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CL GS 第1節 PSG vs JUVENTUS 〜keep improve

注目のチャンピオンズリーグ初戦。パリ・サンジェルマンとユベントスの試合は1-2でPSGの勝利に終わりました。決定機の数でもPSGが上回り、勝利に相応しいパフォーマンスだったように思います。しかし、ユベントスとしても決して悪い試合だったわけではなく、むしろ好感触の試合でした。試合を振り返り、今後のユベントスを占ってみたいと思います。

PSG

パリのスタメンは、ドンナルンマ、ハキミ、ラモス、マルキーニョス、キンペンベ、ヌーノ・メンデス、ベラッティ、ビティーニャ、メッシ、エンバペ、ネイマール。試合を見ていた限り、5-2-3が一応のベースポジションになりそうだったが、前3人はかなり流動的に動いており、即興性の高い攻撃を繰り出していた。守備は5-2のブロックでとにかく中を固めて中央からの崩しを制限して、能力の高い3CBの守備力で何とかするという感じ。たまにネイマールが下がって5-3のブロックのようになることもあり、一定程度の守備の強度が保たれていた。メッシとエンバペはハイプレス時はスプリントしてプレスに出るが、ボールが自分より後方に出たらプレスバックするのではなく、前残りしてカウンターの起点になっていた。エンバペとメッシ、時にはネイマールも加えてMNMを前残りさせて、最後は得点で上回ればいいという攻守分業型のチームとも言える。

前3枚に自由を与えてその攻撃性能を最大限に発揮させるために、残り7人には攻守に渡ってハードワークが求められている。両WBは攻撃時は高い位置まで上がって幅をとる。サイドはほぼ1人でカバーする設計になっているため、素早いトランジションも必須だ。CHには、ビルドアップでは3CBからボールを引き取ってMNMにボールを届けるリンクマンとしての役割が求められる。さらに、ネガティブトランジションでは近くのボールホルダーに蓋をすることと、スプリントして守備に戻ってディフェンスラインの前をプロテクトするという超重要タスクが求められる。仮にベラッティとビティーニャが戻って来なかったら、いくら世界屈指のCBを揃えていると言っても失点は免れないだろう。

攻撃時は、まずは3CBと2CHでボールを保持して前進を図る。WBは高い位置まで上がる。2CHは相手中盤ラインの間にポジションをとって相手の意識を中に引きつける。そうすると外が空いてくるので、WBへボールを渡し、自由に動き回るMNMがボールサイドに寄って来てコンビネーションでサイドを切り崩す。WBへのパスラインを切れば2CHへボールを渡してライン間を起点に崩していく。ベラッティ、ビティーニャはライン間でボールを受けて前を向くスキルと囲まれてもボールを逃してしまうだけの技術と眼を持っている。それでいて守備でも奮闘しているのだから、素晴らしいの一言だ。さらにボールの前進に成功すれば、ラモスが中盤のラインまでポジションを上げて攻撃に加勢。相手を押し込んで敵陣でプレーを継続する。そして、ファイナルサードまでボールを運んでしまえば、MNMの技術、フレア、スピードによる即興性の高いプレーでゴールに迫る。明確な戦術というか、狙いがないため守備側も予測がつけられないだろう。ユベントス戦ではフライスルーパスを使って意表を突いてきた。どこのクラブもMNMを完全に封じ込めることは難しいと思う。

前線の圧倒的な攻撃力を最大限に活かすためにMNMを前残りさせ、5-2のブロックで守る。敢えて外は捨て、世界屈指のCBを並べてゴール前を固めることで最後の最後でゴールは割らせない。それでもCLに出てくるレベルの強豪クラブ相手であれば失点はするだろう。ユベントスにも何度か決定機を与えていた。しかし、守備のリスクを攻撃のリターンで上回るというコンセプトなのだろう。CBの守備力と、WBとCHのスーパーハードワークに支えられた攻守分業型のチームと言える。前線に守備免除のスーパースターを並べたドリームチームとしては最善のバランスなのかもしれない。

