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22-23 JUVENTUS preview

新しいシーズンの開幕を目前に控え、ここまでの移籍情報やプレシーズンマッチの様子から、今季のユベントスの展望を占ってみたいと思います。よければお付き合いください。

基本的な考え方

アッレグリが続投し、新たなシーズンでタイトルの獲得に燃えるユベントス。アッレグリは現実的で守備からチームを構築する監督だと思われているだろう。確かに、ユベントスやミランでは守備で相手を封じて勝ちを拾ってきた。しかし、それはアッレグリが類稀な戦術家であり、かつ守備にも高い価値を見出していることから守備的な戦術をアップデートしてレアル・マドリードやバルセロナ、バイエルンなどの強豪クラブと渡り合ってきたからだ。それに、ミランの監督に就任する以前のサッスオロやカリアリ時代は攻撃的なサッカーで注目を集めていた。16-17シーズンにはイグアイン、ディバラ、クアドラード、マンジュキッチ、ピアニッチ、ケディラを同時に起用する4-2-3-1を駆使してスクデットを獲得し、CL決勝に導くなど、攻撃的な采配を振るうこともできる監督である。18-19シーズンには、「相手が一回攻撃する間に、ユベントスは3回攻撃する」とコメントしたこともあるくらいだ。今季のユベントスは、ブラホビッチ、キエーザ、ロカテッリ、マッケニー、ザカリア、ブレーメル、ガッティら20代前半の選手が中心となる若いチームとなりそうだ。アケ、ミレッティらユース上がりの10代の選手も出場機会を増やすだろう。若い選手が中心となったチーム構成になっており、アッレグリがサッスオロやカリアリを率いていた頃の様子に近いのではないだろうか。今季のユベントスが昨季よりも攻撃的な、より得点を求めたプレーを見せてくれる可能性は十分にあると見ている。

昨季も4月のインテル戦では0-1で負けはしたが試合内容で言えばユベントスがインテルを押し込んでいた。少なくともビルドアップについてはアッレグリは構築できていた。ロカテッリをディフェンスラインに落としたり、右SBで先発させたダニーロを3バック気味に後ろに残したりと後ろの枚数調整を企図していた。クアドラードやペッレグリーニ、デシーリオを使って幅をとって相手の守備組織を間伸びさせて中と外を使い分けながらボールを前進させるメカニズムも構築していた。特にブラホビッチが加入してからロカテッリが怪我をするまでの間、つまり2〜4月の上旬までの間は後方の枚数調整を駆使して後方でのボール保持によって相手守備陣を下げさせ、クアドラードとデシーリオかペッレグリーニで幅をとって、ライン間にロカテッリとモラタが侵入して中と外を使い分けてボールを前進させるメカニズムがうまく機能していた。問題だったのは、キモとなるライン間にポジションをとる選手がロカテッリとモラタしかいなかったことだ。4月上旬にロカテッリが怪我で離脱したことで全てが狂ってしまった。さらに同じ時期にデシーリオも怪我をして左サイドバックにサンドロが起用されるようになると、左サイドの幅をとる選手がいなくなってしまった。そうなると、もう1人のライン間を使える選手であるモラタも本来ならばサンドロが引きつけているはずの相手右サイドの選手がモラタのマークにつくことができるため、ライン間でボールを受けることができなくなった。つまり、4月以降のユベントスは中を使った攻撃ができなくなってしまったのだ。かろうじてペッレグリーニが起用された試合であれば左サイド高い位置で幅を取ってくれる分モラタが復活して中と外のコンビネーションを活用した攻撃が展開されていたが、大事な試合ではサンドロが重要され、攻撃はうまく回らなかった。

