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EL R8 ユベントス vs スポルティング 〜キエーザは万全か?

ELの準々決勝の1stレグはかろうじて1-0でユベントスが勝利しました。しかし、チャンスの数、決定機の数ではスポルティングが上回り、試合内容は褒められたものではありませんでした。ペリンの決定機阻止はユベントスを助けてくれました。スポルティングが良かったことは間違いありませんが、この試合内容になった要因はユベントスが採用した戦術にあります。具体的には、アッレグリがよくやる、「大事な試合で突然新しいことを試す」ことが残念ながらハマり切らなかった、ということだと思います。さて、試合を振り返ってみましょう。

ユベントスの5-2-3

ユベントスはシュチェスニー、クアドラード、ガッティ、ブレーメル、ダニーロ、コスティッチ、ロカテッリ、ラビオ、ディマリア、ミリク、キエーザを先発させ、基本的な配置は5-2-3でスタートした。今季これまで採用してこなかった5-2-3をEL準々決勝の舞台で試してくるあたりがアッレグリらしい。おそらく、狙いはスポルティングの5-2-3にマンマークでついてハイプレスを仕掛けるのが最大の狙いだったはず。ミラーマッチを仕掛けてプレスを嵌め込みやすくするための布陣だと思う。実際、3バックには3トップをぶつけ、ウィングバックにはウイングバックを、2CHには2CHをぶつけてハイプレスに出て敵陣でボールを奪ってショートカウンターを撃ったシーンもあった。そのどれかがゴールに結びついていればアッレグリの狙い通りの展開になったはずだが、スポルティングもボールロストと同時に必死にゴール前を固めてきた。残念ながら、ショートカウンターをゴールに結びつけることはできなかった。

さて、ユベントスの狙いがマンマークによるハイプレスだったとして、毎回ハイプレスがうまくハマるとは限らない。マークにつくタイミングがズレてフリーにしてしまったり、ロングボールを蹴らせてもセカンドボールを拾われたりすることはある。当然、自陣で守備ブロックを敷いて守る場面も出てくる。ボール奪取位置が下がればカウンターを撃てずにボールを保持する時間もやってくる。この試合の問題は、自陣での守備とボール保持にあった。それは、今回の5-2-3の採用に起因していると考えられる。

問題点① 5-2の守備

スポルティングにボールを前進させられると、自陣での守備のフェーズに入る。この試合のユベントスはここに大きな問題を抱えていた。具体的には、3トップが守備に帰ってこないため5-2で守らなければならなかったことだ。3トップが守備に参加しないことはアッレグリの指示なのか、個人の判断なのかはわからない。ただ、キエーザとディマリアのキャラクターを考えれば、3トップで同時起用すれば必然的に守備に戻ってこないことはある程度計算できることだ。そのおかげで、中盤の守備はロカテッリとラビオの2枚でピッチの横幅をカバーするという恐ろしいことになっていた。サイドからの攻撃に対してロカテッリとラビオが出ていかなければならなくなり、ディフェンスラインの前はガラ空きになってしまった。例えば、ロカテッリが右サイドまで出て守備に行く。ラビオもロカテッリのスライドに合わせて右ハーフスペースに移動する。しかし、ロカテッリとラビオが移動する距離が長すぎてスポルティングのサイドの選手へマークにつくのはどうしても遅れてしまう。その間にドリブルやパスでサイドを突破され、マイナスのクロスを上げられたらスポルティングの選手はフリーでシュートを打ち放題だった。ディフェンスラインの選手はボールの位置に合わせて下がるしかない。本来なら、中盤の選手がディフェンスラインの前をカバーしているはずだが、ラビオとロカテッリはサイドに引き出されてしまっている。シュチェスニーのビッグセーブやブレーメル、コスティッチのカバーによって何とか失点を防ぐことはできた。しかし、ディフェンスラインの前がガラ空きになるという構造的な問題は後半途中にファジョーリが投入されて5-3-2に移行するまで放置されたままだった。前半のうちに2、3点叩き込まれていても不思議はなかった。

問題点② ボール保持メカニズムの崩壊

そして、スポルティングにやりたい放題攻撃されたため、ボールの奪回地点は低くなり、効果的なカウンターを撃てないユベントス。必然的にボールを保持して攻め込むことになるが、キエーザの存在により今季取り組んできたボール保持のメカニズムが機能しなくなる。

まず、左サイドでキエーザもコスティッチが使いたいスペースが被ってしまう。キエーザが左サイドで張っているためコスティッチが高い位置まで上がれない。かといってコスティッチを低い位置に置いてビルドアップに参加させたり、中盤に参加させるでもない。つまり、攻撃時にコスティッチがいないも同然だったのだ。

それに伴って、ディマリア・ロールも機能不全を起こす。キエーザが左に張ってコスティッチが上がって来れなくなり、前線にはキエーザとミリクとクアドラードとディマリアがいる状況となった。ロカテッリはビルドアップに関与している。ラビオは5-3-2の配置に比べて低い位置に配置されているため、上がるよりもビルドアップのサポートに回る方が多かった。その状況で前線からディマリアが中盤に下がっても、スポルティングはディフェンスラインから思い切って飛び出してディマリアにマークにつくことができる。5バックに対してユベントスは4枚しか前線にいないからだ。ディマリアのマークのためにディフェンスラインから飛び出しても、まだ4枚守備者はいる。ディマリアが下りる分、ユベントスの攻撃陣は3枚となり、数的優位を保つことができる。結局、ディマリアを使ったビルドアップも機能せず、ユベントスの攻撃は手詰まりとなってしまった。

効果的な攻撃を繰り出せたのはハイプレスがハマった時だけ。ショートカウンターでディマリア、キエーザのクオリティを最大限に引き出す狙いがあったのだろうが、残念ながら得点には至らなかった。

キエーザは万全だったのか?

