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22-23 ユベントス総括・前編 〜固定されない選手と戦術

22-23シーズンの我らがユベントスは昨季に引き続き序盤で大コケし、CLはグループリーグ敗退と大幅な出遅れを見せてしまいました。その後、リーグ戦では調子を取り戻したかと思いきや、今度は勝ち点剥奪。浮き沈みの激しいシーズンを送り、最終的には勝ち点10剥奪によりセリエA7位で無冠。来季は色んな意味で再起をかけたシーズンになります。

さて、22-23シーズンのユベントスは5-3-2をベースに戦ってきました。来季も5-3-2を継続するにしても、変化させるにしても、一度ユベントスの5-3-2について総括しておくことは重要だろうと思います。22-23シーズンの5-3-2との比較という視点があることで、来季のチームの成長や変化が見えてくるでしょう。激動の一年の中でアッレグリが見出した5-3-2というシステムについて書いておきます。

基本的な選手選択について

GKはシュチェスニー。シュチェスニーのケガでペリンがスタメンで出場する時期もあった。両者を比較した時、シュートセーブについては互角と言っていい。ミドルシュートのセーブは多少シュチェスニーの方が上か。ただ、ショートパスの選択とキックの精度はシュチェスニーの方が上だと思う。守備がベースのチームだが、GKへのバックパスも使ってボール保持を試みることもあり、ファーストチョイスはシュチェスニーとなっている。

3CBの軸となっていたのはブレーメルとダニーロ。守備で言えば、ユベントス最強コンビ。機動力、高さ、強さでは簡単に負けない。特にブレーメルは昨季セリエA No.1ディフェンダーの名に恥じない守備を見せつけている。ダニーロは1vs1で出し抜かれる場面はたまにあるが、前に出て相手を捕まえに行く守備では簡単に相手を離さないし、クロス対応も悉く跳ね返す強さを見せている。
この2人にパワータイプのガッティがレギュラークラスとして著しい成長を見せてきた。シーズン当初は前に出て裏を取られるなど軽率なミスもあった。しかし、後半戦のガッティは決断に迷いはなかった。前に出たらファウルをしてでも必ず潰す。クロス対応の強さ、高さは言わずもがな。さらに迫力のあるドリブルやロングボールでビルドアップにも貢献し、3バックの一角のポジションを確保してしまった。
加えて機動力のあるサンドロ、ビルドアップ・ロングボールで攻撃の貢献度が高いボヌッチを組み合わせる形で3バックを運用していた。意外だったのがサンドロの適応力だ。インテルとのイタリアダービーでは出色の出来で、サイドバックが本職なだけあって運ぶドリブルや球足の速い縦パスでボールの前進に貢献。サイドからのハイクロスにも迅速に反応して跳ね返す。攻撃的なCBとして開眼したように見えた。もちろん4バックにも対応できるし、CBとして再契約するのら悪くない選択だとは思う。

ウイングバックは、右がクアドラード、左がコスティッチ。この2人はずっとスタメンで出場しており事実上替えが効かない選手である。95分間サイドラインを上下動できるスタミナと、守備で最終ラインに位置しながらカウンター時に最前線まで駆け上がるスプリント力、単独でシュートチャンスを作り出せる攻撃性能を兼ね備えた選手はそうそういるものではない。アイリング・ジュニア、ソウレ、バルミエリといった若手がクアドラードとコスティッチを追いかけている。試合経験を積みながら、追いついてもらいたいところだ。