しかし、今季はディマリアとポグバを獲得し、キエーザが復帰するとなると攻撃的なカードが揃うことになる。しかも、ディマリア、ポグバはライン間でボールを受けて相手守備陣から強いプレッシャーを受けてもボールを扱えるだけの技術やフィジカルを持っている。ライン間を使った攻撃についてはロカテッリとマッケニーに頼りっぱなしで2人が怪我でいなくなった途端に機能しなくなったところをカバーできるだろう。ユベントスの全員で守備をして粘り強く戦い、最後まで諦めないという文化に合わせて、守備を第一に考えることは当然だろう。その上で攻撃のメカニズムの構築にも着手するはずだ。

プレシーズンマッチより

アメリカで行われたプレシーズンマッチの最中にポグバとマッケニーが離脱。マッケニーは肩の脱臼で1ヶ月程度の離脱ということだが、ポグバについては長期離脱となりそうだ。せっかく獲得したポグバだったが、しばらくはポグバ抜きで戦うことになるかもしれない。

プレシーズンマッチでは、一貫して4-3-3をベースフォーメーションとしていた。ダニーロを除くとセンターバックがボヌッチ、ブレーメル、ルガーニ、ガッティの4枚。3バックをメインに据えることはないだろう。今季も4バックをベースに戦うことになるはずだ。あとは中盤より前の並び方をどうするかだが、4-4-2か、4-3-3か。ポグバ、マッケニーの離脱を考えると、中盤の枚数を削った4-4-2系の配置もしばらくはみられるかもしれない。

ディフェンスライン

ディフェンスの軸になるのは、プレシーズンマッチを見る限りブレーメルとボヌッチになりそうだ。3試合を見た限りだが、ボヌッチのコンディションは悪くなさそうだ。得意の右CBの位置を任され、パス回しやロングボールで躍動。さらにベテランらしい落ち着いた対応でベンゼマやレバンドフスキと対峙していた。ブレーメルもドリブルの持ち上がりやセットプレーでの強さを見せていた。ディフェンスでも1vs1やカバーリングなどそつなく対応していた。しばらくはガッティとルガーニはバックアップとして待機することになるだろう。

サイドバックはサンドロとダニーロがファーストチョイスになるのだろう。ボヌッチ以外はブラジル人ばかりだ。プレシーズンマッチでは両サイドの幅をとるのは主にウインガーに任せていた。ポゼッションを確立できていれば、サンドロも高い位置まで上がっていた。守備ではデンベレにボコボコにされてしまったが、シーズンが始まれば周りと連携して2対1を作るなどして対応してくれると信じよう。デシーリオ、ペッレグリーニも控えており、クアドラードも右SBに対応可能だ。相手のハイプレスのかけ方や前線の枚数に合わせて、ビルドアップの形をどうするのか、守備にどれだけ力を入れるのかによってサイドバックののチョイスは変わってくるのだろう。例えば、相手がワントップであればデシーリオとペッレグリーニの攻撃的なサイドバックを起用する。2CBで数的優位を作れるからだ。相手が2トップならばダニーロを使って擬似的な3バックでビルドアップを試みるのかもしれない。また、格下のチームを相手にするならペッレグリーニを使いやすいし、強豪と当たって守備を優先するならダニーロとサンドロがファーストチョイスになるだろう。

中盤

中盤の軸となるのはロカテッリだ。プレシーズンマッチでは中盤の底でパス回しに参加してポゼッションの確立に貢献するとともにズバズバ縦パスを打ち込んで攻撃を加速させていた。それだけでなくサイドチェンジで局面を変え、フリーランでディフェンスラインの裏へ飛び出す。ライン間で構えてボールを引き出して相手を引きつけフリーの味方へスルーパスと、攻撃の全ての局面に関与してチームを牽引していた。さらにディフェンスラインのカバーリング、パスカット、危険なスペースを事前に埋めるなど、守備でも昨季から引き続き安定したプレーを見せていた。トランジションの場面では気が抜けたような場面もあったが、プレシーズンマッチだからだと思いたい。シーズンが始まれば素早いトランジションを見せてくれるだろう。

