見出し画像

セリエA 第15節 ユベントス vs ラツィオ 〜伝統と進化

ワールドカップによる中断前のラツィオ戦は3-0で勝利。ラツィオのコンディションが悪かったようにも思いますが、ほとんどチャンスを作らせずに得点を重ねた完勝と言っていいと思います。チームを立て直せた要因や、後半戦に向けた課題などについて書いておきます。

伝統のユベントス

ここ数試合を見ていて思ったのは、「伝統のユベントスが帰ってきた!」ということ。

ベースは全員守備。うまく相手を絡めとり、何もさせない。守備で試合をユベントスペースに引き摺り込んで、どこかで点を取ってしまって気づいたらリードして試合終了の笛を聞く。現副会長のネドベドがユベントスに在籍していた頃、アッレグリ第一次政権の頃の勝ち方だ。リッピ、アッレグリ、カペッロの勝ち方と言ってもいい。ピッチに出ている全員が(特に守備において)手を抜かない。失点を減らし、負けない戦いをする中でチャンスをモノにして勝ちを拾う。

コンテが高く評価されているのは、その戦い方に得点のためのルートを付け加えることができたからだろう。攻撃のパターンを徹底してチームに植え付け、そのパターンで得点を決めてしまう。ただ、その得点パターンを徹底するがゆえに対策を立てられたら攻撃が手詰まりになってしまう。新たに選手を獲得するなどして、次の攻撃のパターンを用意しなければならなくなる。ユベントス時代は選手の入れ替えもうまくいっていたように思う。しかし、前シーズンで結果を残した選手を入れ替えるのは、その選手にとっても納得いかないだろうし、ファンやフロントの理解も得にくいだろう。コンテのチームがCLでは中々上位進出できなかったことや、どのチームでも比較的短期でコンテが監督を辞めていることはこの辺りにあるのではないかと考えたりしている。

ここ数試合のユベントスは、本当によく守備をする。元々、引いて守る守備はいつでもできるくらいに堅かった。しかし、昨季からの悪癖として、攻撃に出た後のネガティブトランジションで後手を踏んでカウンターを喰らい失点を重ねていた。今季散々な結果に終わったCLにおいてはこの悪癖をベンフィカ、マッカビ・ハイファにものの見事に突かれて敗れ去った。今季のユベントスはCLでは5-3-2をメインのシステム(選手の基本的な配置)として戦ってきた。攻撃の際にはボールを保持して相手を押し込む場面も多く見られた。その点は収穫だったかもしれない。ただ、両サイド高い位置で幅をとっていたWBの裏を狙われ続け、最後までケアしきれなかった。原因は単純。ネガティブトランジションの遅さだ。ボールを奪われた時、ボールホルダーに制限が掛からなかった。周りの選手も連動して近くの選手にマークに行くわけでもなく、引いて守りを固めるわけでもなく、中途半端なポジショニングのままでトランジションの局面を過ごしていた。その間、相手は自由にボールを動かすことができ、狙っているユベントスのWBの裏のスペースに簡単にボールを運ぶことができていた。これで失点するなという方がおかしい。特にベンフィカはトランジションは恐ろしく速く、その局面に全てを賭けていると言ってもいいくらいのチームだった。流石、ロジャー・シュミットが監督なだけはある。そんなチームとあの遅いトランジションで戦うことはできなかった。

原因はいくつかあるだろう。ブレーメル、コスティッチ、パレデスら新戦力の獲得が遅くなり、チームの構築が不十分なままシーズンを迎えてしまったこと。アメリカツアーをしていた分、新戦力のチームへの合流がさらに遅くなってしまったのかもしれない。アメリカでのテストマッチでは下部組織出身の若手が多く出場していたくらいだ。また、ポグバ、ロカテッリ、ディマリア、シュチェスニー、ブレーメルらアッレグリが主力として考えていたであろう選手にケガが相次いだこともチームの構築を難しくしただろう。スタートで出遅れ、その上主力にケガが重なった。その分、ソウレ、アイリング、ファジョーリら期待の若手に出場機会が巡ってきたこと、さらに彼らが活躍して得点、アシストなどの結果を出すことができたことはプラスだった。しかし、主力メンバーが揃ってトレーニングする機会がどれくらいあったのだろうか。苦しいチーム事情を垣間見ることができたような気がする。さらに、サレルニターラ戦ではVARによって勝ち点を奪われるという不運もあった。

しかし、ロカテッリが怪我から戻ってきた8節を境にユベントスが息を吹き返す。ゲームの内容が改善。守備とボール保持が安定し始め、試合をユベントスの下にコントロールできるようになった。その後を7勝1敗で駆け抜け、ワールドカップ中断期間を迎えることができた。主な得点源はカウンターとセットプレー。強かった頃のユベントスの図太い試合運びが戻ってきている。

