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EL R8 スポルティング vs ユベントス 〜三段構えの4-3-3

EL準決勝を賭けたリスボンでの試合は1-1の引き分け、トータルスコア2-1でユベントスが勝ち抜けを決めました。驚いたのは、アッレグリが4-3-3をベースフォーメーションとしてきたことでした。4-3-3を使ってきた狙いと機能性について考察します。

ユベントスの4-3-3

ユベントスのスタメンは、シュチェスニー、クアドラード、ダニーロ、ブレーメル、サンドロ、ロカテッリ、ラビオ、ミレッティ、ディマリア、ブラホビッチ、キエーザ。4-3-3をベースにして試合に入ってきた。ファーストレグは5-2-3を採用し、普段は5-3-2をベースに戦ってきたユベントス。4バックの採用には少し驚かされた。4バックでスポルティングに対峙するリスクの大きさはファーストレグで思い知ったはずだからだ。だが、アッレグリはそのリスクを承知の上で、勝ち抜けのためのソリューションとして4-3-3を選んだはずだ。4-3-3で得られるメリットを最大限に引き出しつつ、リスクを管理する。そんなプランを考え、トレーニングで落とし込んできたのだろうと思う。アッレグリの脳内に迫ってみたい。

4-3-3採用の理由

試合前日の会見で、アッレグリはファーストレグのことは忘れて点を取りに行かなければならないとコメントしていた。そうなると、4-3-3の採用は点を取りに行くためのプランだと考えるのが自然だ。では、その意図はどこにあったのか。

キエーザのウイング起用

1つは、キエーザとコスティッチの共存は現状では不可能だということがファーストレグで分かったことだ。その中で、コスティッチのコンディションが十分ではないこと。キエーザのスピードを活かしたカウンターをカードとして持っておきたいということなどを考えて、キエーザを先発させることを前提にプランを練ったのではないかと推測する。ただ、キエーザをウイングバックで使うリスクは様々な試合で証明済み。となると、左サイドに張った位置でボールを貰いたいキエーザを使うなら、5-2-3か、4-3-3の前線左で使うことになるだろう。ただ、キエーザを出すなら5-2-3のウイングバックでコスティッチは使えない。左ウイングバックの最強カード、コスティッチを使わないのに、5バックを採用する意味はない。点を取りに行くのなら、デシーリオあたりをウイングバックで使うのではなく、攻撃的な選手を使いたいはずだ。そう考えてくると、中盤の選手を一枚増やせる4-3-3が見えてくる。

4バックビルドアップ

もう1つは、4バックによるビルドアップの採用だ。スポルティングは5-2-3がベース。ハイプレスも3トップが第一プレスラインとなる。スポルティングの3トップに対して4バックがビルドアップの起点になることで数的優位を確保してボール保持で押し込む時間を作りたいという意図があっただろう。キエーザとディマリアがサイド高い位置で張っていたら、ウイングバックはハイプレスに出るには勇気がいる。キエーザとディマリアをフリーにするというリスクを負うからだ。そうなると、ユベントスは3トップでスポルティングの5バックを引きつけることができるため、後方では7対5の数的優位を保つことができるようになる。この数的優位を活かしてボールを保持しながら前進し、スポルティングを押し込むというプランを持っていたはずだ。

ハイプレスの修正

最後はリスクを抑えたハイプレスのメカニズムを組むなら、4-3-3が適していると考えたからではないだろうか。スポルティングは5-2-3がベースフォーメーションだ。3バックには3トップをマンツーマンでぶつけ、ボールをサイドに誘導する。誘導したサイドのウイングバックには同サイドのCHがハイスピードでスライドし、残った2枚のCHがスポルティングの2CHにマークにつく。逆サイドのウイングバックは捨てる。トゥヘルが得意とする、逆サイドを捨てて最終ラインに数的優位を確保した形のハイプレスのメカニズムだ。何だかんだでファーストレグで1点リードしているユベントス。オールコートマンツーマンでプレスに出るリスクを負う必要はない。中盤3枚のスライドによってウイングバックをカバーしてハイプレスに出られる4-3-3を採用するメリットは大きい。

守備のメカニズム

キエーザを左ウイングに置いた4-3-3をベースにして、後方の数的優位を確保してビルドアップから押し込んでプレーする。逆サイドを捨てて後方に人を余らせたハイプレスをかける。スポルティングのプランを狂わせて得点に近づくための4-3-3だったと考えられる。

しかし、いくら点を取りに行くために4-3-3が有効だったとしても、4-3-3の決定的な弱点は残る。5トップ気味に攻撃に出るスポルティングに対して4バックでは自陣ゴール前で数的不利になってしまうという点だ。ハイプレスが毎回ハマるわけではない。ボールロストから押し込まれることもある。構えた守備のメカニズムは構築しておかなければならない。アッレグリは三段構えの守備を用意していた。

第一段階:ハイプレス

前述の逆サイドを捨てたハイプレス。ボール周辺の選手にマンマークでプレスをかける。パスコースを潰しつつボールホルダーの時間を奪う。無理なパスを出させてカット、もしくはロングボールを蹴らせて跳ね返す。

第二段階:4-5-1ブロック

ハイプレスを掻い潜られる、もしくはハイプレスを出なかった・出られなかったケースは両ウイングを中盤に落とした4-5-1のブロックを敷いてミドルプレスを行った。ボールを運ばれなければ4バックでも十分守り切れるという、強気の采配だった。中盤を5枚並べて、選手間の距離を狭めてゲートを通すパスを封鎖する。サイドにボールが出ればサイドバックとウイングがダブルマークについてサイドを封鎖。スポルティングの3バックをフリーにする代わりにボールの前進を阻んで自陣深い位置への侵入を許さない。バックパスを選択させればブロックを維持してミドルプレスを継続するか、ハイプレスに出ればいい。その選択については時間帯やゲームの展開を見て選手が判断していたようだ。