ユベントス

ユベントスのスタメンは、ペリン、クアドラード、ブレーメル、ボヌッチ、ダニーロ、コスティッチ、ラビオ、パレデス、ミレッティ、ミリク、ブラホビッチ。今季初めて5-3-2をベースに戦うことを選択した。その意図は、ブレーメルを守備時に前に押し出してネイマールを捕まえる狙いがあったように思う。また、ブラホビッチとミリクの2トップを起用。孤立しがちだったブラホビッチの近くでミリクをプレーさせることも狙いとしてあったはずだ。いずれにせよ、CLの初戦でグループリーグ最大のライバルであるPSGとの試合に今季初のシステムをぶつけてくるあたりがアッレグリらしい。戦前のコメントではベンフィカ戦が最重要と語っていた。その上、今季のスケジュールは異常なまでにタイトになっている。試合と試合の間のトレーニングはほぼ回復に充てることになるだろう。試合で実験を繰り返しながら最適解を探っていく傾向がさらに強くなるかもしれない。

さて、5-3-2で試合に入ったユベントス。ミレッティを上げてPSGの配置と噛み合わせてハイプレスに出る場面もあったが、クアドラードがヌーノ・メンデスに間に合わない場面が多く、高い位置でボールを奪えない。まあ、WB同士のプレスの掛け合いはベースポジションをどこに置くかで相手との距離が決まる。そのため、引いて守る時に5バックで行くことを前提に戦術を組むと、クアドラードにハイプレスに行くなら元から上がっておくべきであるということを理解して実行させるのはなかなか難しいのかもしれない。今でこそユーティリティプレーヤーみたいに言われているが、クアドラードはバリバリのドリブラーで攻撃に特化した選手なので、やはり守備に関する戦術理解は多めに見なければいけないと思う。結局、ハイプレスに行っても外されるなら後ろにスペースを与えるだけなので、引いて守ることを選択するユベントス。PSGに押し込まれることになるが、むしろこれがデフォルトの守備なので全く動じない…。

ブレーメルの裏をめぐる攻防

この試合の行く末を左右した場所がある。ブレーメルの背後だ。ユベントスの守備は、5バックをベースに、ディフェンスラインからブレーメルがネイマールを捕まえに出て行っていた。ネイマールにスペースを与えないという狙いがあったはずだが、ブレーメルが出て行った後、ディフェンスラインにスペースが生まれてしまう。

この試合では何度もブレーメルが出て行った背後のスペースを狙われている。ネイマールは、ブレーメルが自分に対して前に出て捕まえにくることを理解していたはずだ。敢えて低めにポジションを取ってブレーメルをディフェンスラインから引きずり出し、その背後をエンバペに狙わせていた。後半、ネイマールのヒールパスからメッシ→エンバペと繋がったシュートシーンが好例だ。1点目も、ネイマールがライン間でボールを持った時にブレーメルはマークに出ようとして重心が前に出ていた。そのことによってエンバペへの対応が遅れたという側面はあるだろう。ネイマールによってユベントスのディフェンスラインは寸断されてしまった。

ただ、本来であればディフェンスラインがブレーメルが元いた位置を中心に圧縮してブレーメルが出て行った後のスペースを消すはずだ。しかし、この試合ではそれがうまくいかなかった。

ポイントはPSGの攻撃の仕組みだ。両WBがトップと同じ高さまで上がってくる。しかも、その攻撃性能は本職のウイングと遜色ない。クアドラードとコスティッチとしては彼らを無視することはできなかったのだろう。ブレーメルが空けたスペースを埋めるために中に絞るのは中々難しかったのだと推測する。

では、ボヌッチとダニーロはスライドして埋めることはできなかったのか。

ダニーロはコスティッチが気になっていたはずだ。PSGの2点目は、コスティッチがサイドにいるにも関わらずダニーロがハキミに無理をしてマークに行って空けたスペースをハキミに使われてラストパスを入れられている。コスティッチに任せておけば、ハキミがクロスを入れたスペースをダニーロが埋めておくことができた。ユベントスにとって攻撃のキーマンでもあるコスティッチをフォローする意識がかなり強かったのだろう。ちなみに、無理してハキミのマークについたのなら、絶対に離してはいけなかった。とにかく、引いて守るフェーズにおいてコスティッチがハキミを気にして中に絞れなかったとしたら、ダニーロもコスティッチとの距離感を保つために右にスライドすることは難しかっただろう。

そうなると、ボヌッチもブレーメルの空けたスペースを埋めるのは難しいだろう。ダニーロが左サイド寄りの位置に止まるのならば、ボヌッチもダニーロとの距離感を保つことを優先するはずだ。ダニーロとの距離を開けてブレーメルのカバーに動けば、最も危険なゴール前のスペースを空けることになってしまう。難しい選択だが、CBとしてボヌッチはゴール前にいることを選んだように思う。ゴール正面からシュートを撃たれるよりも、右45度からシュートを撃たせる方がまだマシだ。角度があるし、ボヌッチがシュートブロックに動くことでさらにシュートコースを限定できる。シュートブロックできなくても、GKが防ぐ可能性は上がる。