3センターは、ロカテッリ、ラビオ、ファジョーリがメインだった。アンカーの位置はロカテッリが絶対的な存在だ。ゲームメイクならパレデスも負けてはいなかったが、守備時のポジショニングとコーチング、ディフェンスラインのプロテクトに関してはロカテッリにしか任せられない。ラビオに関しては高さと縦横無尽にピッチを駆け回る運動量を武器に攻守に奮闘。ペナルティエリアへの飛び込みから得点を量産し、やっと覚醒した感がある。シーズン終盤は疲労からかペナルティエリアへの侵入が激減していたことは気にはなる。ファジョーリはスピードとスタミナを兼備していて、攻守に渡ってピッチの広範囲をカバー。その上で技術とアイデアがある。マルキージオの後継者が出て来たという印象だ。来季はレギュラークラスとしてスタートするだろう。更なる成長を期待したい。

2トップは、ブラホビッチ、キーン、ミリク、キエーザ、ミレッティから2枚をチョイス。キーンは点をとりにいき、ミリクはボールを引き取りに下がるプレーを見せる。ミレッティはチャンスメイクに長けている。ブラホビッチ、キーン、キエーザに関しては怪我もあってそもそも満足できるプレータイムを得られなかった。出場すればそれなりのプレーは見せていたが、守備貢献が低かった。キエーザはウイングバックの位置でも出場していたが、思い切りの良さとシュート力を活かすなら2トップに組み込むべきだろう。ブラホビッチとキエーザの2トップが機能すれば、とんでもない爆発力を見せるはずだが…。

鉄壁の守備

5-3-2の採用によって変化した点は、守備のタスクが整理されたことだ。ファジョーリの台頭もあり、中盤の運動量が確保され、3センターで鬼スライドをかけて中盤をカバーすることが可能になった。

右サイドと左サイドでは守り方が少し違っている。右サイドはファジョーリがそのスピードと運動量で中盤の右サイドを広くカバー。クアドラードは明確に下がってディフェンスラインに組み込んで右サイド低い位置の守備を担当。ファジョーリの運動量をアテにしてクアドラードの守備のタスクを「下がって守る」とシンプルにして守備の負担を軽減している。尚且つ、ロカテッリをあまり動かさないことを意識している。ディフェンスラインの前をプロテクトするロカテッリを広範囲に動かさず、ファジョーリが右サイドに出て開いた中盤のスペースは右CBが前に出ることで埋める設計になっている。中央のバイタルエリアをロカテッリで埋め、ハーフスペースは状況に応じてファジョーリか右CBで埋める。右サイドはファジョーリとクアドラードの2枚で封鎖する。

左サイドは、コスティッチが一手に引き受ける。コスティッチが間に合うなら中盤の左サイドはコスティッチが前に出て対応する。ディフェンスラインは左にスライドしてサイドでの数的不利を回避する。ダニーロかサンドロが左CBを入っているため、左SBとして振る舞うこともできる。コスティッチが間に合わなければラビオがスライドして対応する。ラビオにはリーチを生かした懐の深いボールキープで攻撃の起点になり、ペナルティエリアに突入してフィニッシャーとしての役割を求めている。そのため、守備で左サイドにまで動かすよりはボックストゥボックスの動きをさせたいのだろう。コスティッチは左サイドのアウトサイドレーンを任せてプレーしてもらう方がいいのかもしれない。スプリント力、スタミナ、左足の精度と威力、クロス選択のアイデア…。中盤低い位置もできそうだが、クロス精度とアイデアを最大限に活かすのは左サイドだろう。

5バックで守るため、ボックス内の密度は高い。サイドからのクロスは悉く跳ね返し、選手間の距離も縮めて中も閉める。必然的に相手はユベントスの守備ブロックの外でボールを保持することになる。能動的にボールを奪うシーンは少ないかもしれないが、ゴールを守るということに関しては徹底していた。失点するなら、スーパーミドルシュートか、ピンポイントで合ったクロス。もしくはセットプレーだった。低い位置でパスミスから失点する場面もあったが、今後のための授業料と思っていいだろう。ファジョーリはさらに成長するはずだ。ともかく、ユベントスらしい堅い守備が復活した。

