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チームマネジメントと戦術 〜20-21 フラム

フラムは残念ながらプレミア残留を果たすことはできず、降格が決まりました。シーズン中盤はとても質の高い試合を見せていただけに、終盤の失速は正直予想外でした。また、その他の残留争いをするチームは軒並み尻上がりに調子を上げて勝ち点を獲得しており、フラムとは対照的に終盤戦を乗り切っています。これがプレミアリーグのレベルということでしょう。来シーズンチャンピオンシップを勝ち抜いてプレミアに戻ってくるためにも、今シーズンのフラムを総括しておきます。そして、特に終盤のフラムの失速から学んだことを書き残しておきたいと思います。

見失った最適解

シーズンを振り返ってみて、今シーズンのフラムは最後まで最適解が見つけられなかった印象を受けます。序盤戦は5-3-2をベースに守備的に戦いつつ、5レーン理論を取り入れたポジショナルな攻撃を志向していました。年明けからは守備時は4-4-2に変化させ、前半戦よりも高い位置でプレスをかけるように調整して2月には降格圏脱出まで後一歩のところまで迫りました。しかし、3月に入ってメンバーの変更や相手チームに合わせた守備戦術の変更を繰り返し、勝ち点を積み上げることができませんでした。
パーカー監督としては、勝つために相手チームの対策を練り上げ、メンバー変更や戦術変更を行っていたのだと思います。しかし、今季のフラムが抱えていた課題は、引いて守った時の脆さにあったと思います。自陣で守備ブロックを敷いて守る時に、ルックマンやアンギッサらの曖昧なポジショニングやマークのズレ、デコードバ・リードを右WBまで下げる守り方などが合わさって中盤でプレスがかからないケースが多く見られました。その結果、守備ラインを下げざるを得ず、チーム全体も引きすぎて中盤を制圧され、波状攻撃を受けてしまい、耐えきれずに失点が嵩んでいました。この課題は、相手チームに合わせた対策を打つことでカバーし切れるものではなかったように思います。むしろ、プレス開始の位置を高くして出来るだけ自陣から遠いところにボールを留めておくプラン、つまり2月に行っていた4-4-2によるミドルプレスをベースにしたプランが最適ではなかったかと思うのです。しかし、あれこれと相手チームに合わせて対策を打っていくうちに自分たちの型を見失っていってしまった…。3月以降のフラムの失速には、率直にこのような印象を受けてしまいます。

勝っているチームはいじるな?

チームビルディングにおいて定説のようによく言われることです。「勝っている時にチームはいじらない方がいい。」今季のフラムを見ていてこの言葉について考えました。その言葉は本当なのだろうかと。

結論から言うと、「チームの状況による」が答えです。

今季のフラムは勝っているときにチームをいじって、失敗したケースだと思います。2月に採用していたゲームプランをゲームモデルとして確定して戦っていたら違った結果になっていたかもしれません。まあ、結果論ですが…。そう思わせてくれるほど、4-4-2の守備は機能していました。高い位置でボールを奪ってチーム全体を押し上げることができていたので、ボール保持時の攻撃にレミナやハリソン・リードが参加して分厚い攻撃を仕掛けて相手守備陣を混乱に陥れていました。裏へ抜け出す意識をより強めることができていれば、さらに得点を伸ばすことができていたでしょう。
しかし、パーカー監督はメンバーや戦術を変更しました。2トップによるファーストプレスに対して3バック化してビルドアップを行うチームとの対戦が多くなったことも関係しているとは思いますが、相手に合わせて自分たちのうまくいっていたスタイルを変化させるという、いわば後ろ向きの変化に見えました。エバートン、ウェストハム、トッテナム、リバプールと今季のプレミアで上位を争っていたチーム相手にも試合の内容では劣ってはいなかったゲームプランを捨てて相手に合わせる変化をする。フラムのような若いチームのメンバーは前向きに取り組むことが難しかったのかもしれません。まして、その変更が結果につながっていなかったとしたら、選手のモチベーションも上がらなかったとしても不思議はないでしょう。3月以降の試合を見ていて、戦術理解の少なさからなのか、モチベーションの低下からなのか、集中力が切れてしまったようなポジショニングのミスやマークのズレ、守備への戻りの遅さが目立っているように思えました。
勝っているときに、後ろ向きな変化をチームに求めることは選手のモチベーションの低下につながり、自滅する危険性を孕んでいる。
例えば、レアル・マドリードの監督に就任したジダンは、カゼミロのアンカー起用を敗戦まで待っていたといいます。それまではクロースがアンカーで起用されており、敗戦という結果が出るまでは変化を求めるタイミングを窺っていたのでしょう。アンカーにクロースを起用して勝っている段階でカゼミロをアンカーに起用するという変化を求めることはチームへ混乱を招き、選手のモチベーションを下げることになるかもしれない。負けたタイミングなら、変化を受け入れやすい。
特に、若く勢いのあるチームの場合は、この傾向はより顕著になるのではないでしょうか?