5-3-2の20分間

この試合でユベントスが優位に立てていたのはブラホビッチとファジョーリを投入して5-3-2をベースに戦っていた時。守備でもほとんど危ない場面は作られなかったし、ファジョーリがペナルティエリアまで走り込むため攻撃に厚みがもたらされた。中盤が3枚になったことでローテーションが可能になり、ロカテッリが中盤の底から解放された。ユベントスの選手の中で最も高い戦術眼を持つロカテッリが前線に出てくることによって、その他の選手がスペースと時間を得ることができるようになった。ロカテッリが危険なスペースに顔を出すことでスポルティングの守備ブロックを引きつけ、キエーザやクアドラードがサイドから1vs1を仕掛ける場面が増えた。ガッティの得点もキエーザの突破からクロスを入れて得たコーナーキックによるものだ。

ただし、キエーザを左ウィングバックとしたため、対面のベジェリンに何度も突破を許すことにもつながったことは忘れてはいけない。

悪夢の4-4-2

そして、問題のパレデス投入だ。

パレデスは自分は出場しないと思って用意していたユニフォームをファンにプレゼントしていたらしい。そこにロカテッリが交代をベンチに要求してきたため、急遽ポグバと同時にパレデスを投入することになったが、そこにユニフォームはない!!当然アッレグリは激怒し、コーチングスペースで暴れる姿がカメラに収められた…。

まあ、ここまではいい。パレデスとポグバが入って、ベースとなるフォーメーションは4-4-2になる。守備で穴となっていたキエーザをブラホビッチと並べ、ポグバを中盤の左、ファジョーリを右に置いた。その後、ペリンのスーパーセーブに救われるわけだが、この4-4-2には決定的な問題がある。1つは5-2-3(3-2-5)をベースにしているスポルティングに対してディフェンスラインの枚数が足らないこと。もう一つは、パレデスのDHの守備は危ういこと。ペリンの2連発セーブについて見ると、一本目のシュートはパレデスのポジショニングから招いているし、二本目のシュートは4バックの大外から撃たれている。

スポルティングが決定機を作る前に、パレデスが本来いるべき場所(ディフェンスライン中央の前)にいなかったことから、ブレメールがライン間に位置するスポルティングの選手を捕まえに前に出ていた。このポジショニングが仇となって、ブレーメルがクロス対応に間に合わなかった。パレデスが本来の位置にいたなら、ブレーメルは後3歩は下がったポジションをとれていた。クアドラードの脇から入れられたクロスもブレーメルがカットできていただろう。スローインからの流れだったので、パレデスが間に合わなかった点について仕方ないところはあるだろう。ただ、それならポジションを入れ替えるなり、前線から一枚下がってくるなり、何らかの手は打っておきたいところだ。ディフェンスラインの前を明け渡すのは守備の崩壊につながる。

キエーザは万全だったのか?

ここで疑問に思うのは、守備ではあまり貢献を見込めないキエーザをフル出場させることになったわけだが、本当にそれで良かったのか、ということだ。ロカテッリの予定外の交替があり、アッレグリのプランが狂ったのは間違いないだろう。しかし、今季大車輪の活躍を見せてきたコスティッチの良さを消すことになってもキエーザをピッチに残し続けたことは、果たして正解だったのか。以前、アッレグリはキエーザについて、「来季が本領発揮する時期になるだろう」という趣旨のコメントをしていた。つまり、アッレグリは現在のキエーザの状態について、本来のパフォーマンスには戻っていないと評価している。それでもキエーザをピッチに残し続けた。だとすると、キエーザ以上にコスティッチや他の選手のコンディションが悪いということかもしれない。コスティッチはインターナショナルマッチウィークに怪我をしていた。ブラホビッチも怪我を抱えているのかもしれない。まして、4月のスケジュールは殺人的だ。誰もが疲労を蓄積しているだろう。万全ではないキエーザをフル出場させなければならないほど、ユベントスの選手たちは追い込まれているのかもしれない。

セカンドレグに向けて

ユベントスは目の前の相手だけではなく、スケジュールとも戦っている。しかも、セカンドレグの舞台はスポルティングのホーム。難しい試合になる。ただし、1-0でリードしていることはプラスだ。自らバランスを崩す必要はない。5-3-2で腰を据えて構えればいい。ロカテッリの状態が心配だが、彼が出られるのならば勝ち抜けの可能性は70%はあると見る。まずはスポルティングの勢いに飲まれないよう、落ち着いて試合に入りたい。

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