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セリエA 第18節 ナポリ vs ユベントス 〜守備を捨てたユベントスは…

ナポリとのアウェー決戦は1-5で完敗。引き分けでも良かった試合に完敗したことでスクデット争いからは再び脱落することになりました。シーズンはやっと半分を過ぎたところ。ナポリが息切れをする可能性もあるので、この敗戦から学んで、またやり直すしかありません。後半戦に向けて、ナポリ戦を振り返っておきましょう。

アッレグリの失敗

ユベントスのスタメンは、シュチェスニー、キエーザ(!?)、ダニーロ、ブレーメル、サンドロ、コスティッチ、マッケニー、ロカテッリ、ラビオ、ディマリア、ミリク。5-2-3かと思ったが、キエーザをウイングバックに置いた5-3-2でスタート。右サイドの守備を犠牲にしてでも攻撃に出るという意図だったのだろう。アニェッリ元会長が関わる最後の試合ということもあり、勝ちにこだわった采配だったのかもしれない。

アッレグリは、守備力の低下をキエーザやディマリアの攻撃力でカバーできると考えていたのかもしれない。しかし、それは違っていた。1点目はオシムヘンとクアラツヘリアを褒めるべきだろう。ただ、2点目はキエーザが守備に戻っていれば防げた。少なくとも、クアラツヘリアをフリーにすることはなかった。2点差がついたことで、バランスを崩してでも点をとりにいかなければならなくなった。ユベントスの得点は、ロカテッリがリスク承知でペナルティエリアに侵入してディマリアとパス交換をした中で生まれている。ユベントス自らバランスを崩して前に出ている。思っていた戦い方ではないだろう。2失点の後、マッケニーを右ウイングバックに移動させ、5-2-3へと変化させた。しかし、5-2-3はプランBだったはずだ。中盤をラビオとロカテッリの2枚でカバーするのは無理がある。ロカテッリはフィジカルに優れた選手ではないからだ。グアルディオラでもシャビ・アロンソに5-2-3の2を任せることはしなかっただろう。結局、後半途中からパレデスへとスイッチするが、今度は中盤がガラ空きになってしまい、5点目を叩き込まれた。5失点はそれぞれに要因があるが、元を正せば、キエーザとディマリアを同時起用し、かつキエーザを右ウイングバックに置いたことにそもそもの原因があると見る。ユベントス自らバランスを崩して試合に臨み、最大の武器だった守備力を手放してしまっていた。

個人的には、ディマリアではなくミレッティ、キエーザではなくファジオーリを使って右ウイングバックはマッケニーに任せた5-3-2を予想していた。守備を最優先に考え、ミレッティ、ファジオーリの運動量とスピードでナポリとのトランジション合戦にも対応する。ロースコアのゲームで引き分けOKというプランを採用してくるかと思っていたが…。

DAZNの解説では、究極のほこ×たて対決としていたが、ユベントスは自ら盾を捨てた。それでも5失点はやられ過ぎだが、この試合で考えるべきはユベントスの攻撃の方だと思う。守備を捨てたのなら、ナポリと撃ち合いを見せて欲しかったところだが、1得点しかできなかったのだから。

ナポリについて

しかし、クアラツヘリア、オシムヘンの速さと強さは並のディフェンダーでは対応できないレベルだった。リスク承知で後ろから次々と人を送り込んでくる攻撃のメカニズムも素晴らしい。何より、全員がハードワークする。守備で手を抜く選手は誰もいなかった。クアラツヘリアも、オシムヘンも中盤の守備に連動してプレスバックするし、守備にも戻ってくる。全体がコンパクトに保たれ、かつボールに対して果敢にアタックする。ボールホルダーに対して密着する距離まで寄せて動きを封じ、2人目がボールを奪いにくる。その間に他の選手は守備ブロックを構築するためにポジションを回復。仮にボールを取れなくても、守備ブロックはできているため、少なくとも4-3もしくは4-4で守ることはできる。