しかし、勝っているチームに変化を求めることがプラスに働くケースがあることも事実です。

①変化がポジティブな場合は、選手はむしろモチベーション高く変化を受け入れられるでしょう。より攻撃的なゲームモデルの導入などがこのケースに当たります。

②異なる文脈の試合の場合は、消極的にせよ、選手は変化を受け入れやすいと思います。例えば、リーグ戦で好調を維持しているチームが、カップ戦のトーナメントで格上のチームに当たるようなケースです。自分たちが勝っているリーグ戦とは全く違った状況のため、トーナメントの一発勝負のためにそれまでの戦い方を変化させても選手のモチベーションを下げるようなことにはつながりにくいと考えられます。

ただし、「勝っている」の定義もチームによって違ってくるでしょう。レアルやバルサ、ユベントスなど各国リーグで毎年優勝争いをしているチームは、一つの敗戦がチームを変化させるためのきっかけとして十分すぎると評価されることもあるでしょう。一方、今季のフラムのように残留が最大の目標となっているようなチームや若いチームの場合は事情が異なるでしょう。格上のチームに負けたところで、その結果自体はある意味当たり前なわけで、むしろ自分たちのゲームモデルをぶつけてどこまで通用するのか、自分たちの位置を知ることの方が選手たちにとって重要だったりします。しかも、フラムはリバプールやエバートンにも勝ち切っています。選手たちは自分たちのゲームモデルに自信を深めていたと想像できます。相手が首位を独走するシティだろうが、いや、シティだからこそ下手に対策を打ってゲームモデルを放棄するのではなく、自分たちのゲームモデルをぶつけて戦いたかったのではないでしょうか?もちろん、プロなのだから監督の指示に従って全力でプレーすべきなのですが、選手も人間ですから感情やモチベーションに左右されるのも仕方ありません。戦術変更のタイミングやその度合いなど、戦術とチームマネジメントの難しさを感じました。

チームを作るのは選手

チームのゲームモデルや戦術を決定するのは選手です。監督が色々と考えを巡らせ、戦術やゲームプランを練っても、それを実現するのは選手たちであることを忘れてはいけません。

フラムは若いチームで特に引いて守る守備に難がありました。守備のポジショニングや意識の振り分けなどまだまだ学ぶべき点が多かったですが、フィジカルは強く、速さ、高さも申し分ないレベルだったと思います。ゴール近くでのミスは即失点につながってしまいます。しかし、高い位置からチェックに行って奪いに行く守備であれば、ゴールから遠い分危険は小さくなり、周りの選手のカバーも間に合うでしょう。ハイプレスを軸に守備を考える方が選手の特徴に合っていたのではないでしょうか。また、アンデルセン、アダラビオヨ、オラ・アイナらCB陣は足下の技術やパスコースの選択、ビルドアップ時のポジショニングなど、攻撃に関するスキルは軒並み高かったと思います。ボール保持を前提にチームを作ることが選手の能力を最大限に活かすことになるはずです。終盤にビルドアップのミスから失点するシーンが続いてしまいましたが、ロングボールで逃げるなどの次善策は用意しておくべきだったとしても、ボール保持を前提にチームを作った以上は許容すべきリスクだったのではないでしょうか。

