“うるさい世界”から何を切り出すか。光岡幸一展 「ぶっちぎりのゼッテー120%」から
少し腰をかがめないとくぐれない穴があって。乱暴に叩き破った感じの穴なんです。
これが銀座のガーディアン・ガーデンでやっていた「光岡幸一展『ぶっちぎりのゼッテー120%』」という展示の入口でした。
展示の中身をつらつらと
映像だらけの展示スペース
その中は薄暗い30平米くらいの展示スペース。
大小10ほどの映像がランダムに流れている。壁に映し出す大型スクリーンから、ポータブルサイズの小型ノートPCくらいのものまで。
流れるのは街中の様子。
転がるペットボトル、坂を下る石、風に吹かれるレシート、川面と反射する光のゆらめき。
その映像に声がアテレコされています。「わー」とか「くるくる」とか。
存在感あるオブジェ
でもまずは室内につるされたオブジェが目に入ったのかな。
何枚もの鏡面パネルが組み合わさって、ミラーボールみたいに光を反射してます。
時折、作者がその展示スペースに入ってきて、そのオブジェを回転させる。それも回旋塔みたいに、走って回す。で、何事もなかったかのように作者は展示スペースから出ていく。オブジェの回転が残る。
そしたら、また作者が入ってきて、今度は壁に打ち付けられたドラムペダルをキックする。ペダルが壁を打った音はマイクを通して大きく増幅される。
何を表してると思います? いや、私も分かりませんけど。知らんけど。
『アメリカンビューティー』のワンシーンみたいな
これは「現代美術が難解」だとか「インスタレーションはよくわからない」とか。そういう話がしたいわけではありません。
私は、アートは理解するもの、というより、自分との関係性のあいだに面白さがあるものだと思ってます。
例えば、私は映像の中の一つ、ビニール袋が風に舞っている様子に「あぁ、『アメリカンビューティー』みたいだな」って思いました。
『アメリカンビューティー』は私が好きな映画の一つで、登場人物の一人がビニール袋が風に舞うのをビデオに撮っているんです。そのシーンを思い出し「これ」には美があるんだよなぁって感じました。
こういう個人的な話って、個人的な面白さですよね。
私は、アートはそれで十分だと思っています。
そんな個人的に思った、もう一つの面白さが、映像を見続けているうちに浮かんできた違和感です。
とにかく、音が気になってきたんです。
オノマトペと実況となりきり
音が気になる。
もっと言えば、アテレコが気になる。
さらに言えば、うるさいくらい(笑)
例えば、風に吹かれるレシートの映像ならこんな感じ。ちょっと男性による甲高い裏声を想像してみてくださいね。
すごいですよね。
こういう感じで、石ならゴロゴロ言うし、光の反射ならキラキラ言う。
こうしたアテレコが、20畳ないくらいの展示スペースとしては大きくもない部屋のあちこちで鳴っている。ランダムで点いたり消えたりする映像に合わせて。
それを見続け、聴き続けていて、そのうち思いました。
「そうなんだよ、世界って、うるさいほどの情報にあふれているんだよ」
うるさい世界から何を切り出すか
私はライターとか編集とかを本業としているので、世界を言葉に移し替えるんですよね、基本的には。
そのとき、ありがちなのが「水面がキラキラと光っていた」とか「レシートが風に舞ってクルクルと転がっていた」みたいな、オノマトペを使った表現。
「キラキラ」とか「クルクル」。
水面もレシートも、そんなことはしゃべっていない。
いや、しゃべっているとしたら、もうずっとしゃべってるはず。この展示でのアテレコのように。転がっているときには、ひたすらクルクル、クルクル。止まったら黙って、また動いたらクルクル言う。
なぜ、そのうちの一つの「クルクル」だけを切り出しているのか。
切り出したことで、切り出していないものを置き去りにしていないか。
ずっと風は吹いているはず。
でも、それですら、そよそよとかびゅんとか、オノマトペにしないとフォーカスされづらい。
風や光や。不自然なほどに言葉に置き換えられたこの展示から聴こえてくる、自然の声。
“不自然な声”と“不自然な音”
最後に、もう一つ触れておきます。
この展示で作者が時折見せるパフォーマンス。
すると、映像から流れる“不自然な声”に“不自然な音”が入り込むんですよ。
オノマトペに置き換えられた自然の“不自然な声”に、言葉には置き換えないけれど強烈で唐突な“不自然な音”がぶつけられる。
これらの混じり合いから、音を言葉に置き換える姿勢について、一つの投げかけがあったように、私には感じられました。
うるさいほど情報にあふれて、素晴らしいものがたくさんあるこの世界から何を切り出すのか。
展示に込めた意味まで読み取ろうとするのは正直なところ、私には難易度が高そう。
でも、展示から届いた音は、私の頭の中で今も動き回っています。
クルクルと、キラキラと。