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セリエA 第8節 トリノダービー(HOME) 〜ユベントスDNA

ホームで行われたトリノダービーは0-2でユベントスが勝利しました。ブラホビッチ、キエーザを怪我で欠きながら、堅守とロングボールとセットプレーでトリノを圧倒。ボール保持に意欲を見せつつ、絶対に負けられないダービーだからか、往年のユベントスらしい老獪な試合運びが見られました。その意味で、徐々にアップデートされた23-24ユベントスが姿を見せつつあるのかもしれません。今季のユベントスに思いを馳せつつトリノダービーを振り返っておきましょう。

ポゼッションを狙う中で…

ユベントスのスタメンはシュチェスニー、ウェア、ガッティ、ブレーメル、ダニーロ、コスティッチ、マッケニー、ロカテッリ、ラビオ、ミレッティ、キーン。5-3-2をベースにしていましたが、ミレッティが中盤に落ちることもあり、流動的に動いているように見えました。また、ウイングバックで出場していたマッケニーが中盤に戻ってきました。これによって、マッケニーが外に出てウェアが中に入るポジションチェンジも見られ、右サイドのポジションチェンジも絡んでいました。

トリノのハイプレス

さて、トリノは5-2-3をベースにして、ユベントスの3バックには3トップをぶつけ、ウィングバックにはウイングバックをぶつける形でハイプレスを仕掛けてきました。2CHのどちらかを上げてロカテッリを捕まえに来ており、ユベントスのボール保持を阻害しに来ていました。となると、ロカテッリにマークに出たCHの元いたポジションが開くはずですが、CBが上がってラビオにマークについていました。トリノはハイプレスに出た時にはオールコートマンツーマンに近い形でユベントスの選手をマークしていました。ただし、トリノのハイプレスは全速力でマーカーに飛び出していくようなタイプではなく、比較的ゆっくりとマークにつきつつ、後方の選手も連動してマンマークでついて選択肢を削ってパスが出た先で奪い切るイメージを共有していたように思います。前節のアタランタとは違ったハイプレスの掛け方で、むしろユベントスのハイプレスに近い意図が見えました。となるとユベントスの3CBはハイプレスをかけられているとはいえ、比較的時間とスペースは持てることになります。しかし、その分選択肢が削られているため、パスの出しどころがなく時間を使っている間に距離を詰められてしまうシーンが何度もありました。

その一方で、トリノの守備はユベントスが縦パスを通して受け手がキープしたり、縦パスの落としを第3の選手が受ける、後方の選手がドリブルで持ち上がるなどして第一プレスラインを突破すれば、潔く引いて5-4-1で構えて守る守備へと素早く移行する仕組みになっていました。その状況を作れれば、ユベントスは敵陣に押し込んでボールを保持することができます。ただし、バックパスには素早く反応して守備ラインを上げ、ユベントス陣内までボールを戻すようならハイプレスへと移行しており、守備の仕組みは鍛えられていると思います。

ユベントスの解決策

トリノの守備に対してうまくボールを前進させられないシーンもあったユベントス。無理に縦パスをつけて奪われることもあって、トリノの守備に苦戦していたように思います。ミレッティが降りてきたり、マッケニーとウェアを入れ替えたりしていましたが、トリノはハイプレス時にはとにかくマンマークで付いていたのでポジションチェンジで混乱を誘うことはできませんでした。そこでユベントスが多用してきたのは、キーンへのロングボールでした。キーンを除く選手が下がる中、キーンだけは最前線にポジションをとり、トリノのCBと1対1の状況を作り上げていました。そして後方からキーンをスペースへ走らせるロングパス。キーンのフィジカルで無理矢理ボールを進める戦術です。仮にキープできなくても、相手が蹴り出してマイボールのスローインになればOK。ボールを前進させたことには変わりないわけで、キーンを走らせるロングボールを多く使っていました。ロングパスを用いてセカンドボールを拾ってチャンスを作るシーンもありました。ボールを警戒してラインを下げてくれれば本命のショートパスによるボール保持からの前進が可能になります。前半途中からはショートパスを繋いでボールを運ぶことも多くなり、ロカテッリやダニーロから縦パスが入って一気に攻撃が加速するシーンもありました。