中盤の顔ぶれを見ても、引いて守ったときに守備的なポジショニングを取り続けられる選手はレミナくらいでした。アンギッサはフィジカル能力は高いかわりに、ポジショニングがマズく危険なスペースを明け渡してチームを困難に陥れることが多々ありました。ハリソン・リードも悪くはなかったのですが、相手のボール保持が続くと下がりすぎる傾向が強く、ディフェンスラインに吸収されて中盤を簡単に明け渡してしまっていました。
ただし、このアンギッサのフィジカルや前への推進力は前向きの守備であれば相手の脅威になりうるし、攻撃でも発揮されていたハリソン・リードの広角な視野はチームメイトが前から当たってパスコースを限定したときに積極的にインターセプトを狙いに行く土台となります。主に左サイドで起用されることが多かったルックマンは、守備のポジショニングはハッキリ言ってまるで理解していないレベルでしたが、そのスピードと果敢にドリブルを仕掛ける姿勢は相手の脅威となっていました。引いてルックマンを守備に参加させるくらいならトップで起用するか、その機動力を活かしてハイプレスをかける方が良かったのではないでしょうか。選手の特徴や得意なプレーに合わせたゲームモデルを構築してチームの力を最大化することが監督に求められます。

このように考えてくると、やはり2月の調子が良かった時期のゲームモデルが今季のフラムのスカッドとマッチしていたように思います。さらに言うなら、守備に不安があるルックマンではなくロフタスチークを左サイドに、クロスの精度と守備力に長けていたカバレロを右サイドに配することで攻守のバランスはより良くなるように思います。

4-4-2と3-2-5の可変システムを採用し、2月頃のゲームモデルの下に、後ろからアレオラ、テテ、アンデルセン、アダラビオヨ、ロビンソン、カバレロ、レミナ、ハリソン・リード、ロフタスチーク、デコードバ・リード、マッジャの11人が今季のフラムのベストメンバーだったと思います。

選手を成長させる

ここまで書いてきましたが、当然、引いて守るプランが悪いわけではありません。もし、引いて守る、組織的な守備をベースに戦うのであれば、そのプランに合った選手を獲得するか、選手にそのスキルを植え付ければいいということになります。プレミアリーグなどヨーロッパ一部リーグのトップチームに在籍する選手であっても、監督の指導で新しいスキルを身につけて成長していくことが多くあります。例えば、マンチェスター・シティのスターリングは、グアルディオラ監督の指導のもとでアウトサイドからダイアゴナルに走り込んで決定機を作り出すより危険な選手に成長しました。ユベントスでは、アッレグリがベルナルデスキやディバラに守備の個人戦術を徹底して指導し、守備でも攻撃でも計算できる選手になっています。パーカー監督にも、デコードバ・リードやルックマン、アンギッサらに守備のポジショニングや意識の振り分けなどをトレーニングで叩き込み、組織的な守備を強化する方向性もあったはずです。しかし、DAZNの解説でベン・メイブリーさんがプラグマティックな監督と指摘していたように、目の前の試合、目の前の相手の対策に終始して選手を成長させるということには手が回りきらなかったように思います。もちろん、監督という結果が求められる立場に立っているパーカーの決断が尊重されるべきですが、2月の素晴らしいプレーを見せられてしまっては、もっと自分のチームやゲームモデルを信じて欲しかったと思ってしまいます。

