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ドンナロイヤ

久しぶりに、本当に久しぶりに神戸へ行ってきた。

前回神戸に行ったのは、阪神淡路大震災の前の1992年頃、妻と知りあったころだ。

大晦日のカウントダウンを見物にメリケンパークに行ったり、知り合いに教えてもらった、春巻きのおいしい中華料理屋に行ったり、観音でチーズケーキ食べたり、ロープウエイに乗って布引の滝を見物したり。神戸からちょっと外れるけど、須磨の水族館にも行った。

大阪とも京都とも違う、神戸のシュッとした街の雰囲気が気に入って何かといえば神戸に行った。

いつだったか、もう覚えていないけれど、ある日、ふたりで三宮から港に向かってしばらく歩いたところ、旧居留地のビルの地下のイタリアンのお店に入った。

妻に誘われてスパゲティでも食べようと、何の予備知識もなく薄暗い階段を下りてお店に入ったら、ワインレッドのビロードのカーテンが店の奥にかかっていて、真っ赤な布のテーブルクロスに銀のカトラリーがセットされていて、メニューも字ばかりでどんな料理かわからず、蝶ネクタイのウエイターさんが注文をとりにくるような、格式高そうなお店で、当時、そんなお店に来たこともなかった私は、怖気づいてしまって、何を注文していいやらわからず、でも、学生の分際ではコースを頼むお金もなく、メニューで一番安かったトマトソースのスパゲティを食べて、すごすごと退散した。

その時の私のあたふたした様子を、今でも時々妻にからかわれる。

その時は、筆記体で書かれたお店の名前もわからなかったのだが、10年ほど前に、吉田健一がある本で、神戸で一番古くておいしいイタリアンのお店として、旧居留地のビルの地下にある「ドンナロイヤ」というお店を紹介していた。

もしかしてと思って、調べてみたら、私があたふたと取り乱してしまった、あのお店だった。残念ながら、当時のお店は阪神大震災でビルが倒壊してしまったけれど、ドンナロイヤはフラワー通りに移転して営業していた。

年に何回か、大阪の妻の実家に帰省するときに、いつか「ドンナロイヤ」を再訪しようと思っていたのだが、帰省するときは、帰省するときの用事がいろいろとあって、なかなか
神戸まで足を延ばすことがなかった。

子供たちが巣立って、ふたりだけの身軽な体制になったので、9月の3連休に、ほぼ35年ぶりにドンナロイヤを再訪するために日帰りで神戸まで行ってきた。

三宮の駅から、山に向かって歩く。少し時間があったので、生田神社の境内を一回りして、フロイントリーフという教会を改装したパン屋さんに立ち寄ってから、ドンナロイヤに向かう。

建物は違うけれど、ここのお店も地下にある。お店に続く階段を下りて扉をあけると、35年前に来たお店の記憶がよみがえる。入口横の壁にはワインレッドのビロードのカーテン、真っ赤なテーブルクロス。こんな感じやった。

テーブルについて、ランチコースとスパークリングワインをお願いする。

前菜は茄子とパプリカのマリネ、ズッキーニとトマトソースのパスタ、メインは私が豚のソテーマルサラソース、妻はヒラメのフライ、デザートはレモンケーキ。

尖った新奇さはないけれど、どれも安心して食べられるおいしさ。

これで3,500円。マダムとシェフがあいさつに来てくれて、蝶ネクタイのウエイターの方が、ていねいに料理を説明してくれた。

35年前に一度来たことがあると、マダムに伝えたら、次いらっしゃるのが30年後だったら、私たち生きてるかしらね。とシェフと話していた。

ほかのお客さんは、たぶん地元の常連さんたちだろう。家族づれ、女性の団体客などで半分くらいの席がうまっていた。

居心地がよかったので、時間を作って今度はディナーに来て、名物のタコのマリネやオッソブーコを食べてみたい。



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