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セリエA 第9節 ミラン vs ユベントス 〜ブチギレるアッレグリ

ミランとの重要な一戦は、ミランに退場者が出たことでユベントスのイージーモードに。結果はロカテッリのミドルのディフレクションがゴールに吸い込まれて0-1で勝利。決定機の数も少なく、数的優位が嘘のような内容でした。終盤、アッレグリがベンチ前で暴れ回った気持ちも分かる気がします。

ボールを持たせたユベントス

ユベントスのスタメンは、シュチェスニー、ウェア、ガッティ、ブレーメル、ルガーニ、コスティッチ、マッケニー、ロカテッリ、ラビオ、ミリク、キーン。定番の5-3-2でしたが、ダニーロの怪我のためルガーニが入り、怪我のためかゲーム運びのためかブラホビッチとキエーザらベンチスタートとなりました。以前の記事で触れたように、左WBがカンビアソかコスティッチかでゲームプランが読めるのが現在のユベントスです。カンビアソならボール保持に力点を置き、コスティッチなら守備からダイレクトな攻撃を狙う意識が高まります。ミラン戦はコスティッチが先発していました。アッレグリがチームに授けたプランは守備から入ってカウンターを狙うプランだったように思います。

対するミランのスタメンは、ミランテ、カラブリア、チャウ、トモリ、フロレンツィ、ムサ、アドリ、レインダース、プリシッチ、レオン、ジルー。4-3-3をベースにボール保持から両サイドの突破力で勝負してきました。ただ、超攻撃的なサイドバックのテオ・エルナンデスがケガでいなかったことはかなりの痛手だったように思います。というのも、ミランの攻撃は結局のところプリシッチとレオンによる単独の仕掛けに頼ったものになってしまっていたからです。

ミランのビルドアップは、2CBに加えてフロレンツィも残って3バック気味に構えて後方のボール保持を狙うというものでした。ユベントスの2トップに対して後方で数的優位を確保してボール保持を安定させる狙いがあったのだと思います。ユベントスは無理してCHを前に出すことはなく、ミランにボールを持たせて自陣に5-3-2ブロックを形成して待ち構えました。ミランの3バックにボールを持たせる代わりに2トップが中へのパスを消してミランのボールの動きをサイドに誘導。右サイドはマッケニーが大きくスライドしてサイドの守備にも出ていき、ロカテッリがカバーに入っていました。ウェアとガッティはミラン最大の脅威であるレオンの対応に備えてディフェンスラインと同じ高さをキープしていました。左サイドはラビオが内側を上がってくるカラブリアをマークしつつ、プリシッチにはコスティッチが対応。たまに入ってくる縦パスにはルガーニが縦に強く出て潰していました。人につくというよりは選手の特徴に合わせてチューニングされたゾーンディフェンスです。

やはり、今季のミランは中を使った攻撃がうまく回っていないように思います。原因はシンプルで、効果的にライン間を使える技術とアイデアを持っていたブラヒム・ディアスがいなくなったから。さらに報われないのは、レアルではベリンガムが絶好調でディアスは全く試合に出ていないことです。それならミランに置いておいてくれればよかったのに…と思うところですが、セリエAのクラブがレアルに財政的に対抗できるわけもなく……。ディアスが出て行き、代わりにプリシッチを獲得してレオンと合わせて両サイドからの攻撃を強化してきたのが今季のミランなのではないでしょうか。レインダースとロフタスチークはブラヒム・ディアスの後釜として考えていたと思います。レインダースは分かりませんが、ロフタスチークについては20-21シーズンのフラムを見ていたのでイメージはあります。フィジカルが強く、足元の技術もある選手です。ただ、ディアスほどのアジリティはなく、狭いスペースでも息ができる選手ではありません。むしろ、レオンやプリシッチのクロスに2列目から飛び込ませる方がロフタスチークのフィジカルが活かされて相手の脅威になるでしょう。とにかく、ユベントスは中を徹底的に閉めてボールを外へ外へと誘導して、レオンとプリシッチを止めることに注力していました。特にレオンに対しては必ずカバーのポジションに1人置いて、実質2対1を作ることを徹底していました。プリシッチはコスティッチが抜かれない距離を保ちつつサイドに誘導してうまく対応していました。カンビアソならもしかしたら何度か抜かれてしまっていたかもしれません。ただし、ここにテオ・エルナンデスが絡んできていたらレオンにダブルチームにつくことができずに左サイドから崩されていた可能性は十分にあるでしょう。次の対戦の鍵を握っているのはテオ・エルナンデスかもしれません。

ボールを持たされたユベントス

さて、ミランがボールを保持し、ユベントスが構えて守るという構図で進んだ試合でしたが、ユベントスがボールを保持する場面もありました。もちろん、レッドカード以降はユベントスがボールを保持する時間が長くなったわけですが、ミランはユベントスのボール保持への明確な回答を持っていたように思います。それは、ロカテッリとルガーニを消してガッティにボールを持たせることでした。まず、レインダースがロカテッリにマンマークでついて徹底してロカテッリを消しにかかりました。現状、ユベントスのビルドアップ隊の中でゲームや相手のポジションを読み取ってボールを動かし、攻撃のリズムを司るのはロカテッリただ1人。ロカテッリを消すことがユベントスのボール保持への対策の第一歩です。さらにミランはジルーがルガーニを消しながらブレーメルにプレスに行くことでガッティにボールを持たせるように仕向けてきました。ガッティとルガーニを比べれば、ビルドアップ能力は明らかにガッティの方が劣ります。「あの」サッスオロ戦では、プレスをかけられた時に周りの状況を落ち着いて確認することができないことが露呈してしまいました。今後もガッティはハイプレスのターゲットとして各チームからボールを持たされ、狙われるでしょう。ミラン戦でも、局面を進める縦パスはほとんどなく、WBにつけるかブレーメルもしくはシュチェスニーに下げるパスがほとんどでした。

