見出し画像

セリエA 第10節 トリノダービー 〜現代サッカーとユベントス

連敗の後、合宿騒ぎや解任論争など色々あった中で行われたトリノダービー。ミリンコビッチサビッチ(GK)の活躍が光った試合の結果は守備で試合をコントロールした1-0でユベントスが勝ちました。ひとまず勝ちを拾ったユベントスですが、これから先も勝ち続けられるかはわかりません。試合を見て、思ったことを書いておきます。

守備重視のユベントス

ユベントスの先発は、シュチェスニー、クアドラード、ブレーメル、ダニーロ、サンドロ、マッケニー、ロカテッリ、ラビオ、コスティッチ、キーン、ブラホビッチ。ベースフォーメーションはクアドラードが右SBに入った4-4-2だったように思う。その上で守備時にコスティッチが下がってSBのように振る舞う場面もあり、主にボールの位置に合わせてコスティッチが下がって守備の人数を調整していた。ハイプレスにはあまり出ることはなく、ハーフウェイラインより少し前にプレスを開始するラインを設定していたように思う。4-4-2で守備ブロックを組んでボールの前を塞ぐ。その時のボールホルダーとの距離が今までよりも近く、プレッシャーをかけに行っていた点は改善点だろう。トリノがバックパスを選択したら、そのバックパスをトリガーとしてハイプレスに移行。ブラホビッチとキーンは相手から時間を奪いに行き、後ろも思い切ってマンマークでついてインターセプトを狙う。ブレーメルは古巣との対戦ということもあったのか、猛烈な勢いでプレスをかけて何度もボールを奪っていた。そして、この守備で前向きにボールを奪ったら、その勢いのままカウンターを発動。ブラホビッチとキーンだけでなく、コスティッチ、ラビオ、マッケニーも走り出す。周りの選手も連動して敵陣に走り込んで迫力のあるカウンターを撃っていた。ユベントスの決定機のほとんどは高い位置でボールを奪ってからのカウンターからだった。

また、ロカテッリがアンカーポジションにいることで、ディフェンスラインの前のスペースをプロテクトしてくれることで引いて守る守備の安定感が高まる。トリノはユベントスの守備ブロック内になかなかボールを入れることができず、4-4-2のブロックの外から攻撃を仕掛けるしかなかった。この試合のユベントスは、引いて守る際の強度は高かった。トリノが活路を見出したのはクアドラードのサイドだった。何度か突破を許して危ないシーンもあったが、ダニーロの河田弟のヘルプに来る河田兄のような恐ろしい速さのカバーリングや、コスティッチを守備ラインまで下げていたことが奏功するなどして難を逃れていた。また、ロカテッリもサイドからのクロスを中盤から下がってクリアしてピンチを救っていた。ラビオやマッケニーに守備のポジションを指示していた場面もあり、ロカテッリの守備での存在感は増すばかりだ。

守備で気になったのは、やはりコスティッチの動きだ。守備ラインに下がるタイミング、逆に守備ラインから中盤に戻るタイミングがまだ合っていない。特に中盤に上がるタイミングはワンテンポ遅い気がした。そのことによってマークにつくのが遅くなり、簡単に入れ替わられるシーンが何度か合った。

一方、ボールを保持した際のユベントスは、シュチェスニーも使いながらポゼッションを狙う。トリノも積極的にハイプレスをかけてきたので、ボールを前進させるのには苦労していた。ブラホビッチとキーンがサイドに流れて起点になるプレーを見せており、それがうまく機能してボールを運ぶこともできていた。それでも苦しい時にはブラホビッチとキーンを目掛けてロングボールを蹴り、ボールロストでも守備に移行するという図太い姿勢も見せていた。カウンターに活路を見出すのなら、厳しいハイプレスに対して無理して繋ぎに行く必要はない。ブラホビッチとキーンが数的同数になっているならロングボールを蹴り込んで勝負させればいい。セカンドボールを拾えなくても、4-4-2のブロックを形成して上記の守備に移行すればいい。ボールの前進を阻んで、バックパスをトリガーにハイプレスに出る。アグレッシブかつ集中して守備に取り組み、ボール奪取からコレクティブなカウンターに繋げていけばいい。

ユベントス(アッレグリ)の懸念材料

ボローニャ戦、トリノ戦と守備を重視したプレーで勝利を掴み取った。まさにユベントスの伝統的な戦い方だったと思った。インターナショナルブレイク明け、合宿明けにこのプレーをして、アッレグリのいう「バランスの取れた」戦いで相手の攻撃を押さえ込み、決定機の数で上回った。しかし、この戦い方が継続できない。