個人的な考えになってしまいますが、選手を成長させることは一朝一夕にはできません。先に例を挙げたベルナルデスキは、ユベントスが獲得した当初は守備の意識や個人戦術はほとんど身につけていませんでした。交代出場で場数を踏みながら、アッレグリがタッチラインから熱血指導を行って守備の個人戦術を学び、1年目の後半から徐々に出番を増やしていきました。2年目、ロナウドが加入してからもベルナルデスキは成長を続け、アトレティコ・マドリードとのCLラウンド16セカンドレグではディバラを差し置いて先発に抜擢され見事に0-2からの逆転勝利に貢献しました。守備力を強化していくという育成プランに従って約2年かかって大舞台で輝きを放つ選手に成長しました。今季のフラムでいうならば、2月にチームに合ったゲームモデルを構築することができたのなら、そのゲームモデルに沿って継続して選手を指導していく。その中で、選手が成長し、さらにゲームモデルの実現レベルが上がり、結果もついてくるようになるというサイクルを構築していくべきだったのかもしれません。もちろん、2月の段階のフラムのゲームモデルをベースに選手の成長を促すのならばゾーン1での組織的な守備の優先順位は低くなります。しかし、それは仕方ないことです。時間は有限であり、ましてや2月以降残された期間は約3ヶ月だったわけですから、ミドルプレスとボール保持、フィニッシュワークに特化してトレーニングを行って、まずはゲームモデルを徹底してチームに落とし込むことが最優先で間違いはないはずです。例えば、ルックマンやデコードバ・リードは足下で受けるだけでなく、裏への抜け出しで決定機を作り出したり、相手の守備ラインを下げさせてバイタルエリアにスペースを作り出す動きを学べたかもしれません。これらのプレーのバリエーションを持つことができれば、ルックマンやデコードバ・リードはさらに危険なアタッカーになれるでしょう。アンデルセンやアダラビオヨは、高さ、強さに加えてアンティチポの鋭さを磨き、高い位置でのボール奪取に特徴があるアグレッシブなスタイルの長身ディフェンダーとして評価を高めたかもしれません。ハリソン・リードはテンポ良くパスを捌きながら、守備時のポジショニングやコーチングを学び、攻守に要となるインターセプトの名手へと成長できたかもしれません。

選手の成長のためには、同じゲームモデル、同じスタイルの下で長期間プレーやトレーニングを重ねていくことが必要です。ましてフラムは若いチームです。選手の成長こそ、チームの力を高める最大の方法ではないでしょうか。

残念ながらチャンピオンシップに降格することになってしまいました。今季のメンバーがどれだけ残ってくれるかはわかりませんが、カルバーリョら期待の若手はまだまだ控えています。最良のシナリオは1シーズンでのプレミア復帰ですが、ゲームモデルを構築し、そのゲームモデルに沿って選手を育成し、さらに魅力的なフットボールを展開するチームになって帰ってきてほしいと心から願っています。パーカー監督の去就も気になります。グアルディオラらと並んでプレミアリーグ月間最優秀監督にノミネートされたパーカーならば、これくらいのことはやってのけられるレベルの監督のはずです。視聴環境の関係で来シーズンはフラムを追いかけることはできませんが、近い将来、フラムをプレミアリーグの舞台で見られることを心待ちにしています。

一つのチームを追いかける幸せ

今季、フラムに注目したのは本当にたまたまでした。昨年の12月、何も考えずに、ただ時間が空いていたから見ていたフラムvsリバプールで、そのアグレッシブな試合運びに衝撃を受け、それ以降は毎週フラムの試合を最優先でチェックするようになりました。その頃は5-3-2をベースに守備に重点を置いて戦っていました。しかし、ボールを持つとロビンソンとデコードバ・リードの両WBが高い位置まで上がって5レーンを埋めてポジショナルな攻撃を展開していました。そのスタイルに現代サッカーに遅れをとるまいというポジティブな姿勢を感じました。実際、選手たちは生き生きとプレーしていたように思います。その後、2月の好調な時期を迎え、3月以降の低迷期から降格決定という波の激しいシーズンでした。

これまでも、ユベントスやアトレティコを追いかけていましたが、ここまで熱を入れて、肩入れして一つのチームを追いかけたのは初めてだったかもしれません。エバートン戦でアイナの折り返しをマッジャが叩き込んだ時はパーカー監督とシンクロしたかのようにガッツポーズをしていましたし、リバプール戦でレミナがペナルティエリア右からシュートを決めた時には深夜にも関わらず大声を出してしまいました。また、ミトロビッチのゴールで先制しながら3失点で負けてしまったビラ戦の後は中々眠れませんでした。とにかく、感情を込めて毎週サッカーを観て、次の週末が待ち遠しいという半年を過ごせたことは本当に幸せだったと感じています。フラムに出会えてよかった。心からそう思います。パーカー監督、フラムの選手、スタッフの方々に心から感謝しています。

最高のフットボール体験をありがとう。

また会おう、フラム!!
プレミア復帰を待ってるぞ!!

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