そして、意外な収穫だったのはファジオーリだ。ポグバとマッケニーの負傷で仕方なく使われているのかと思ったら、とんでもない。ボールを持って簡単に失うことはないし、ドリブルやパスも悪くない。ポグバやマッケニーの不在の穴を埋める存在としてアッレグリにアピールできたのではないだろうか。開幕戦にファジオーリがスタメンに名を連ねていても何ら不思議はないレベルのパフォーマンスだった。ザカリアも攻め上がりのタイミングがよく、決定機に絡んでいた。移籍から半年以上経ち、周りとの連携やチーム戦術の理解が深まっているのかもしれない。

ただ、全体的に中盤の守備が緩い印象があった。簡単にボールをライン間に入れられるシーンも見られ、ポジショニングや中盤の守備ラインのチェーンを維持する意識が低かった。この辺りを強化していく必要があるだろう。ディマリアやケーン、クアドラードらウイングの守備とも合わせて、中盤の守備ラインの強化は必要になってくるだろう。

フォワード陣

前線の選手については、シーズン開始当初はケーン、ディマリア、クアドラード、ブラホビッチが軸になるだろう。バルサ戦は右からディマリア、ケーン、クアドラードの3トップ。マドリー戦は右からディマリア、ブラホビッチ、ケーンの3トップだった。ディマリアは右ウイングでスタートさせるのだろう。これはキエーザが帰ってきた時に左に置くことを前提にしているように思う。ディマリアのクオリティに疑いの余地はないが、ボールロストからカウンターの起点になってしまっていたケースが何度かあった。また、この4人で回していくとなると、クアドラード以外の選手は外に張るよりも中に入ってきてプレーすることを好む。そうなると、幅を取るタスクをサイドバックの選手に任せることになりそうだが、ダニーロ、サンドロをメインに考えるとなると…?

今季はスタートからブラホビッチがユベントスで戦うことになる。孤立した中でもドリブルで切り込んで無理矢理決めてしまうなど、何もないところからでもシュートを枠に飛ばしてしまう人並み外れた力は持っている。覚醒の予感漂うロカテッリをはじめ、ディマリアやポグバら経験豊富な選手も補強した。昨季よりもサポートは得られそうな気はする。同じくゴールに向かって遮二無二シュートを打ちまくるキエーザと組んだ時どんな化学反応が見られるのか。もしかしたら衝突してしまうのかもしれないが、それも含めて楽しみでならない。

ケーンはバルサ相手に2ゴール。しかもいずれもワンタッチでゴールを仕留めている。ゴール前に入ってくる位置やタイミングがよかった。ゴールを取るための嗅覚やポジショニングが洗練されてきたように見えた。ウイングのポジションからスタートさせるより、いっそのことブラホビッチと2トップを組ませた方が脅威になるのではないだろうか。

いずれにせよ、突貫小僧のキエーザがどのタイミングで合流するのかが気になるところだ。

今季のユベントスを予想する

さて、ここまで各セクションについて見てきた。それを踏まえてチーム構成について考えてみたい。

守備

おそらくベースフォーメーションは4-3-3。守備時はウイングを中盤に落とした4-5-1か4-4-2を基準にするだろう。その上で起用される選手の特徴によってオプションがいくつかある。

