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ドキュメント72時間「秋田 真冬の自販機の前で」の感動ポイントは“幸せ”なのか

NHK「ドキュメント72時間」歴代ベスト10。
第1位「秋田 真冬の自販機の前で」。
初見でしたが、込み上げるものがありました。なるほど1位の貫禄たるや。
吹雪の中、年季の入った自販機前での人間模様……これ確かに名作。
 
でもですよ。
この回の最中、感動しながらも思いました。

なんで感動してるんだろう?

感動の正体が分かるようで、でもつかみきれない。まさに吹雪の中にいるみたいに。
ぼんやりとした感動の正体っていったい?

NHK「ドキュメント72時間」

チャンネルをザッピングして、たまたまやってれば何となく見る。それが私にとっての「ドキュメント72時間」。
ある場所を72時間、定点観測するだけの番組なのに、なーんか良いんですよねえ。

その「歴代ベスト10スペシャル」が8月12日・14日に放送されていました。
見出したら、やっぱり良くって。
「学生寮」「日本ダービー」「老人ホーム」……。
それまでの全321回から視聴者投票で選ばれただけある。

そして、第1位に輝いたのが「秋田 真冬の自販機の前で」でした。

2015年放送「秋田 真冬の自販機の前で」

秋田港の近く、うどん・そばの自販機に集まる人間模様。

内容紹介の代わりに、番組で紹介された、おたよりを引用します。番組を見た方は内容を思い出していただき、見ていない方はイメージしてみてくださいね。

自販機のレトロさももちろんですが、真冬の外でうどんをすする姿に、つくづく人生は十人十色、百人百様。幸せの値なんて、いろいろでいいんだ。とりあえず生きてりゃ、良いことはめぐってくるんだなと感じて、とても好きな回です。

大吹雪の秋田。自販機前でうどんをすする親子。ぶらぶら揺れる一味唐辛子。壊れかけてる自販機を何とかしながらうまく付き合っている地元の方々。なんとも言えない味わいがあり、とても印象に残っています。大切なのは、こんな何てことのない日々の幸せだと思います。大人になっても忘れられないような、幸せな一瞬を切り取った。この回が一番好きです。

見ながら思う「これの何がこんなに刺さるのか?」

と、視聴者を感動させていた「秋田真冬の自販機の前で」。
では、何がその正体なんでしょう?

一つは、これがドキュメンタリーなのに、たくさんの大切な時間を奇跡的に撮っていることだと思います。
シナリオ無し、なのに、ドラマチック

たった72時間に自販機の前に現れるのは、中年カップル、父子、誕生日を迎える78歳の男性、ガン宣告を受けた洋菓子職人、シングルマザーと仲間たち……とバラエティ豊富。
吹雪ってシチュエーションも味わい深い。

「でも、それだけじゃないんだよなあ」
とテレビの前、頭の中、もう一人の私。

そんな映像制作者的な見方は、あまり重要でない。
本職でもない私がそんなところを評価できるとは思えません。
そうでなく、私には私なりの別の感動ポイントがありそう。

けれども、感動の理由は分からないまま、エンドクレジット。
「うーん……」

答えのヒントを視聴者のおたより(先述)に求めたんですが、答えが出ない。
それどころか、おたよりには申し訳ないんですが、私の感想とは違う気がして。しかも、その違いも瞬時にはわからず。

この、感動って何?
もう一度「うーん……」

自販機で売られるのは、天ぷらがのった蕎麦とうどん(イメージ)

徳井さんの言葉が感情の補助線に

テレビの中。スタジオでは、平成ノブシコブシの徳井さんが発言します。

……幸せ、っていうことなんですね

ハッとしました。

私には、徳井さんの「……」という間(ま)は、この回の感動を噛みしめると同時に、おたよりへの感想にご自身は違う思いを受けたという相槌の類いだった気がしたんです。あくまで私の勝手な捉え方です。

でも、ここでの徳井さんの言葉に、真意は別として、私は打たれました。

①この2つのおたよりに共通しているのは「幸せ」
②「幸せ」という感想とは違う感想があるという可能性

この2つの気づきが、私にとって一つの手がかりというか、感情の補助線になってくれました。
私が、感動の正体をつかみきれなかったのは、この回に描かれていたものが“幸せ”と言い切っていいものか、分からなかったからなんだと。
繰り返しますが、徳井さんの言葉の真意は分かりません。私の勝手な捉え方ですので、あしからず。

幸せの対極のうらびれた空気

では、幸せとはまた違った、「秋田 真冬の自販機の前で」に含まれていたものは何だったんでしょう?

誤解を恐れずに言えば、私は「うらびれた空気」だったと思っています。

「秋田 真冬の自販機の前で」は派手な回ではありません
登場するアイテムは、たまに動かなくなる自販機。うどんもそばも、1杯200円。

贅沢な環境じゃないですよね。
安いし、席は屋外だし、雪も吹いてくる。

加えて、その前にやってくる人たちにも、わだかまりを感じる。「大変そうだな」と私は思う。
深夜に副業の運転代行を終わらせて夜食をとる男性、ガンとなり昔を一人で思い出す姿、グレてた過去を持つシングルマザーのワインのラッパ飲み……。

けれども、皆さんが何かに支えられていることが伝わってくるんです。

「心も温まれるっていう感じ」と吹雪の中ですするうどん。
「一緒に来てた人たち どうしてるんでしょうね」と思い出す誰か。
「ここ(自販機前)にいればさ みんな見つけてくれるもんな」と子どもに伝える母親。

これはほんの一例。
うらびれた空気の中の、誰かを思っているという姿が、本当に尊い。
他人にとっては小さくて、地味かもしれません。けれど、本当にそれは“幸せ”だと感じられる。

“幸せ”、って何か

さて、「“幸せ”と言い切っていいものか?」と言ってたのに、私は“幸せ”に戻ってきちゃいました。

いいんです。
けれども、私は回り道をしないと、この回の感想ポイントを“幸せ”だと言えない気がしたんです。

“幸せ” 、って何なんでしょうね?

って、ちょっと大きなテーマにまで話が来てしまいました……。

幸せは、辞書的には「不満がないこと」という意味もあるそう。裏返せば、100%の満足ということでしょう。でも、この「秋田 真冬の自販機の前で」にある“幸せ”は、この意味での幸せではなさそう。
でも、“幸せ” っていうことなんですよね。

不満はある。でも幸せ。
そんなことはいくらでもある。そして、それがあるということの幸せ。

あるいは5%の幸せが95%の不幸せを覆せる瞬間の存在
それが、「秋田 真冬の自販機の前で」で私が受けた感動の正体なのだと思いました。


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