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「地元の味、一緒につくらんけ?」 徳島県牟岐町と京都をつないで味わう、オンライン・仕送り食堂

皆さんは、自分の「地元の味」って知っていますか?旅行に行くと、ここぞとばかりに、その土地の特産品や郷土料理を食べたりしますよね。でも「地元の味はなんですか?」と聞かれると、答えに困ってしまう…なんて人も多いのでは?私自身、高校卒業後に地元を離れていて、地元にどんな特産品があるのかあまり知りません。今回はそんな私のような人に、ぜひ知ってほしい取り組みを紹介します。

仕送り食堂とは?

 ​2021年3月1日に京都・河原町御池にあるQUESTIONにある、コミュニティキッチン・DAIDOKOROで行われた「仕送り食堂」。日本各地から「仕送り」していただいた食材を使って、その土地に縁のある料理をつくります。

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このきっかけになったのが、コロナによる緊急事態宣言。その間、アルバイトも帰省もできず、生活に困る学生もいました。そこで地方自治体から地元出身の学生に、食材や日用品などが入った「学生応援パック」を送り、支援していたのです。

画像1今回のパートナー、徳島県牟岐町の学生応援パック。地元産のお米から、なんとティッシュまで!

けれど届いたものを使っておしまい、ということではもったいない。この機会を、学生と地元が繋がれるきっかけにしたいと考え、美食倶楽部では各地域と一緒に「仕送り食堂」を始めることにしたのです。

初開催のパートナーは、徳島県・牟岐町。本当ならみんなで料理をしたかったのですが、コロナの影響を鑑みて、今回は断念。牟岐町・学生のお家・会場と3ヶ所をつないで、オンラインとオフラインのハイブリッド形式で、イベントを実施しました。

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牟岐の魅力は、海・山・人

今回のイベントを企画・進行したのは、美食倶楽部を運営する株式会社Q`sの代表の田村篤史と、学生スタッフの海部登生(かいふ・とうい)。海部くんは牟岐町出身。現在は美食倶楽部をはじめ、市内の八百屋・西喜商店などでも食の取り組みに携わっています。

画像24左:田村さん・右:海部くん/海部くんが画面に映ると、「とうい〜!」と牟岐町の人たちから声がかかります。町の人達が本当に仲良し。

海部くんが生まれ育った牟岐町は、徳島県の南側に位置し、海と山にぐるりと囲まれた町。海の幸、山の幸がどちらも豊富に採れるなんて、うらやましい!なんと、世界最大級の大きさで千年以上生き続けているサンゴもいるんですって。

風景01牟岐町上空写真

風景07牟岐港から定期船で15分の沖合に浮かぶ島「出羽島」

牟岐町を少し知れたところで、参加者の自己紹介タイム。今回、京都の会場で参加してくれたのは、主に関西の大学に通う8名の学生たち。「伊勢海老が食べたくて!」という食いしん坊さんから、「郷土料理を学びたい」という人まで。

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オンラインで家から参加してくれた石本唯人くんは、「おばあちゃんが今回のイベントに出ると聞いて参加した」とのこと。実は今回、牟岐町の郷土料理を教えてくれるのは、石本くんの祖母・石本知恵子さんなんです!

画像7オンラインで自宅から参加してくれた石本唯人くん。

「おばあちゃんの味にまけないぐらい美味しい料理をつくりたいです!」と意気込む唯人くんに対し、知恵子さんは「私も負けんとがんばります」とにっこり。知恵子さんのチャーミングなコメントに会場のみんなが笑顔になりました。

生産者が語る食のストーリー

今回つくる郷土料理は、「まぜくり」という鮮やかな彩りの五目寿司と、新鮮な伊勢海老を使った料理。
扱う食材にどんなストーリーがあるのかを知るため、生産者の方からお話を聞きます。

一人目は実生ゆずの生産者、井上正規さん。生産している柚子の木は、8〜10mの背の高い木であること、中には樹齢が100年以上の木もあることなどを紹介していただきました。柚子の木には太いトゲがあり、収穫する際は体にあたって、引っかき傷がたくさんできてしまうそう。

画像24牟岐町のyoutube「実生ゆず収穫」より

「血だらけ覚悟ですよ」という井上さんに、会場からは「かっこいい!」と声が。苦労の末に収穫された柚子は、実を搾り、そのまま一升瓶へ。

会場の学生から「普通の柚子とは何が違うのですか?」という質問が。実生ゆずというのは、種から生長した木からとれた柚子。収穫までに18年ほどかかります。通常はコストを考えて、3年ほどで育つ接ぎ木を用いた生産方法にシフトしていくそう。

けれど、牟岐の柚子の木は昔から受け継がれてきた、いわば先人からの贈り物。その思いを引き継ぐように、町の人達は実生にこだわり、生産を続けています。「やっぱり実生だと、味わいが違うよ」と、井上さん。田村も「100年前の木にお世話になるというのは、感慨深いものもありますね」と実生の柚子を守り続けてきた井上さんの姿に感動した様子でした。

牟岐の実生ゆずについて

画像8牟岐町とオンラインでつながっているので、疑問に感じたことはすぐに質問。

続いてお話を伺うのは、漁師の平岡丈次さん。今回送っていただいた伊勢エビの他にも、冬はカワハギ、アオリイカ、春先にはアワビなどの漁を行うそう。かきいれ時の秋冬は、午前2時から夕方まで二回漁に出る。そのかわり、夏は4時間ほど漁に出て、後はオフタイム。家族とでかけたり、大好きなサーフィンを満喫しているそう!