まず、ディフェンスラインの選手起用についてだが、ボヌッチ、ブレーメルが軸になり、おそらくはダニーロとサンドロがサイドバックの第一選択になるだろう。ダニーロは攻め上がらずに3バックを気味に残ってビルドアップに関与するプレーと、ウイングをディフェンスラインまで下げて一時的に5バック化して守る時の右CBに対応するために必要な選手だ。試合の中でシステムを可変させるアッレグリ得意の戦術に欠かせない人材である。そうなると、右ウイングには外に張って幅をとるタスクを任せることになる。さらに守備時には右WBとして振る舞い、ディフェンスラインまで戻って守備をすることも求めたい。5レーンを埋めて攻撃してくる相手の攻撃を受け切るにはこちらも5バックで対応しなければディフェンスラインが数的不利に陥るからだ。となると、右ウイングにはディマリアよりもクアドラードの方が向いていそうだ。上記のタスクは、昨季クアドラードが担っていたものだ。ディマリアは外に張っても十分プレーできるし、高精度のクロスやカットインからのチャンスメイクで得点に絡んでくれるだろう。ただ、プレシーズンマッチでは右ウイングでスタートしても積極的に中に入ってボールを引き出そうとしていたし、何よりディマリアにディフェンスラインまで下がって守備に参加させるのだろうか?レアル時代にはウイングとCHを両立させていたスペシャルな選手だったが、ディフェンスラインまで下がってはいなかった。しかし、ディマリアをディフェンスラインまで戻さなければ、ディフェンスラインの人数が足りずに守備の強度が落ちてしまうだろう。アッレグリはディマリアにどこまで求めるのだろうか?

続いてチーム全体の守備について考えてみる。ディフェンスラインのベースは4バックだろう。上記の通り、5バック化する守備は組み込みたいところだが、右ウイングにディマリアを起用するなら、どこまで守備のタスクを求めるのか。個人的にはディマリアにディフェンスラインまで戻らせるのは得策ではない。攻撃においてクオリティを発揮してもらうべき人材だ。あり得るとしたら、前半もしくは60分くらいまではディマリアを出場させ、攻撃に注力して先制、追加点まで持っていく。後はクアドラードやデシーリオあたりと交代させ、5バック化する守備を実装して追加点を狙いつつ、試合を終わらせる。という感じで試合を通して選手交代などでマネジメントしていくパターン。もしくは、左ウイングをディフェンスラインまで下げるパターンだ。ソウレやケーンを左ウイングで使うなら、体力的にも、攻撃の質的にも守備負担を増やしてもプラスの方が大きいかもしれない。

個人的に試して欲しいのが、ザカリアをディフェンスラインに下げるパターンだ。4-3-3をベースにするなら、おそらくザカリアは3センターの右に入るだろう。守備時にボールを深い位置まで運ばれたら、ザカリアが右SBと CBの間に落ちる。代わってディマリアが一時的な右CHの位置まで下がって中盤の守備に参加する。左ウイングも中盤まで下がれば5-4-1の強固な守備ブロックを組める。ロカテッリをCBの間に下げるパターンもアリだろうが、ロカテッリは中盤の守備ラインの統率ができるため、できれば中盤に残しておいた方がいいだろうと考える。こうすることで、ディマリアの守備負担を多少は軽くすることができるし、5バック化する守備も実装可能になる。ザカリアの身体能力があれば、ペナルティエリア内で相手のフォワードと対峙しても互角に戦えるのではないだろうか。

とにかく、引いて構える時には5バックへ移行できる方が望ましい。その上でハイプレスに行くなら基本的には前からマンマークでついてボールの前進を阻み、ボールが出る可能性が低いサイドの選手を捨てて最終ラインの数的優位を確保するやり方が基本となるだろう。ボヌッチとサンドロをどこまで信用するかにもよるが、場合によってはオールコートマンツーマンも選択肢に入ってくる。昨季のように前線の守備はあくまでボールの前進を阻んで選択肢を減らして後方の選手がパスカットもしくはロングボールを競り勝つパターンで行けばボールの回収位置は低くなり、その後はビルドアップからの攻撃に移行することになる。さまざまなインタビューや報道を見る限り、今季はビルドアップやボール保持からの攻撃に力を入れているようだ。昨季のようなハイプレスのやり方でボールを回収して今季取り組んでいるボール保持からの攻撃に移行して試合をコントロールするのではないか。ハイプレスに出ても相手にうまくボールを運ばれたら、4-5-1か4-4-2のブロックを形成してミドルプレスを行う。ボールの前進を止めるのが最優先で、バックパスを選択させられれば十分という守備になるだろう。素早いスライドでボールの前に人を立たせて守備ブロック全体を有機的に移動させてボールの前進を阻む。4-4-2で対応するなら、右ウイングを下げる方がいいと思う。左ウイングを下げてザカリアを右サイドに出すよりは、右ウイングを下げてザカリアを中央に残した方がザカリアの守備力を活かしやすいし、上記のザカリアを守備ラインに下げるパターンも使いやすい。