キーマンは右ウイングだ。この試合では、先発はポリターノ、後半からエルマスが入っていた。オシムヘンとクアラツヘリアはカウンターを脅威を相手に突きつけるためにもできれば前に残したいという意図があるように感じた。しかし、4-3の守備ブロックで守ることは、守備に割ける人数のことを考えれば心許ない。そこで、ポリターノは守備では中盤の守備ラインまで戻り、右サイドを中心に中盤の守備を担当しつつ、攻撃時には右サイド高い位置を取って攻撃に出ていくタスクが与えられている。ナポリは攻守ともに次々と後ろから人を前に出す。守備の際、ポリターノとエルマスはボールへアタックするだけではなく、アンギッサやディロレンツォのカバーも走っている。ここまで大車輪の活躍を見せてきたコスティッチの左サイドを封じ込めたのはポリターノ、エルマスのチェイスとカバーリングが効いている。その分、尋常ではない運動量が要求される。ポリターノが先発で出ても早い時間帯に交替しているのはそのためだろう。

交代枠が5に増えたことで、ポリターノに無理をさせても選手交代で対応できる。ナポリの選手の攻撃に出る、プレスに出る時のスピードは本当に速い。ユベントスの選手に比べて倍近くのスプリントをかけているように見えたくらいだ。交代枠が5あれば、試合開始から全力でスプリントをかけ、途中で限界が来ても交代すればいい。ナポリはそれだけの選手層を抱えている。ポリターノにはエルマス、クアラツヘリアにはロサーノやラスパドーリ、中盤にもエンドンベレやデンメがいる。オシムヘンにもシメオネというバックアップがある。おそらく、替が効かない不動のポジションはロボツカとディロレンツォくらいではないか。

攻撃に目が行きがちだが、守備も良い。ボールを奪うプレッシングに重心を置きつつ自陣で構える守備も強度を保っていると思う。CLでもレアルやバイエルン、プレミア勢を相手にしても互角に戦えるクオリティを持ったチームだということを改めて実感した。

2010年代以降のナポリは、毎シーズン上位に食い込んでくる好チームだったが、取りこぼしが多く最後の最後でトップに立てなかった。その一因が選手層の薄さで、連戦によるコンディション不良やターンオーバーの際に勝ち点を落とすケースが多かったように思う。しかし、今季のナポリは控えにもクオリティの高い選手が揃っており、ターンオーバーを敷いてもチームとしての力は落ちない。

不安材料があるとしたら、CLとロボツカのケガだろう。2月以降、スケジュールがかなりタイトになる。コンディション調整がさらに難しくなるはずだ。走れなくなったら、このチームは勝てなくなる。そして、ロボツカを欠いてしまったら、おそらく相手のハイプレスの餌食になる。ロボツカは眼がいい。相手選手の立ち位置から数秒先のスペースが見えている。ロボツカのポジショニングによってナポリはボールを進めることができている。ロボツカがボールを持ったらワンタッチパス、ターン、ドリブル、縦パスと、あっという間に局面を進めてしまう。ロボツカにボールが渡らなくても、相手の守備を引きつけ、CBや中盤の他の選手にスペースを与える。彼が中盤からいなくなったら、おそらくナポリのビルドアップは機能不全を起こすだろう。

不安材料はあるにしても、それでも今季ナポリがスクデットを勝ち取る可能性は極めて高いと断言できる。

ナポリとユベントス 攻撃の差

ナポリとユベントスの選手の間に大きな差はない。オシムヘン、クアラツヘリアは手強い選手だが、ユベントスもコスティッチ、ディマリア、キエーザと攻撃力に長けた選手はピッチに送り出していた。では、1-5のスコアの差は何だったのか。

それは、選手の配置にあると見る。

互いに敵陣まで攻め込んだ時、守備側の選手の距離はどうなっていたか。ナポリ守備陣は互いの距離が近く、特にボール周辺には全くと言っていいほどスペースはなかった。一方のユベントス守備陣は、互いの距離が離れていてペナルティエリアの中ですらスペースを与えてしまっていた。