原因はいくつか考えられると思う。あくまで想像だが、全く見当違いということもないだろう。

一つ目は、シーズン前にビルドアップに取り組んでいたこと。ペリンが今季はビルドアップに力を入れてトレーニングしているが、まだまだ改善が必要だ、という旨のコメントを残している。チームが取り組んでいたプレーを途中で放棄することは、なかなか難しいだろう。費やした時間と労力を考えれば、ビルドアップを重視したプレーを継続すべきと思うだろう。つまり、ボールを保持して攻撃するプランをどうしても捨てきれないところがあるのだろうと思う。しかし、ディマリア、ポグバ、ロカテッリら重要プレーヤーをケガで欠き、コスティッチやパレデスは獲得時期が遅くフィットしきれてきない。そんな中でビルドアップに執着しても相手のハイプレスに巻き込まれて難しくなってしまうことは仕方ないかもしれない。

二つ目に、ポゼッションもしくはストーミングという現代サッカーの潮流だ。グアルディオラのマンチェスター・シティとクロップのリバプールを筆頭に、様々なメディアで現代サッカーの最先端として取り上げられているポゼッションとストーミング。いずれも相手を圧倒して数多くのゴールを叩き込んでいる。先日のリバプール対シティの試合のように得点が少なくても、両チームがボールを巡って激しくプレーするため、ファンが興奮する試合になる。多くのファン、もしかしたらプレーヤーもこういう試合を見たい、プレーしたいと思うだろう。その対極にあるのが、伝統的なユベントスとアッレグリのプレースタイルだ。アッレグリやユベントスに長くいるボヌッチがよく発言している「危険なスペースを管理する」というコメントは、自陣にブロックを敷いて構えて守備をすることを前提にしたものである。守備を第一に考え、かつハイプレスではなく引いて守ることを選んでいる。現代サッカーの潮流もしくは流行とは真逆の発想だ。インターネットの発達で個人が得られる情報量が爆発的に増え、流行りの戦術やサッカーの考え方を多くの人が知っている。さらにスポーツの視聴環境も変化し、アーカイブを辿ればシティやリバプール、バルサ、アーセナル、レアルなどの試合は幾らでも観ることができる。セリエAでもナポリやアタランタを筆頭にポゼッションやストーミングの考えを取り入れて成功しているチームがある。そうなると、ユベントスもポゼッションもしくはストーミングを導入すべきだ、考えるファンやプレーヤーが多くなるのは自然なことだ。実際、サッリ、ピルロを監督に招聘してポゼッションに挑戦しようとしていた。ただ、ユベントスにはポゼッションの文化はなかった。むしろ全員守備で粘り強く戦うことこそユベントスの文化だった。そして、アッレグリは伝統的なユベントスの戦い方に活路を見出そうとしている。ファンの反発は目に見えている。さらに現代サッカーと共に生きてきた若いプレイヤーはポゼッションやストーミングに自分たちも挑戦したいと考えている者が多いのではないだろうか。

そして3つ目は、ユベントス自身だ。常勝の2文字を掲げている以上、常に結果を出さなければファンやフロントは納得しない。しかし、サッリ以来ポゼッションという、これまでの文化、プレースタイルと真逆のことをやろうとしているのなら、結果が出ないのはある意味当然で、我慢強く待たなければいけない。シティもグアルディオラを招聘してからCLの決勝に駒を進めたのは未だ1度だけだし、クロップがリバプールでビッグイヤーを獲得し、プレミアを制覇するまで5年近くかかっている。昨季セリエAを制覇したミランや今季プレミアで優勝争いをリードしているアーセナルも、今のチーム状態に辿り着くまでにピオーリ、アルテタを我慢して、しかし信頼して監督に据えてきている。今季これまでの成績を見る限り、アッレグリをクビにすることも致し方ないと思う。ただ、ユベントスが勝利を積み重ねるなら守備を第一に考え、ポグバやディマリア、キエーザらの復帰を待って、徐々にポゼッションを導入していく緩やかな変化がチームの歴史を考えるとベストなように思うのだが…。

現代サッカーの潮流がユベントスの文化と乖離してきたことによって様々な軋轢が生み出されているように感じる。アッレグリがやるべきことは結果で黙らせることだが、プレーヤーの中にもアッレグリの目指すサッカーに否定的な選手がいる可能性もある。総合的に考えると、ポゼッションやストーミングも取り入れつつ、ユベントスの文化と現代サッカーの融合を目指していく方向性がベターなのだろうか。

この記事が参加している募集

#サッカーを語ろう

10,969件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?