攻撃

ペリンがレアルとのプレシーズンマッチの後に「現在、最終ラインからのビルドアップを狙っている」とコメントしていた通り、今季はボール保持からの攻撃に注力しているようだ。ビルドアップに関しては昨季から取り組んできており、インテルやビジャレアル相手にボール保持で押し込み続けることができるレベルにはあった。それでも敢えてビルドアップを狙っていると言っているのは、いついかなる時も、誰が出ていても、どんな相手でも、ということなのだろう。昨季はロカテッリとマッケニーのどちらかがいなければまともなビルドアップは出来なかった。2人を欠いた4月以降はクラシックな堅い守備とダイレクトな攻撃に活路を見出していた。しかし、今季はその2人がいなくても、ビルドアップを狙う、つまりボール保持からの攻撃をベースに試合運びを考えるということだろう。

となると、昨季からいろいろと試していた後方の枚数調整からスタートすることになるだろう。2CBによるビルドアップをベースに、相手のハイプレスの枚数に合わせてダニーロを残した3バックやロカテッリを落とした3バックへと可変してフリーの選手を作ってボールを前進させるパターンを試合によって試していた。今季は事前に準備するだけでなく、相手の動きに合わせて試合の中で2CBによるビルドアップだったり、3バックへと可変したりすることを目指すのだろう。そうすることで常に相手のファーストプレスに対して数的優位を確保して、フリーの選手を作る。その選手が手にした時間を有効に活用して楔のパスを打ち込んだり、ドリブルでボールを運んで相手の中盤の選手を釣り出して味方にスペースと時間を渡してフィニッシュワークまで高い確率で持っていく。そのためには、後方の枚数調整だけでなく、ライン間にポジションを取る選手をあらかじめ用意しておかなくてはならない。昨季はこの選手がロカテッリとマッケニーしかいなかった点がユベントスのビルドアップがまともに機能しなかった大きな原因だった。今季はロカテッリとマッケニーに加えてポグバ、ディマリアがいる。さらにはミレッティもライン間でプレーするだけの戦術眼とテクニックを備えているといえる。実はブラホビッチもライン間でのプレーは可能だろう。左足のミドルシュートは彼の大きな武器の一つだ。ケーンや中盤の選手が裏を狙ってディフェンスラインを引きつけた時にブラホビッチが下りてきてライン間を使うプレーも狙っていきたい。

さらにいうなら、昨季はとにかく当たって砕けろの勢いで猛スピードでマンマークのハイプレスにくる相手に苦しんだ。時間を奪われ、パスが乱れることもあったし、プレスを外しても強い当たりと抱え込んで引きずり倒すことも辞さないダーティなファウルによってプレスをひっくり返すことがなかなかできなかった。この点についても対策を立てておきたい。具体的には、前線に人を集めて蹴るロングボールだ。ブラホビッチを孤立させることなく、ディマリアやケーンらと共に近い距離にポジションを取らせて、ブラホビッチの頭やディフェンスラインの裏を狙ってロングボールを蹴り込む。裏を取れればそれだけでチャンスになるし、ブラホビッチが競り合ってさえくれれば、ケーンやディマリアがセカンドボールを拾うチャンスが出てくる。その際に味方が近い距離にいてくれれば単騎突破だけでなくコンビネーションで崩しにかかることができる。高い位置からマンマークでついているなら、少なくとも2対2の勝負に持ち込めるはずだ。ブラホビッチとディマリアが2対2を仕掛けられるなら、高い確率でシュートまで持ち込めるだろう。昨季はハイプレスをかけられたらサポートのためか前線の選手も下がってきて、背後からの激しいアタックで転倒。よくてファウルを受けて自陣からのフリーキック、悪ければボールロストでショートカウンターを食らう流れだった。ハイプレスを受けても前線の選手は敢えて下がらず、ブラホビッチを基準に距離を狭めてロングボールを蹴る。相手がロングボールを警戒してくれれば、ハイプレスの勢いを削ぐことができる。そうなれば、ショートパスやドリブルでハイプレスを剥がす確率も上がる。ハイプレスを諦めるなら、ビルドアップへと移行できる。