見えない攻撃の型

あとは攻撃がうまく機能すれば、勝ち点を上積みできるはずだが、これがうまくいかなかった。原因は、アッレグリの志向と選手が合っていないことにあるように思う。

ディマリア・ロール

シーズン半ば、ユベントスのボール保持の質は確実に上がっていた。ブラホビッチとウイングバック、2CHがポジションを上げて相手のディフェンスラインを押し下げる。後方では3CBとロカテッリが、シュチェスニーも使いながらボールを保持。その間にディマリアが前線からロカテッリの横に下がってくる。ユベントスが後方でボールを保持しているため、相手の前線、中盤の選手はボールを注視しながら自分のマークする選手を追うことになる。守備ラインの選手はブラホビッチら5人が目の前にいるため動けない。下がるディマリアを追いかけることはできない。つまり、中盤でディマリアがフリーになれるわけだ。この動きをチームとして狙って行っていたように思う。2CHとウイングバックが上がる中、逆にディマリアが前から下がってくる。再現性高く、試合中に何度も見られたシーンだった。ディマリアはフリーでボールを受けるとすぐさまターンして、ドリブル、パス、サイドチェンジと局面をフィニッシュを狙うフェーズへと進めていた。あとは一気呵成に攻め込んでシュートまで持って行くだけだったのだが…。

チグハグな攻撃

さて、問題のフィニッシュについてである。今季、ラビオが得点を重ねて評価を高めた。その要因は、ペナルティエリアへの飛び込みの頻度が高まったからだ。高さのあるラビオが助走をつけて飛び込んでくれば、屈強なセンターバックでも空中戦で競り勝つことは難しいだろう。セットプレーも含め、サイドからのクロスに合わせて得点を量産した。しかも、ユベントスの両翼はコスティッチとクアドラードだ。高精度かつ多彩なクロスをペナルティエリアに送り込むことができる。サイドからのクロスにブラホビッチに加えて、ラビオ、ファジョーリ、逆サイドのウイングバックがペナルティエリアに飛び込んで来れば相手からしたら脅威だったはずだ。しかし、試合を見ていた限り、クロスは攻撃の第一選択ではなかったように見えた。クロスを上げられる場面でもバックパスを選択し、やり直す。そして、マークにつかれている選手に無理な縦パスをつけて奪われてカウンター。カウンターを止めても相手のボール保持で守備フェーズの時間が増えるというシーンを何度も見てきた。確かに、相手守備ブロックの中にパスを入れて中央を崩す方が美しいし、ゴールに対する角度もいい。しかし、外を使うからこそ相手守備がサイドに引きつけられて中が開いてくる。クロスを上げずに外を効果的に使えていないのに中を攻略するのは難しいだろう。要はバランスなのだが、中から崩すことに比重を置き過ぎているように見えた。この辺りをアッレグリがどのように考え、指導しているのかがとても気になるところだ。

崩壊したビルドアップ

そして、シーズン終盤。2、3月には効果的に機能していたディマリア・ロールがピッチで見られなくなる。その結果として、後方でボールを保持してもフリーの選手が見つけられなくなり、ビルドアップの時点で相手のハイプレスにハマってしまう場面が増えてしまった。マークを受けている選手に無理な縦パスをつけてはボールを奪われカウンター。ロングボールを蹴るしかなくなり、ボールの前進が不安定になり、押し込まれる時間が長くなる。引いて守る守備はお手のものだが、ゴールが遠ざかってしまい、思うように勝ち点を積み重ねることができなくなった。ディマリア自身のケガがあったし、ケガから復帰した後はブラホビッチのケガやキエーザの復帰によってチームとしての狙いも変化したのかもしれない。結局、ビルドアップの形を見出せないまま、ボールを支配することができず、相手にボールを預けるほかなかった。そして、堅い守備を武器に我慢の戦いを続けるユベントスがそこにはあった。アッレグリらしいと言えばらしいチームが仕上がったが、それによって根本的な問題が浮かび上がった…。


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