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チームの成長を信じること

久しぶりのミッドウィークの試合。フラムはトッテナムと対戦し、0-1で惜敗しました。このゲームでは、フラムの同点ゴールがVARの結果、レミナのハンドで取り消しになりました。後日、来季からハンドのルール改訂が発表されるというニュースまで流れていました。色んな意味で注目を集めた試合になりました。この試合を観て、思ったことを書いておきます。

パーカー監督のゲームプラン

2月以降、パーカー監督のゲームモデルは一貫している。できる限りボールを保持して試合の主導権を握るスタイルだ。守備時は4-4-2で3ラインを形成して中を絞りつつサイドへ誘導してサイドは縦切り。簡単にはボールの前進を許さない。バックパスにはハイプレスへ移行してマンツーマン気味にプレスをハメて相手から時間とスペースを奪って蹴らせて回収。撃てる時はカウンターを撃ち、カウンターがダメならボールポゼッションを確保して攻撃フェーズへ移行。攻撃フェーズでは4バックのうち純粋なSBは高い位置まで上がってアウトサイドレーンの幅をとる。残った3枚で3バック気味に構える。その前に2CHがサポートに入って後方での数的優位を確保してポゼッションの確立を狙う。2トップと両SHに上がったSBで5レーンを埋めて4バックに対して数的優位とDFの間にポジションをとる位置的優位を使って攻撃を仕掛ける。ボールを失っても前線からプレスをかけてボールの奪回を狙う。後方の選手も敵陣に入っているので、ハイプレスを掻い潜った選手を捕まえてカウンターを撃たせない。ボールの前進を妨害して遅らせている間に帰陣して守備フェーズへ移行する。このように4局面でアグレッシブにプレーして試合をコントロールしようとする。

格上のトッテナムに対しても変わらず、これまで取り組んできたプレースタイルを実現させようという姿勢で臨んできた。トッテナムの3トップ気味のハイプレスや3バック化したビルドアップに手を焼く時間帯もあった。しかし、90分のデータは保持率はフラムが60%と上回っていた。これはトッテナムがカウンターを狙うプランだったことも関わっているはずだが、ボール保持を目指すチームの数字としては立派だと思う。

得点シーンの検証

この試合の得点シーンを振り返ってみる。トッテナムの低い位置でのボール保持に対してフラムがマンマーク気味にハイプレスをかけ、トッテナムを右サイドに誘導。SB→SHの縦パスに対してロビンソンが縦切りのコースから強くプレスに当たってトッテナムのパスコースを横パスでケインに入れるコースに限定。そしてアダラビオヨがケインへの横パスをカットした。しかし、ベイルがそのカットを拾ってケインに繋いでカウンター返し。ケインから真ん中のデレ・アリに繋いでアリから左サイドのソンフンミンへ。ケイン、アリもパスアンドゴーで駆け上がって、局面はゴール前で3対3の状況に。ケインをロビンソンが、アリをアンデルセンが見て、ソンフンミンにはオラ・アイナがマークについていったが、ソンフンミンが見事な駆け引きでアンデルセンを釣り出して縦にドリブル。最後はフリーになったデレ・アリが流し込んだ。

得点、失点のシーンは印象に残りやすいので、アンデルセンの判断ミスは目立つだろう。しかし、カットインをケアしなければソンフンミンがカットインシュートを決めていたかもしれないし、それは結果論に過ぎない。もしかしたらソンフンミンがカットインしてきてアンデルセンが止めていて素晴らしい判断だったと言われていたかもしれない。それはわからない。

このシーンで大事なことは、ハイプレスをかけてボールをサイドに誘導し、パスコースを限定してボールを奪うというチームとしての狙いは機能していたということだ。しかし、アダラビオヨがカットしたボールがベイルに流れてカウンター返しを喰らってしまった。このことをどう評価するか。つまり、チームのゲームモデルもしくは重要なプレー原則が失点の根本の原因ということもできる中で、ゲームモデルやプレー原則の変更を考えるのかということだ。

パーカー監督の胸の内はわからない。しかし、昨年からフラムを見続け、このチームの成長・変化を知っている者としては、このスタイルは変えないでほしいと思う。

「蛮勇を振るう気概を持て」

今季昇格してきたチャレンジャーの立場であるということ。代表歴がある選手は少なく、若く野心がある選手の集まりであるということ。中にはビッグクラブから「都落ち」してきた選手もいること。昨季は2部でボール保持をベースのチーム作りをしてきたこと。今季前半は守備を重視した戦いをしてきたこと。その中で引いて守る展開で守りきれずに勝ち点を落とす経験を少なからずしてきたこと。数あるロンドンのチームの中でもアンダードッグ的な立場で、反骨心を持ったプレースタイルこそふさわしいチームであること。これまでのチームが辿った歴史や所属する選手の特徴も合わせて考えると、パーカー監督が今季作り上げてきたゲームモデルはフラムというクラブに相応しいと感じる。抱える戦力を考えると、無謀とも思えるゲームモデルを選択するその姿勢こそ、フラムのようなクラブらしいと言えるのではないだろうか。そして、青年監督のパーカーが率いる若いチームだからこそできるゲームモデルだとは言えないか。

ハイプレスをかけに行ってカウンター返しを喰らう。後方からポゼッションを確立してビルドアップをしようとしたら、途中で引っかかってショートカウンターを喰らう。フラムが目指すゲームモデルを実現するための必要経費だ。バルサの監督時代のグアルディオラもあのゲームモデルを採用していたため、GKのパスミスでの失点も計算に入れていたという。負うべきリスクは負い、仮にそのリスクが顕在化しても動じない。この姿勢こそが指導者にとって重要なのではないだろうか。

結果は出ていない。本当に必要なら、変化を求めればいい。おそらく、フラムにとってその時期は1月だったのだと思う。シーズン前半の5バックをベースに守備的に戦ってきた時期だ。失点は減ったかもしれないが、勝ち点は伸びなかった。もしかしたら自分たちに合っていないと感じていたのではないか。そして2月、このスタイルを作り上げ、内容は良くなってきている。取り組むとしたらフィニッシュのところか。必要な点は改善しつつ、自分たちを、選手を信じてプレーを継続し、結果を待つ。高い理想を掲げているなら尚更だ。

「蛮勇を振るう気概を持て。」

これは監督として必要な資質についてアッレグリが語った言葉だ。パーカー監督は、チーム作りの面で、この言葉を体現しているように思える。今、ゲームモデルに手を加えないことが、パーカー監督はにとっては蛮勇を振るうということなのだろうと思う。降格圏にいようが、これくらいのフットボールはできる。その強烈なメッセージを受け取り、何を学ぶか。

確たるゲームモデルは持っているか?

ゲームモデルを実現させるためのトレーニングはできているか?

チームの課題に気づけているか?

チームの、選手の可能性を信じているか?

チームに相応しいゲームモデルを構築し、選手の成長を信じ、トレーニングで成長を促し、我慢強く継続する。仮に、掲げたゲームモデルが実現困難な高い理想だったとしても。

「蛮勇を振るう気概を持て」

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