第三段階:ロカテッリを下げた5-4-1

そして、ミドルプレスも通過されて自陣深くまでボールを運ばれたら、ロカテッリをディフェンスラインに下げて5バック気味に守る。ウイングバックを上げて5トップのように振る舞うスポルティングに対してゴール前で数的不利を作らない。ロカテッリは守備ラインに下がるタイミング、位置も完璧だった。中央は5枚の中盤で封鎖しているので、スポルティングの攻撃はサイドへと誘導できている。サイドで深い位置にボールを運ばれた時にクロスに対応できるよう、スッと守備ラインまで下がっていた。さらに中盤はラビオとミレッティが中央に絞って真ん中を開けないようにポジション調整をしていた。ディフェンスラインの前も明け渡すことのないよう、ファーストレグからしっかりと修正してきている。流石はアッレグリ。やはり、守備の構築にかけてはヨーロッパでも随一の監督だ。


「よし、三段構えだ。延長に行く前にケリをつけるぞ」


ブリーフィングルームもといロッカールームでアッレグリが言ったかどうかは定かではない。というか絶対言ってない。

試合の推移

試合はアッレグリの狙い通りに進んだと言っていいだろう。ハイプレス、ミドルプレスが機能してスポルティングのボールの前進を阻害することに成功。さらにボールを保持して前進し、スポルティング陣内に押し込んで試合を進める。その時間帯にセットプレーからラビオが決めて先制。スローインからサンドロの安易なディフェンスをエドワーズにかわされ、PKから同点に追いつかれる。しかし、この失点を除けば攻守にわたって試合をうまくコントロールできていたように思う。

後半にはハイプレスからボールを奪ってカウンターからチャンスを作り出した。ブラホビッチ、キエーザはどれかを決めておきたかった。そうすればもっと楽に試合を終わらせることができただろう。後半途中からは明確に5-4-1へとシステムを変更して守りに入る。誤算があったとしたら、ブレーメルのケガだろう。もしかしたら、ガッティはサンドロと交代する予定ではなかったか。サンドロはエドワーズに翻弄されていた。エドワーズの突破から前線まで上がっていたコアテスに決定機が訪れたが、幸運なことにボールはバーの上を超えていった。

その他

ブラホビッチはゴール前のポジショニングがよくない。セルビア代表ではミトロビッチやタディッチがいるため、彼らに合わせてポジションをとっているのかもしれない。ユベントスではポジショニングの基準を失ってしまって迷いがあるように見える。

クアドラードとミレッティはこの試合において傑出した存在だった。クアドラードは右サイドの守備でヌーノ・サントスを封じ込め、中盤のパスカットやドリブルのコースを読んだタックルでボールを奪回。なおかつ高速のオーバーラップで攻撃に厚みをもたらした。ミレッティも中盤の守備のポジショニングがよく、背後に目があるかのように背中でパスラインを消していた。パスコースを読み切ってのパスカットも何本もあり、中盤の守備の安定感が増している。動きの量とスピードは言わずもがなで、スペースへの走り込みは効果的だった。2人とも攻守に甚大な貢献をしていた。

そして、ロカテッリだ。守備では4バックと5バックの可変のカギとなるタスクを担いつつ、中盤の底でテンポよくボールを動かしてビルドアップの中心となっていた。鋭い縦パスを何本も通し、攻撃を活性化。面白かったのが浮き玉のパスで裏を狙うプレーだった。最近はあまり見なくなったフライスルーパスだ。センターアーク付近からスポルティングの守備ラインの裏にフワッと落とすパスを何度も選択していた。ディフェンスがパスコースを切っても、空中のパスは誰も触ることができない。ラビオの先制点もロカテッリのフライスルーパスから抜け出したキエーザが獲得したコーナーキックからだ。攻守に渡ってキーとなるプレーを平然とこなすスーパーな選手へと進化している。

スーペル・ロカテッリ。もはやユベントスは彼のチームと言っても過言ではない。    と思う。


さて、これでELはセミファイナルに駒を進めたユベントス。次の相手はEL強者のセビージャに決まった。しかし、それまでにコッパイタリア決勝を賭けたインテル戦に加え、ナポリ戦を筆頭にCL出場権獲得のために落とせないリーグ戦が続く。勝ち点15が戻ってくることになったが、油断はできない。コンディショニングに細心の注意を払いつつ、目の前の試合を全力でとりに行く日々が続いていく…。

それにしても勝ち点15の剥奪取り消しはユベントスだけでなくミラノ勢やローマ勢、アタランタにも多大な影響が出てしまう。彼らはユベントスの勝ち点を15差引いて計算していたはずだ。チームの運営のプランが狂う。そして、ユベントス自身にはさらに大きな影響があった。シーズン途中の勝ち点剥奪は選手のメンタルへの影響は計り知れない。この決定がなければ落としていない勝ち点もあるだろう。

この騒動で今季のセリエAを混乱に陥れてしまった点は本当に残念でならない。少なくとも、今季のナポリは絶対的な強さを誇ってきた。仮にユベントスの勝ち点剥奪がなくても、ナポリは絶対に今の位置にいたと断言できる。ナポリが優勝に辿り着いたとして、それにケチがつくことだけは絶対に避けなければならない。

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