ただし、チャウの退場につながったのはガッティのサイドからでした。これもフットボールの面白いところです。ゴールキックからガッティが受け、サイドのウェアに横パス。ウェアが内側にドリブルからのターンでフロレンツィを躱してキーンへ出したスルーパスがキーンの抜け出しを呼び込みました。ミランからしたら予定通りだったはずです。ガッティにボールを持たせて、読み通りの横パスだったのですが、ウェアが個人技でフロレンツィを完璧に外したプレーとチャウが焦ってキーンに密着しすぎた点が誤算でした。狙い通りにいっても、その先で予想外のプレーやミスがあれば一瞬で全てが変わってしまいます。まさに、「サッカーは1分あれば全てが変わるし、変えられる」わけです。

このゴールキックからの一連のプレーで試合の様子は一変しました。

数的不利になったミランはプリシッチを交替で下げざるを得ず、ユベントスがボールを保持する展開に変化しました。ミランがハイプレスを諦め、自陣に下がったため、ついにロカテッリが解放されボールがサイドからサイドへと動き始めたユベントス。しかし、相手の退場で絶対的な数的優位になっているにも関わらずなかなかシュートまで行けません。コスティッチに替えてカンビアソを投入して左サイドの流動性を確保するカードを切りますが、中盤より後ろでのボール保持には貢献してもフィニッシュまでつながりませんでした。原因はシンプルで、全員足下でボールを受けたがっていたからです。スペースや裏を狙って走る選手はほとんどおらず、スペースを狙ったパスも出ませんでした。チャウの退場につながったプレーもウェアとキーンが裏を狙ってプレーした結果です。ゴールに向かわないプレーに怖さはありません。足下で受けるだけなら、DFはボールとマーカーを自分の前に置いて守備ができます。ボールを受けるところに厳しくチャージして自由を奪ってしまえば対応できます。手詰まりとなったところでロカテッリのミドルが相手に当たってゴールに吸い込まれましたが、正直行って運が良かったとしか言いようがありません。ロカテッリにしても仕方なく撃った部分も少なからずあると思います。この程度のレベルの攻撃では、スクデットは取れないと断言します。試合後のアッレグリのコメントには完全に同意です。

ブチギレるアッレグリ

そして問題のキエーザ投入です。ブラホビッチ、キエーザに加えてカンビアソ、ミレッティ、ハイセンも交替で入れて現状、考えうる限りポゼッションに振り切ったメンバーに変更しました。もちろん、レオンにはブレーメルを当てる保険付きではありますが。しかし、数的優位の中でポゼッションに振り切ったメンバーにしても足下で貰いたがる意識に改善は見えず。キエーザに至ってはWBの位置まで下がってボールを受けてはまともに仕掛けもせずにパスを戻すだけ。たまに仕掛けるそぶりを見せては無理に中央でブラホビッチと連携しようとしてボールロストからカウンターを誘発する始末。ブラホビッチにしてもウェアやマッケニーと息が合わずに中央でパスがズレてカウンターを誘発。アッレグリも思わずジャケットを破らんばかりに脱ぎ捨てて怒りを露わにしていました。

「てめーら、その程度のプレーでよく俺の指導に歯向かうようなことを言ってきたな!!💢

「そのナメたプレーでチームが負けるんだよ!!💢

アッレグリの気持ちもよく分かります。

ただ、この一連の行動が大きな波紋を呼ばないことを祈るばかりです。そして、不用意なプレーをしないように指導するのもアッレグリの仕事です。成熟したチームへ成長することを期待しましょう。

ジャッジに苦言

総括すると、前半はミラン、ユベントスともに想定の範囲内の試合展開でした。ミランはボールを保持して押し込み、ユベントスはミランの攻撃ルートを読み切ってサイドを封じる。なかなか見応えのある好ゲームだったと思います。

ただし、前半唯一の決定機だったジルーのシュートについては異論ありです。ラビオに対するレインダースのトリッピングは、ラビオがジャンプした後に肩でラビオを押しており、明らかに故意のファウルでイエローカード相当だったと思います。そのファウルを見逃してラビオが倒れている間のシュートでしたし、チャウの退場につながったウェアのスルーパスの際にフロレンツィはアフターでウェアの軸足を蹴っています。ピオーリは試合後にガッティへのイエローが遅すぎたとコメントしていました。それはその通りですが、ミランも怪我につながる悪質なファウルを犯していたと思います。サッカーもラグビーに倣って相手を危険に晒すプレーには躊躇なく警告を出すべきです。今季、ユベントスはヨーロッパのコンペティションがなく比較的余裕を持ったスケジュールで動いていますが、ミランやインテルは週に2試合のペースでスケジュールが組まれています。インターナショナルマッチウィークも10日あまりの日程で2試合が行われています。選手を怪我から守るのは大会主催者の義務だと思うのですが……。

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