うまく後方でのボール保持を安定させられたら、ボールを前進させて相手の守備組織を崩しにかかるフェーズに入る。ライン間に人を置いて、ショートパスとドリブルでボールを前進させる。昨季は左サイドで幅をとる選手がいなくなってしまい、相手に中を閉められて本来ならば左ハーフスペースでボールを受けてプレーするはずのモラタがバッチリマークにつかれて潰されるという不恰好な攻撃が展開されていた。右サイドについてはクアドラードが外で張っており、状況を見てロカテッリも右サイドに張り出してきて、外と中を使い分けてボールを運ぶことができていた。ユベントスのボール保持からの攻撃がうまくいっていた時期は、左サイドバックにデシーリオが使われていて、ボールを保持している間にデシーリオが左サイド高い位置まで進出して幅をとっていた。右サイドは先述した通り。つまり、両サイドで幅をとる選手を配置することができたときにユベントスの攻撃はうまく回っていた。ちょうどデシーリオが左サイドバックで先発起用が続き、ロカテッリが右CHでの出場が続いた時期にインテルとビジャレアルを押し込みながら敗れている。結果は良くなかったが、試合内容はボールを保持して攻撃するユベントスが試合の主導権を握っていた。

さて、今季はどうなるか。両サイドで幅をとって仕掛けることができるタイプの選手は、クアドラード、ペッレグリーニ、デシーリオくらい。サンドロにはもう期待しないことにした(笑)。となると、後方でのボール保持が安定したとしても、その後の攻撃には不安が残る。サイドで幅を取らないのであれば、相手の守備は思い切って中に絞ることができる。ポグバやディマリアらライン間でボールを扱える選手を獲得したとはいえ、相手守備が中央に絞っている状況でそこにボールを入れても厳しい守備に阻まれてしまう可能性が高い。試合を見ていないのであくまでも推測だが、アトレティコとのプレシーズンマッチで4失点を喫したのは、中央を閉めたアトレティコに対して、それでも無理矢理中へ楔を打ち込もうとしてカウンターを喰らい続けたのではないかと予想する。まあ、プレシーズンマッチだからこそ敢えて無理矢理パスを通そうとしてみたところはあるだろうが。さて、ここで問題。サイドバックをサンドロとダニーロを第一選択として、かつディマリアとケーンをウイングに起用するとなると、相手の守備を崩すためにどういう配置やプレー原則を設定すればいいだろうか?

結論。どうにもならない。幅をとる選手がいない以上、そのまま狭い中でボールを前進させ、無理矢理どうにかしてしまうほかない。つまり、ライプツィヒ方式だ。狭い中でボールを放り込んでカオスを作り出し、ゲーゲンプレスでボールを奪ってカウンターのカウンターを仕掛ける…。いや、ちょっと待て。ユベントスは、アッレグリはそのカオスが一番避けたかった状況なのではなかったか。どちらに有利に転ぶかわからないカオスの状態を避け、攻守どちらにおいても出来るだけ試合をユベントスの支配下に置いておく。そのためのボール保持であり、ボールの前進を止める守備を構築してきたはずだ。そうだとしたら、あり得るのはただ一つ。ディマリアには外に張ってもらう。サンドロには高い位置まで上がらせる。アッレグリがトレーニングで徹底して指導するしかない。もしくは、ペッレグリーニに左サイドバックの定位置を与えて我慢して使い続けるか。これが出来なければ、本当にカオスの中に飛び込むことになりかねない。まあ、それなりのクオリティを備えた選手をそろえていることは間違いないので、それはそれで新しいスタイルとして面白いかもしれないが。