昨季からユベントスは4バックをメインに戦ってきた。そして、ボールを深い位置まで運ばれた時にクアドラードを下げて一時的に5バックへと可変する守備で5レーン理論に基づいた攻撃を仕掛けてくる相手と渡り合ってきた。この守備のやり方は、ディフェンスラインに空いているスペースを埋めるために「下がる」という意識を強く持つものだった。ディフェンスラインの選手には空いているスペースを埋めることは求められていない。それを求められるのは、ディフェンスラインに下がってくるクアドラードだけだ。翻って今回のPSG戦では、ディフェンスラインからブレーメル前に「出る」守備を敢行した。昨季とは全く異なる守備のやり方だ。過密日程でトレーニングもままならなかったとしたら、選手の中でも困惑があったのかもしれない。

後半については4バックへと変更していたことが大きい。68メートルもあるピッチの横幅を4人でカバーしようとしている。さらにブレーメルが前に出ていなくなると、その空いたスペースをスライドして埋めるのはさらに難しくなる。ペリンの奮闘もあって2失点で済んではいるが、決定機の数はさらに多い。慣れない5バックの採用によって綻びが生じたユベントスの守備をMNMを筆頭とするPSGの選手のクオリティの高さが上回った試合だった。

PSGとユベントスの差

この試合では多くの場面でPSGがユベントスを上回った。アッレグリはこのゲームに関してポジティブなコメントを残していたが、強がりではないか。いくつか言及してみたい。

移動の速さ

移動の速さについては昨季のチェルシー戦でも言及した通り、カウンターのチャンスと見るやスプリントをかけている選手が多い。エンバペ、ネイマール、メッシは当然のこと、ハキミ、メンデスも猛然とサイドを駆け上がる。PSGのカウンターでは、ボールがマイナス方向に動くことはない。スピーディなカウンターで相手の守備が戻る前に攻撃を完結させてしまう。一方のユベントスは、カウンターで前にスプリントする選手はブラホビッチ、ミリク、コスティッチくらいのもの。たまにクアドラードが駆け上がるが、前線にボールを送ってもパスの選択肢が少ない。どうしてもボールをキープしてバックパスの選択が多くなる。その間にPSGの選手たちはこれまたスプリントで素早く戻ってくるため、帰陣を許して守備ブロックを敷かれてしまう。

タッチ数

もう一つの差が、選手個々のタッチ数だ。スタッツを見ると、ボール支配率はPSGが53%、ユベントスが47%とそこまで離れてはいない。しかし、パス本数はPSGが大きく上回った。PSGの選手はパスを受けてからパスを出すまでの間のタッチ数が少ない。ワンタッチ、ツータッチのパスがリズム良く回る。シュートに行く場面でさえワンタッチのパスが2本、3本とつながる。当然、ボールの動きは人の動きよりも速い。ディフェンスが対応しきれない攻撃になる。一方のユベントスの選手たちはパスを受けてからのタッチ数が多い。しかも、ドリブルで前にボールを運んでいるわけでもない。ほとんどボールは前に動いていないのに、その場で方向転換をしたり、パスの出しどころを探す時間稼ぎのためにボールタッチを繰り返している。その間に相手は帰陣してポジショニングを整えてしまう。冷静に周りを見て、状況を確認して、危険なスペースを埋められてしまう。技術的な問題もあるだろうが、ボール保持からの攻撃の強化に取り組んでいる最中であること、新加入の選手が多いことから選手間の理解がまだまだ深まっていないことが原因のような気もする。

距離感

また、選手間の距離が遠いことも気になる。PSGは、選手間の距離が近い。例えば、1点目のシーンではエンバペがユベントスの5-3ブロックの3の脇でボールを受けた時、左サイド大外にはメンデスが張っており、ライン間にネイマールが移動してきている。エンバペからすると、メンデスにも、ネイマールにもパスが出せるし、距離が近いためコンビネーションで崩すこともできる。ユベントスは選手間のPSGに比べて距離が遠い。例えば、PSGの5-2ブロックの2の脇でミレッティがボールを持った時、コスティッチは左サイドに張ってパスを受けようとしているが、中への選択肢がない。ブラホビッチが裏抜けを狙っていたシーンもあるが、ゴールの真正面なのでミレッティからは遠くてタイミングが合わない。パスの距離が長くなると、それだけパスカットされる危険度も上がる。特に崩しのフェーズでは相手も守備ブロックを組んでいたり、距離を詰めてプレスに来るため遠い選手へのパスは出しにくくなる。だからこそ、ボールを持つ選手の近くでボールを受けられる位置に他の選手を配置したいところだ。

