光明媚というわけではなく、工場と団地の立ち並ぶモノクロームな街でした。そう言う意味ではキリコがベースにしたイタリアの街並みとは違うのですが、ふとした時にどこか違う世界に迷い込んでしまったかのような感覚に囚われる街でもありキリコの描く世界と通じるものがあったかと思います。

異世界

 小学生の頃だったでしょうか。いつものように友達と広場で遊んでいてそれぞれ帰途に着く時間になりました。そしてふと気づくとマンションに囲まれた広場にいるのは、私一人。子供も大人も付近を通る自動車も、鳩すらもいない、そんな一瞬が生じることが有りました。まるで吸い込まれるような、ピーンと空気の流れが止まったような気持ちになったのを覚えています。
 もちろん風光明媚ではないと言っても普通の街ではありますからその時間は長くは続きません。何秒かすると犬と散歩をしているおばあちゃんや買い物帰りの自転車、塾に行く子供達などすぐに人通りが戻ってきました。ただ子供の頃の私の脳内にはこの何秒間かが強烈に残っていたのでしょう。頭の中でちょっとした混乱が起きて、なんとも言えない気持ちで家に帰ったものです。デ・キリコを知ったのはもっと後のことですが、彼の絵を見ると今でもその時の気持ちになります。アートの持つ強い表現力の一端ですね。

アート オブ DTM

 さて、DTMをやっているあなたも私もアーティストの一員。何かを表現すること(あるいは表現しないを表現する)が目的の一つにはなってきます。
 YouTubeでは動画もつけるわけですが私の場合は先に動画のイメージがあるわけではなく、音楽を作ってそこから動画を捻り出しています。捻り出すと言っても画力だったり動画自体の制作能力の制約があります。私の場合、音楽の方が絵よりもまだマシなので、表現をするのにも一苦労です。ただ、下手であってもなるべく子どもの時の「キリコ」的な気持ちを思い出して作るようにはしています。現実感のある曲を表現する事ももちろん表現の一つですが、抽象的な、感覚的な何かを音楽に乗せていくのも一つの表現ですよね。そう言った「感覚」が何か表現できればいいなと思っています。それにしてももう少し動画制作が上手くなるといいのですが。

 今回はアートとDTMのお話でした。不思議なもので秋の少し寂しい感じは制作意欲を刺激するものです。どうぞ皆様も良いDTMライフをお過ごしください!