ラツィオ戦を振り返って

守備をメインに試合を支配して気づいたらリードしているという伝統的な試合運びを取り戻しつつあるユベントス。ミラン戦以降、6試合連続クリーンシートで6連勝を達成して中断期間を迎えることができた。そして、ラツィオ戦では更なる進化を感じることもできた。その辺りに着目してラツィオ戦を振り返ってみたい。

完璧な守備

ユベントスのスタメンは、シュチェスニー、クアドラード、ガッティ、ブレーメル、ダニーロ、コスティッチ、ファジョーリ、ロカテッリ、ラビオ、ミリク、キーン。この試合では、守備時のコスティッチのスタートポジションを下げて、明確に5-3-2で戦っていた。両ウイングが幅をとりながら攻撃を仕掛けてくるラツィオに対して、ウイングをフリーにさせたくないという意図があったように思う。5-3-2をベースに守るとなると、中盤の人数が少なくなることが問題となる。3センターの3人だけではピッチの横幅をカバーしきれず、中盤でスペースを与えてしまうことになりがちだ。サイドからの攻撃に対して3センターがスライドしきれず、中盤のサイドを相手に取られてしまうケースが多くなる。しかし、ユベントスの監督はアッレグリだ。中盤の薄さという5-3-2の弱点に対しても対応策を打ってきている。

これまでの試合では、コスティッチの上下動だった。コスティッチがボールの状況によって、中盤のラインに上がって4-4-2で守る。この動きによって中盤の薄さをカバーしていた。当たったチームがウイングを置かないチームだったことや、ミリク、キーン、ミレッティによる前線からのプレスが機能していたこともあって、4-4-2で守備をする時間が多かった。

ラツィオ戦は高い位置を取ってくるウイング対策としてコスティッチとクアドラードはウイングのマークについていた。ラツィオは4バックが低い位置でビルドアップに関与して、ペドロとロメロには高い位置を取らせてきた。そのため、ユベントスは5バックで守備をする時間が多くなり、中盤の枚数の薄さが狙われる状況になっていた。

ラツィオに対するアッレグリの解答はこうだ。

ラツィオの2CBには2トップをぶつける。SBに展開してきたら、ファジョーリとラビオがスライドして対応する。しかし、ロカテッリは中央から動かさない。中盤中央のスペースは明け渡さない。その代わり、ロカテッリとファジョーリもしくはラビオとの距離が開いてしまう。そのスペースにラツィオの選手が侵入してくれば、ガッティ、ダニーロが飛び出して潰してしまう。残ったDFは飛び出した選手の方向にスライドしてディフェンスラインの穴を埋める。コスティッチとクアドラードをウイングのマークにつかせる代わりに3CBの両脇の選手を中盤に上げて、ロカテッリの脇のスペースを使わせない。5バックから1枚中盤に上げて中盤のスペースを埋め、ディフェンスラインは収縮させて4バックへと変化する。ラインディフェンスにおけるチャレンジ&カバーを徹底して、応用した完璧なスペース管理だった。しかもこの守備を、ゴールラインから30m辺りにディフェンスラインを設定して行ってきた。ブレーメルとダニーロを軸にカバーできる範囲が広い選手を揃えていることもあるだろう。ラツィオはユベントス陣内に入った途端に使えるスペースを消されてしまい、思うようにボールを運べなかった。ロメロ、ミリンコビッチサビッチも下がってボールを受けるようになり、ラツィオはユベントスの守備ブロックへ侵入することすらできなくなった。アッレグリのコメント通り、ほとんどラツィオに「何もさせなかった」。

ボール保持とトランジション

完璧な守備でラツィオを封じ込めたユベントス。ボールを奪回して第一選択は縦に速いカウンターだ。2トップにコスティッチ、クアドラードが猛然と駆け上がり、敵陣できたスペースを突く。ボールをうまく出せなかったらバックパスも交えながらボール保持からの攻撃へと移行する。ラツィオはフェリペ・アンデルソンとミリンコビッチサビッチが2トップ気味にプレスに来ていた。ユベントスは3バックとロカテッリで数的優位を確保してボールを保持。ラツィオはセオリー通りロカテッリにボールを持たせないことを最優先にプレスに来ていたので、3バックの誰かをフリーにすることができた。10分にファジョーリのミドルシュートで迎えた決定機は、ビルドアップからシュートまで見事な流れだった。フリーになったブレーメルからライン間をとったファジョーリにパス。ライン間でターンしたファジョーリによるコスティッチへの鋭いサイドチェンジ。中を一度使ったことで左サイドでフリーになったコスティッチがドリブルで持ち上がる。ミリクとキーンがディフェンスラインを下げさせたところに後ろから走り込んだファジョーリがミドルシュート。素晴らしいボール運びとシュートまでの流れだった。決まっていれば今季ベストのゴールになるはずだった。そして、3点目もボール保持からの得点だった。ダニーロを起点に第一プレッシャーラインをパスで越えてラビオ→ディマリアと繋いで、左ハーフスペースにフリーランで走り込んだキエーザにボールが渡る。この時点でキエーザはフリーになっており、ミリクが敢えて止まることでマークを外してキエーザの折り返しをゴールは流し込んだ。ここに来てついにボール保持からの攻撃で決定機を作ることも徐々にだができるようになってきている。