守備においても相手との距離感の詰め方に差を感じた。PSGはボールホルダーに対してタイトに寄せ切る。ゼロ距離まで詰めて、時間を奪う。とにかくボールホルダーに時間を与えない。ユベントスの選手はゼロ距離まで詰めることはほとんどない。一定の距離を保って守備をする。しかし、PSGの選手にはその距離ではプレッシャーにはならなかったのかもしれない。1点目は、エンバペ、ネイマールに余裕を持ってパスを出されてしまっている。右サイドでは距離を保って守備をした結果、メンデスとエンバペにスピードでぶち抜かれてしまった。スタッツを見ると、獲得したFKの数はユベントスの方が多くなっている。ファウルをすることがいいわけではないが、それだけPSGの選手がタイトに寄せていた結果なのではないだろうか。

スプリントをかけるべき場面では体力的に厳しくてもピッチにいる以上はスプリントをかける。ボールを素早く動かして相手の守備を揺さぶる。 崩しのフェーズで選手のポジショニングを整理する。ボールホルダーへの寄せについても修正の必要があるだろう。この辺りを改善することがアッレグリには求められるし、手腕が問われるところだと思う。

ユベントスの光明

とはいえ、ユベントスもPSGにボコボコにやられたわけではない。ブレーメルの裏を狙われて難しい守備を強いられたけれども、後半はPSG相手に4バックを使って無失点で切り抜けた。消すべきスペースを事前に消すことでそれなりに渡り合えたように思う。守備の人選やコスティッチのクアドラード化が進めば、さらに強度の高い守備が形成されるだろう。

PSGが攻守分業型のチームだったことも助けになったところはあるだろうが、ボールを保持して攻撃を仕掛けて押し込むこともできていた。パレデスもフィオレンティーナ戦より動けていたし、縦パスを入れる意識も高かった。

そして、ブラホビッチとミリクの2トップがそれなりに有効だったことも収穫だ。ナポリ在籍時にはガンガン点をとっていたミリクの得点能力は錆び付いてはいなそうだ。前半、クアドラードのクロスに合わせたヘッドは決まっていてもおかしくなかった。

なにより、クロスが大きな武器になることが明確になった。右からクアドラード、左からコスティッチがクロスを撃ち込み、ミリクとブラホビッチが飛び込む。さらにもう一枚ペナルティエリアに飛び込めれば危険度はさらに増すだろう。この試合でも証明したように、ボール保持から前進する力はついてきている。今季のユベントスにとって、サイド深い位置までボールを運ぶことは難しくはない。そこにコスティッチがやってきた。マッケニーのゴールをアシストしたクロスはドンナルンマを釣り出すことまで見越したクロスだったように思う。これまでコスティッチが左サイドからペナルティエリアに送ってきたクロスの意図を考えてみると、GKに取られないコースを通してきていた。おそらく、コスティッチはGKとの駆け引きも視野に入れてクロスを上げている。手を使えるGKにキャッチされてしまったら、そこで攻撃は終わる。ヘタをするとGKのスローイングを起点にカウンターを食らう危険性すらある。「ロストフの14秒」が記憶に残っている人は多いだろう。GKを外すことができれば、相手はボールを弾くしかない。セカンドボールを味方が拾って二次攻撃のチャンスが生まれる…。コスティッチの意図がまだユベントスの選手に理解されていないところはあるだろう。たった数試合の間にコスティッチのクロスが味方の目の前を通過していくシーンを何度見たことか。それだけ左サイドを駆け上がり、多くのクロスを上げているということになる。これからコスティッチの狙いが周りに伝わり、シュートを撃つケースが増えれば得点のチャンスも増えるだろう。

ちなみに、コスティッチは前述したスプリント、タッチ数共に意識高くプレーできていた。カウンターの場面では左サイドを爆進していたし、守備の際もゴール前まで戻ってきていた。ユベントスの選手の中ではワンタッチプレーも多く、「見えている」選手であることは間違いない。

新生ユベントスを組み上げるパズルのピースは揃った。新戦力の特徴も見え始めている。これから、パズルの完成に向けた試行錯誤が始まる…。

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