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次世代の品質保証の具現化。 封印した「自己実現」を40代で解いた理由

『仕事に真摯に向き合い評価も高く、41歳で部長に昇進。
でも、本当にやりたいことができているんだろうか。この年齢で変化を求めるのはわがままなんだろうか……。』

ビットキーでいま、新しい品質保証を具現化するプロジェクトを進める鈴木慶介さんは、前職時代の閉塞感をそう振り返ります。
いったん「自己実現」をあきらめてからのピボット、振り返ってもらいました。

鈴木 慶介

液晶製造大手、アミューズメント機器製造企業の品質保証部長などを経て、2020年ビットキーに参画。前職時代からの次世代型の品質保証構想を DynamicQAと名づけ、実現に向け活動を開始。

カイシャの看板外した自分に、何が残る?

鈴木さんは大学院を出た後、液晶パネルの製造大手に新卒で入社します。そして30歳で外資系の液晶ベンチャー企業へ。

鈴木:大手企業で開発環境もしっかりしていて、半年で1機種を立ち上げるほどのスピード感もある。新卒2年目でそれなりに仕事も回せるようになり、社内で表彰されることもありました。
でもその一方で、コンプレックスもありました。同期たちは海外で工場を開設したり、専門領域の研究開発に取り組んだり。自分は手に職をつけていると言えるんだろうか。「△△社の○○担当の鈴木さん」を外したら、自分には何が残るんだろうか。実感が持てないまま、モヤモヤしてました。

液晶製造のベンチャー企業から声がかかったのは、そんなころでした。
「一緒にマーケットインのモノづくりを」という誘い文句が刺さり会社を飛び出したものの、リーマンショックの余波で、10か月で企業は解散に。あの時飛び出さなければ…。鈴木さんは悔やみます。

鈴木:妻はずっと「やりたいことをやったらいい」と言ってくれたんです。でも、このころ娘も生まれて。自己実現を追い求めても、失敗すれば家族を路頭に迷わせかねない。このときから「自己実現」「やりがい」を封印し、就職先を探しました。

義母から勧められたアミューズメント機器製造の企業への入社が決まり、先端技術の液晶技術から昭和の町工場の雰囲気漂う企業へ。戸惑いながらも、鈴木さんは頭を切り替えました。

鈴木:希望した会社ではなかったことが、かえって会社や製品に寄りかからない姿勢を生みました。自分がその仕事でどれだけ成長できるかに目を向けるようになったんですね。

「次が決まるまで」のつもりだったのに

製造ラインの設計や管理の担当部署に配属された鈴木さん。
次が決まるまで、のつもりで入った会社ですが、ムダや改善点が気になり、頼まれてもいないのに改善に乗り出します。最初にやったのは、組み立てラインの改善でした。

鈴木:プライベートでも仕事でも、トライ&エラーしてきました。工夫して、効率や上達の「ビフォー」「アフター」の差が大きいほど、幸せを感じる性分です。このときも、こうすればもっと仕事がラクになるのでは、と、勝手に改善点を探し始めてしまいました。

ストップウォッチで工程ごとの作業時間を計り、課題を「見える」化させ、改善策を上司に提案しました。勘と経験に頼った仕事が「当たり前」の職場でしたから、この試みも当初は奇異な目で見られました。でも、提案が採用され、1カ月でラインの生産性が1.3倍に急増し、周りの目もガラッと変わりました。そこからさらに改善を重ねて3年後には2.4倍にまで上がりました。

その後も鈴木さんは工程設計手法のマニュアル化から主力製品の自動検査装置の企画・開発などを自ら手がけてきました。入社から10年後、品質保証部署の立て直し役として白羽の矢が立ち、41歳で部長に。

鈴木:入社以来、生産技術の部署で「ビフォー」「アフター」の成果を出してきた自負はありましたが、品質保証の仕事は勝手が違いました。

品質保証は「製品のあるべき状態を定義し、その状態にあるかどうかを確かめる」仕事です。一般的には、不良率、故障率、不良件数、苦情件数といった、製品にまつわるネガティブな指標の数値を、できるだけゼロに近づけることが目標とされてきました。
でも、そんな品質保証の「常識」に、僕は当初から違和感を抱いていました。頑張ってゼロにして結果的に何をよくしたいのか、という視点が抜け落ちている気がしたからです。