さらに特筆すべきはネガティブトランジションの速さだ。1点目、2点目は共に一度ラツィオにボールを奪われてから、すぐさま奪い返したところがスタートになったショートカウンターだった。ボールを奪われた後のネガティブトランジションが速く、ボールに対してすぐにプレッシャーをかけることができている。1点目の起点となった場面では、左に流れたロカテッリに出した浮き球のパスをカットされたところにミリクが猛然とプレスバックしている。ロカテッリもすぐにプレスバックに行き、コスティッチも前に出てドリブルのコースを塞ぐ。ファジョーリもスプリントで戻ってきてパスコースを切りに行っていた。そして最後はラビオがミリンコビッチサビッチのドリブルをカット。パスカットから守備に動き始めるまでの速さが昨季のユベントスとは比べ物にならないくらい速い。結果としてボールホルダーのミリンコビッチサビッチを囲い込むことに成功し、選択肢を奪ってボールの奪回に成功している。仮にボールを取れていなくても、ボールの前進を妨げつつ守備ブロックを形成することができていただろう。2点目もロングボールの競り合いからラツィオボールになった瞬間にミリクはプレスをかけに行っている。ミリクのタックルで溢れたボールをロカテッリがダイレクトで左に展開。しかもコスティッチ、ファジョーリ、ラビオはミリクがタックルに行った時には前に動き出していた。一歩ラツィオに先んじたコスティッチがフリーで放ったシュートのこぼれ球をキーンが押し込んだ。とにかく、攻守共にトランジションの際の動き出しの速さが格段に上がっている。

特にトランジションの際のミリクの献身的な守備は素晴らしい。ボールを奪われた時にすぐにボールにプレッシャーをかけることができれば、相手のカウンターを潰すことができる。ボールを奪えなくても、味方が守備に戻る時間を生み出すことができる。ミリクのネガティブトランジションが効いて相手がカウンターを諦めざるを得なかった場面は何度もあった。それどころか素早いボール奪取につながり、カウンター返しをユベントスが仕掛けることもでき、それが得点に繋がっている。ミリクの素早いネガティブトランジションはもはやチームに不可欠なものになりつつある。ファジョーリも得点を取ったレッチェ戦からここまでずっとトランジションの速さは目を見張るものがある。ミリクとファジョーリに引っ張られるように周りの選手のトランジションの意識も高まっているように見える。トランジションゲームを苦手としていた昨季のユベントスだったが、ラツィオ戦ではトランジションの場面でユベントスが優位に立っていた。ファジョーリ、ミレッティを筆頭に若い選手がピッチに送り出されていることでスピード、スタミナといったフィジカル面で無理が効くのかもしれない。CBもブレーメルとダニーロが軸となっており、2人とも広範囲をカバーできるフィジカル面で無理の効く選手たちだ。

ユベントスの勝ち方

インテルとのイタリアダービーの後、バルザーリがこんなコメントを残していた。

「これがアッレグリの勝ち方だ。」

徹底してスペースを管理し、守備で勝つ。まさにアッレグリのチームになってきた。しかも素早いトランジションで走り合いにも負けないチームになってきている。実はさりげなく現代サッカーにも対応できる守備的なチームへと変貌を遂げているのかもしれない。引いて守りを固めるだけではない、様々な守備戦術を駆使してアグレッシブに守備をして試合を支配する。そして、カウンターやセットプレーで得点をとって逃げ切る。さらにボール保持からの攻撃でも得点を狙いつつ、素早いトランジションで相手のカウンターを防ぐ。これが現在のユベントスの勝ち筋になっている。

もしかしたら、年明けには守備に軸足を置いた全方向型のチームが見られるかもしれない。

懸念材料としては、ブラホビッチ、キエーザ、ディマリアあたりは特にネガティブトランジションを今スタメンで出ている選手と同等の速さでやれるのかという点だ。彼らがスタメンで出て、守備が崩壊する危険性は十分にある。それでも彼らのクオリティに期待するのか、はたまた今のチームを継続するのか。もしくは、ブラホビッチらにアッレグリが守備を叩き込んでくれるのか。

リーグ再開が待ち遠しいが、せっかくなので明日からワールドカップを楽しもうと思います!!

この記事が参加している募集

サッカーを語ろう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?