画像9漁師の平岡さん

牟岐町には東と西に2つの漁港があり、およそ140人ほどの漁師が働いています。そのうちアワビ漁をする海士(あま)は、60人ほど。以前は100人以上いたそうですが、年々減少しているそうです。他にも「磯焼け」という現象が起こり、海藻をエサにしているアワビの減少、藻場を住処にしている伊勢エビが暮らせなくなるなど、自然を相手にする仕事の苦労を教えていただきました。
伊勢えび漁動画

画像25牟岐町のyoutube「海と生きる」より

牟岐の伊勢エビについて

オンラインでつながる台所

食材の背景を学んだ後は、伊勢エビとまぜくり、それぞれ分かれて調理を行います。オンライン組も自宅で調理スタート。さぁ、みんなうまく出来上がるでしょうか?

荳我ク雁・逵・IMG_4078牟岐町から仕送りしていただいた食材たち。

伊勢エビはお刺身、味噌汁、オーブン焼きの3つの方法で調理します。まずは伊勢エビをさばくところから。「伊勢エビを触るの初めて!」という声も。

画像11動画を確認しながら、初体験のエビさばき。

最初はちょっと危なっかしい包丁さばきだったけど、硬い殻に苦労しながら、一匹、二匹とさばくうちにどんどんと手慣れたものに。「料理は苦手〜」なんて言っていた人も、見事にエビをさばいていきます。

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エビがさばけたら、殻はお味噌汁の出汁にします。ことこと煮ると、エビの味噌やエキスが染み出てきて、磯の香りがいっぱいに広がります。

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まぜくりをつくるチームは、野菜を切るところからスタート。まぜくりは、牟岐町では冠婚葬祭のときに食べられる郷土料理。ポイントは、柚子の果汁を使うところ。一合のお米に対して、(塩:砂糖:実生柚子の果汁=1:2:5)。千恵子さんいわく、これが黄金比なんですって。熱々のお米に混ぜると柚のいい香り!

画像14西喜商店さんからご提供いただいた、京野菜(金時ニンジン・丹波しめじ、はたけ菜)を使って、アレンジ。

画像15一瓶に15〜20個分の柚子が使われているゆず果汁。

時折、牟岐町から「エビは水から煮出してね〜」「味噌は入れすぎないように!」とアドバイスの声が。オンラインだけど、すぐそばで見守っていただいているような安心感。

京都会場で、学生たちが懸命に料理に取り組んでいる間に、牟岐町では料理が完成。「まぜくりますよ〜」という声とともに、お米と具材を混ぜ合わせ、大粒の金時豆をちらして、できあがり。さすが、何度となく牟岐の郷土料理を作ってきた知恵子さん。

荳我ク雁・逵・IMG_4113まぜくりの具材は、その時々の旬のものを使うそう。

柚の香、磯の香が広がる牟岐の味

京都会場よりも一足お先にオンラインチームは、料理が完成した様子。「一口コンロでつくるのは大変だった」、「京都会場はみんなでワイワイできていいなぁ」という言葉も。「おばあちゃんの味にまけないぐらい美味しい料理をつくりたいです」と意気込んでいた唯人くんは、「美味しくできたけど、やっぱりおばあちゃんの味には負けた」と話してくれました。

ようやく京都会場でも料理が完成。自分たちで手がけた牟岐の郷土料理。果たしてお味は…?

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料理を口に運ぶと、あちこちで「おいしい!」という声が上がります。伊勢エビの出汁、そして柚子のいい香りが会場に漂います。私もさっそく、いただきます!

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まず、いただいたのは伊勢エビのお刺身。ぷりっぷりで弾力があり、かむとエビの甘みが口いっぱいに広がります。エビのエキスを余すことなく使った、お味噌汁も絶品。

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続いて、まぜくりをいただきます。甘いお豆と、人参や葉ものなどの野菜が柚子と絶妙にマッチ!たくさん具材が入っているので、食べるのも楽しい。あっという間にぺろりといただいちゃいました。みんなで協力して作った牟岐町の味。しっかり堪能し、笑顔いっぱいの時間となりました。

作って味わって、まちとつながる

食事の間には、交流タイム。「見たことはあったけど、初めて伊勢エビに触りました」と感想を伝えたり、食材についての疑問を生産者の方に尋ねたり。まるで同じ食卓にいるように、京都・牟岐町・オンライン組と3ヶ所をつないで会話を楽しむことができました。

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知恵子さんからは「いつか牟岐にいらっしゃい。その時は私の作った牟岐の味を食べてね!シーユーアゲイン!」とやさしい言葉をかけていただきました。牟岐にいったら、皆さんに直接会って、一緒に食卓を囲みたいですね。

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このイベントの企画・運営に携わった海部くんは、「牟岐出身者、その友人と、一緒に牟岐の味をつくり、つながりが持てたことがうれしかった」とコメント。今回のイベントをきっかけに、新たな地域とのつながり方を見つけることができたようです。

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地域の食を知り、自分たちでつくり、ともに味わうことで、地域や食への関心を持つきっかけが生まれる「仕送り食堂」。私ももっと地元の食について知りたいな、そして誰かと共有できたらなと、ワクワクした気持ちになりました。

今後も仕送り食堂は続いていきます。次はどこの町の食のストーリーに出会えるのでしょうか。一緒に取り組みたい学生や自治体も募集していますので、気になる方はぜひご連絡ください!

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