当時の会社の品質保証の指標は、僕が入社した10年前の指標や目標が漫然と使われていて、事実上形骸化していました。顧客を満足させるという視点のない目標だったら、どれだけ頑張ってもそれは「自社満足」に過ぎないのではないか、と気づいたのです。
このとき、ひらめきが生まれました。「ユーザーが満足している状態」という視点を反映した、新しい品質保証のかたちをつくってみたい、と。

部長就任の際、鈴木さんは自分が「理想」と考える品質保証を部下たちに説明しました。

鈴木:あの時、「攻める品証」という言葉で説明したのを覚えています。
従来の品質保証は、製造ラインの川下で不良品などの「失点」を防ぐ役割を担ってきた。いわば、何か起きたときのトラブルシューター的な存在ともいえる。だが、そうした「守備」だけでは勝てない。だから「攻める品証」の視点を持とう、と。

「攻める品証」を具体例で説明しましょうか。
組み立てラインで、作業員が間違った箇所に部品を取りつけるミスが起きたとします。こんなとき、防止マニュアルや取り付け位置のチェック項目を新たに設けるなど、組み立てラインでの再発防止策を講じるのが一般的です。でも、人の「注意力」に頼っているだけでは、ミスはまた起きるでしょう。であれば、製造より上流にある開発までさかのぼり、ミスが起きない製品設計という未然防止策を作ったほうが、より本質的で効果的です。

ものづくりのプロセス全体にこの視点を反映できれば、不具合の芽を早い段階で摘めるし、品質保証の領域や価値もぐんと広がっていくと考えたのです。

キャリアの折り返しの閉塞感

この視点に基づき、鈴木さんは品質保証のKPI(重要業績評価指標)に顧客ロイヤリティの指標(NPS)を加えたり、開発部門の評価に品質保証の部署がかかわる仕組みも作ります。でも、社内の理解は広がりません。閉塞感を抱えた鈴木さんは、新卒時代を過ごした企業の同期と先輩に会いに行きました。

鈴木:42歳になっていました。経済的に不自由はないし会社に恩義もある。でも、自分が描く「理想」の品質保証への道筋はつけられず、高いプレッシャーの中、製品のトラブル対応に追われていました。
やりたいことができる企業に移るべきか。懲りずにまた自己実現を求めている自分はわがままか。迷う気持ちを、誰かに話したかった。

彼らに会って確かめたいことが、もうひとつありました。もし最初の会社を辞めずにいたら、自分はどんな生活や価値観で生きていたのだろう、その手がかりを得られたら、と。

同期はやりたい仕事を実現したり、何もできない状況を打開したりすることはできずにきた、と打ち明けてくれました。先輩は「教育係をしたなかで、鈴木君ほどエネルギーや突破力のある新入社員はいなかった」と。うれし泣きしました。

クセモノぞろいの会社へ

吹っ切れた鈴木さんは11年勤めた会社を退職、退路を断って転職活動を始めます。品質保証担当者を求める会社を探すなかで偶然出会ったのが、ビットキーでした。

鈴木:グーグルマップで本社の場所を調べたら、都心のおしゃれなオフィス。こんな会社で働くなんて非現実的!と最初は思いました。
品質保証の求人メッセージも「イチから立ち上げてください」とざっくりしていて「人が足りなくて困っているんだろうな」と想像しました。

入社までに4回面接を受けました。そこでの社員の話から、この会社は製品の良しあしも「顧客の体験」で判断しているようだ、と分かってきました。自分が大事にしてきたものとあっているし、ここなら自分の理想の品質保証を実現できるかもしれない、と。

2020年に入社した鈴木さんは、製品の品質保証体制をイチから立ち上げます。

鈴木:それまでトップの意向の影響を受けやすい会社にいましたから、カルチャーには戸惑いました。自分のビジョンを強くもつその道のプロばかりだし。僕もそうですけど、正直「クセモノ」ぞろいです。

でも「顧客の体験」への姿勢はぶれないんですよね。

以前、顧客先で自社製品の不具合が見つかり、交換のために製品を再出荷したことがありました。普通だったら製造部門の人間だけで対応するトラブルでした。
でも、声をかけてないのに、営業、開発やサポート系のチーム、コーポレート部門まで、様々な部署の社員が自発的に集まり、準備や作業などにあたってくれたのです。他社ならあり得ない風景です。