セットプレーの威力

そして、恐怖のセットプレーが炸裂します。前半のミレッティのフリーキックもかなり質が高かったですが、トリノダービーではコスティッチのキックが輝きを放ちました。セットプレーから繰り出すインスイングのキックの速さ、精度は恐ろしく高く、ユベントスの2得点を演出。5-4-1で構えて守るトリノの守備をなかなか攻略できなかった中、セットプレーという飛び道具の威力は絶大でした。そもそもどちらかというとフィジカル型のユベントスはセットプレーでの得点は狙っているところです。常時出場しているガッティ、ブレーメル、ダニーロ、ラビオの4人は高さ、強さを兼ね備えており、キーンとミリク、マッケニーもフィジカルは強い方です。これだけの選手がセットプレーでペナルティエリアで競り合えば、キックの精度が高ければ得点の期待値は跳ね上がるでしょう。その意味でもコスティッチのキックは大きな武器になるはずです。キエーザが出ている時はキエーザがセットプレーのキッカーをしていますが、直接狙わないのであれば、コスティッチをメインに据えるべきではないかと思います。昨季12アシストは伊達じゃない。膠着した試合展開であればあるほど、セットプレーの威力は増します。戦術的に練られた堅い守備を崩せなくても、セットプレーは純粋な高さ勝負に持ち込めてしまいます。そして、ユベントスは上記の通り高さ・強さを兼ね備えた選手を多く擁しています。今季、ユベントスはまだセットプレーで失点していないようです。色々なサインプレーも編み出されていますが、セットプレーの基本は精度の高いハイクロスを競り合う形。その中で8試合やって失点0ということは、ユベントスのセットプレーの強さを証明していると言えるでしょう。セットプレーの獲得は試合の流れに関わらずユベントスの有利な状況に引き摺り込めてしまう、非常に重要かつ期待値の高いシチュエーションだと言えます。

守備のアップデートと2トップの人選

上記の通り、ユベントスはトリノの守備に苦戦しました。当然、ボールロストしてトリノにボールを保持される時間も多くなります。5-3-2をベースフォーメーションとして戦うユベントスに対して3-2-5に可変してボールを保持するトリノ。2トップに対して3CBがボールを保持してくるため、ハイプレスはうまくハマりません。マッケニーかラビオを前に押し出すパターンも考えられますが、この試合ではサイドの守備を優先して前には出しませんでした。そのかわり、サイドにボールが出た時にはマッケニー、ラビオもスライドして対応。サイドの封鎖に重点を置いてきました。そのことによって守備ラインを下げさせられる場面を減らし、ペナルティエリアの外に守備ラインを固定して守備をしていました。トリノにボールを保持されていても、サイドを封鎖しつつ3CHの連携で中を閉めてゴールラインから30m程度のところで押し留めてボールの前進を許しません。さらにキーンとミレッティ(ミリク)も守備に参加してトリノの3CBを牽制することでボールの動きをサイドへ誘導して守備の狙いにトリノを嵌め込んでいました。トリノがペナルティエリアの先端より深く侵入することはこれまでの試合に比べて少なかったように思います。ペナルティエリアに近づけさせずに相手を絡めとってしまうメカニズムは、5-3-2の守備のアップデートを見たような気がします。ただ、キーンとミレッティもしくはミリクだったから成立したところは大きく、守備意識が低いブラホビッチとキエーザでこの守備が見られるのかは不透明です。相手のCBがノープレッシャーで第一ラインを通過してしまえば、残りの選手は引くしかないので、必然的に守備ラインは下がるでしょう。良くも悪くも、今季はブラホビッチとキエーザにかかっていると言えそうです。

ミラン戦に向けて

とにかく、ボール保持に意欲を見せながら、伝統の守備とセットプレーで相手をねじ伏せてしまう。ユベントスらしいフットボールにボール保持という新しいスパイスを調合する。今季の挑戦について、現時点でのバランスは見せてもらったような気がする試合でした。ただ、フィニッシュのシーンには物足りなさを感じています。コスティッチやウェアがクロスを上げても、ニアサイドに誰も飛び込まないし、GKとDFの間を狙った速いクロスも誰も飛び込まずに素通り…。チームとしてハイクロスでファーサイドを狙うことを徹底しているように見えますが、それでもニアサイドに誰かが飛び込むからファーが開くのではないでしょうか。クロスを上げる際に誰がどこに飛び込むのか、決まり事を明確にしてもいいと思いますし、もっとアグレッシブにクロスに飛び込んでいって欲しいと思います。

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