この差はどこから来ているか。

ボールと逆サイドの選手がペナルティエリアの高さまで侵入しているかどうかにある。

例えば、ナポリは、ポリターノとディロレンツォの連携から右サイド深い位置まで侵入できた時、オシムヘンとジエリンスキあたりがペナルティエリアでクロスを待ち構える。さらに左サイドではクアラツヘリアがダイアゴナルにペナルティエリアに侵入する。まさに1、2点目はこの形で取っている。ユベントスの守備からすると、ボールサイドに圧縮したいところだが、逆サイドのクアラツヘリアをフリーにしておくわけにもいかず、少なくともキエーザはクアラツヘリアをケアしなければならなくなる。そうすると、今度は右CBのダニーロとキエーザとの距離が離れて、右ハーフスペースを明け渡してしまう。ナポリはそこにマリオ・ルイを突撃させてくるため、ダニーロはキエーザ寄りにポジションを取らなくてはいけなくなり、ブレーメルとの距離が開いてしまう。というように、逆サイドのクアラツヘリアに引っ張られる形でユベントスの5バックが広がってしまい、結果としてペナルティエリア付近でナポリにスペースを与えることになってしまった。

一方のユベントスは、例えばコスティッチ、ラビオ、サンドロの連携から左サイド高い位置まで侵入できたとして、右サイドからダイアゴナルにペナルティエリア入っていく選手はいなかった。ペナルティエリアにはミリクとディマリアかマッケニーあたりが飛び込んではいたが、キエーザはどこかへ行ってしまっていた。ナポリはクロス対応の時には中盤の選手もディフェンスラインに落ちてでもクロスを跳ね返そうとしていた。逆サイドを気にしなくていいため、ボールサイドからゴール前に人を集めてしまえばいい。後半、キエーザやキーンがペナルティエリアにドリブルで侵入したが、ナポリはボールサイドに収縮してスペースを消してドリブルを封じ込めた。仮に逆サイドからダイアゴナルにゴールを狙う選手がいたら、キエーザがボールを下げたところからファーサイドを狙ったクロスで点を取れたかもしれない。逆サイドをナポリが警戒してくれれば、キエーザやキーンにもっとスペースがあったかもしれないし、中盤にスペースができてミドルシュートを狙えたかもしれない。

もちろん、ユベントス目線で見れば慣れないウイングバックを任されて右サイドを1人でカバーしなければならなかったキエーザが戻りが遅くなってしまったり、マークにつききれなかった部分はある。不用意なボールロストでショートカウンターを喰らってしまったらスペースはガラ空きだ。

ただ、攻撃に目を向ければ、これまではなんだかんだでクアドラードが鬼のスプリントをかけてコスティッチのクロスに間に合わせてくれていた。相手の守備を広げて、ペナルティエリア付近でスペースを作るためにも、フィニッシュの場面では両サイドの高い位置にゴールを狙う選手を配置したい。 5-3-2を継続するなら、その役割はウイングバックの選手が担うことになる。ウイングバックは攻守の要だ。コスティッチにも疲労の色が見え始めている。クアドラードは怪我で使えないなら、冬の移籍で確保するしかないだろう。もしくは、スーレやアイリングらの台頭を機に、ウイングを置いた4-3-3に回帰するか。

フットボールは、バランスだ。

そもそも、なぜ守備を捨てたかのような戦い方を選択したのか。この点についてアッレグリは責任を問われて然るべきだろう。だが、守備には多少目を瞑って攻撃にリソースを割く決断をしたのなら、両サイドの選手の配置を上げ、リスク承知でナポリの4バックを殴りに行って欲しかった。

これだけ攻撃的な若い選手が揃っている現在のユベントスをどう導いていくのか。スコアを見れば衝撃的な敗戦だ。チームをどう立て直すのか。次節のアタランタ戦以降のチームの舵取りに注目したい。

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