ダニーロとサンドロにこだわらなければ、クアドラードとペッレグリーニを左右のサイドバックで使うという超攻撃的な布陣も考えられる。むしろ、期待したいのはこちらの方だったりする。前述のザカリアを守備ラインに下げる守備を実装するなら、それなりに成立しそうな気はしないでもない。何より、攻撃時にはクアドラードとペッレグリーニが高い位置まで駆け上がり、ディマリアとケーンもしくはキエーザが中に入ってライン間に陣取る。ポグバとブラホビッチも絡んで中にボールが入ればフレア、クオリティ共に最高クラスの攻撃が見られるのではないか。相手がそれを嫌がって中を絞めるなら、ペッレグリーニとクアドラードにボールを渡してドリブルによる仕掛けや高精度のクロスでペナルティエリアを急襲。ブラホビッチ、ポグバ、キエーザに加えてザカリアやロカテッリ、ディマリアがペナルティエリアへ飛び込んで来れば魅力的な攻撃が展開できる。前がかりになりすぎてカウンターを食らうリスクもあるが、ペナルティエリアに飛び込む人数を調整して、セカンドボールの回収やカウンター対応のためのポジショニングをとる選手を用意することである程度リスクを管理することは出来るだろう。前線のクオリティを存分に発揮させるためにも、是非とも両サイドを広く使った攻撃を構築してほしいところだ。

ナーゲルスマンのように幅を広く取らずに攻撃をすることがトレンドになりつつある。確かに、ゴールは中央から動かないのだから、ペナルティエリア程度の幅をとればいいのかもしれない。だが、ユベントスが強かった時期には必ず大型のターゲットマンがいて、外からのクロスが大きな得点源となっていた。トレゼゲ、イブラヒモビッチ、マンジュキッチ、ロナウド。彼らの得点パターンはさまざまだが、どれだけ苦しい試合展開の中でも、最後の最後はハイクロスを競り合って頭でゴールへ流し込んでしぶとく勝ち点を重ねてスクデットを勝ち取ってきた。ユベントスは、フィジカルの強さが伝統の一つであるチームなのだ。今季はブラホビッチ、ポグバ、ケーン、キエーザ、ザカリアらフィジカルに優れた選手が前線に揃っている。彼らがペナルティエリアに侵入して待ち構えていればハイクロスを得点に変えてしまうだけのパワーを持っていると思う。中央に絞って狭いスペースの中でグラウンダーのパスを受けてもフィジカルの優位性を発揮することはできない。もちろん、ポグバ、ディマリア、ロカテッリら高いテクニックを持った選手も揃っているため、テクニックとコンビネーションによる中央突破も選択肢に入ってくる。それも外からの攻撃と組み合わされば、さらに破壊力を増すだろう。中を締めれば外から攻撃され、外を警戒すれば中を使った攻撃にさらされる。相手守備陣からしたら悪夢のような攻撃が展開できる。

今季のユーベは面白い

ダニーロ、サンドロ、ディマリアあたりに外に張るように徹底するのか、はたまたクアドラード、ペッレグリーニを起用して外を使うのか。もしくは、外を使う選手がいないと割り切って中央突破に掛けるのか。ファイナルサードの出方は未だ不透明なところが多いが、プレシーズンマッチでは意図的に中への縦パスを入れまくっていた。それだけでも今季のユベントスがビルドアップから攻撃を組み立てようという本気度が窺えるのではないだろうか。ユベントスはさっさとボールを捨てて引いて守ることはいつでも出来てしまうチームだ。そのユベントスがボール保持に意欲を示している。引いて守りつつボールを保持する。なかなか珍しいチームが出来上がるかもしれない。今季のユベントスが面白くないわけがない。

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