温め続けてきた新しい品質保証は、ビットキーで DynamicQA(Dynamic Quality Assurance) というプロジェクトに発展、具現化へ動き始めました。

鈴木:DynamicQAは、従来の日本の品質保証とどう違うのか。従来型が、形骸化したルールをベースに、顧客価値から乖離した基準を守り続ける「受動的」(静的)だとすると、自ら破壊と創造を繰り返す「能動的」(動的)なイメージです。

特徴を2つあげると

  • 顧客のニーズの変化にシンクロできる品質保証

  • 質、コスト、納期(QCD)のそれぞれの適切なバランスを製品に反映させる

と言えると思います。
このようなプロセスの違いは、どのように製品作りに反映されるのか。
ここで、電子機器でカギの解錠や施錠ができる「スマートロック」を例に架空の事例でお話してみます。

社内では新しいスマートロックをつくるプロジェクトが進んでいます。
コンセプトは、こんな内容でした。

  • サブスクリプション方式で利用料は月数百円から

  • 欲しい機能は専用アプリから追加でダウンロード

DynamicQAの担当者もプロジェクトに加わり、品質保証の観点から様々な検証をしました。重要な検証項目の一つが「電池寿命」でした。電池切れで解錠や施錠ができなくなったらユーザーの生活に大きな支障を及ぼします。どうしても避けたいことです。
これまでの電池寿命に対する考え方は「いかに寿命を延ばせるか」という高品質化のベクトルと、「ほどほどで十分」というコストダウンのベクトルという両極端な考え方でした。

しかしDynamicQAは「電池寿命」というテーマからあえて離れ、ユーザーが求めているものは「電池切れにならない状態」「電池切れを心配しない状態」だととらえ直しました。

その結果、電池切れの時期が近づいてきたころに、利用者宅に電池を送る方法を開発部署に提案してみることに。この方法なら、手ごろな電池で十分です。頃合いを見計らって電池が送られてくるので、ユーザーも電池残量を気にすることもなくなります。

どうでしたか?DynamicQAの特徴の一つ「ニーズの変化にシンクロ」することで「ユーザーの体験価値を最大化させる」というイメージが伝わったでしょうか。

とはいえ、このDynamicQAという取り組みはまだはじまったばかり。やりたいことがたくさんあります。
「よい体験」とは何か、という定義作りは常に変わり続けますし、「よい体験」とハードウエアのスペック設計の紐づけを考える必要もある。データサイエンスで顧客の状態を定量的に「見える化」する仕組みも構築したい。

今ですか? めちゃくちゃ面白いです。

ここは小さな企業と大企業の良さを併せ持つ、稀有な会社です。理想の品質保証の実現を阻む壁や過剰な調整がほとんどなく、スピーディー、大胆に計画を進められる。それだけでなく大企業並みの規模のユーザーから、温度感のあるフィードバックをじかに受けとれる。これだけ小回りが利いて、かつ大きなインパクトを社会に与えている企業は、僕が知る限り日本にはないと思います。

僕は僕なりのキャリアを経て、この会社で理想の品質保証を実現しようとしています。でもたぶん、「理想の品質保証」に力を尽くしている方はほかにもいらっしゃるはずです。そんな方々と意見を交わすことができたらと思っています。


「What's your "KEY"」 とは

ビットキーってどんな会社ですか? 
面接などで、よく聞かれる言葉です。毎度うまく説明しようと試みますが、私たちも、十分伝えきれていない気がしています。
ビットキーには、この会社に何かしらの魅力を感じた人たちが集まっています。これまでたどってきた道は様々で、その人自身の持ち味も様々です。
いまはまだ、うまく説明できないこの会社の魅力を、彼/彼女たちの語りから感じ取ってもらうことはできないだろうか。
同時に、その人となりも伝われば。
そんな想いから、新シリーズ What’s your “KEY” を始めます。
あなたをこの会社に導いたものはなんですか?
この問いかけから、ここに集う人たちの思いや、この会社が持っているなにかが浮き彫りになれば、と思っています。