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セリエA 第37節 ユベントス vs ラツィオ 〜段差と距離感

キエッリーニ、ディバラにとってのホーム最終戦は最後の最後にクアドラードがやらかしてくれたため2-2の引き分けでした。そして、2人のためのセレブレーションだけでなく、ミレッティのフル出場に加えてアケ、パルンボも出場させるなど、通常のリーグ戦とは異なる中での試合でした。来季に向けての課題も見つかった試合だったようにも思います。

ユベントス 攻撃の課題

ユベントス、ラツィオともに持ち味を出して戦ったいい試合だったと思います。

ユベントスは4-4-2で守りながら、ボール保持ではロカテッリがディフェンスラインまで下りて、クアドラードとサンドロを高い位置まで押し上げる形をとってきました。ロカテッリから何本も距離の長いサイドチェンジが出て局面を進めることもあり、新しい形が見られたかなと思います。ラツィオは守備時は4-5-1をベースに、主にミリンコビッチサビッチを前に出して2トップ気味にハイプレスをかけてきていました。ユベントスはロカテッリを下げることで後方で数的優位を確保して、ボール保持を安定させる仕組みを作っていました。しかし、ボール保持率はラツィオが63%となっており、ボール保持率に倍近い差が出ています。シュート数、枠内シュート数もラツィオが上回っています。ただ、ユベントスは中を閉めてペナルティエリア内のスペースを消して、ゴールから遠い位置からのミドルシュートは打たせてもいいという守備をしていました。シュート数だけでは一概にラツィオが試合を通してユベントスを上回っていたとは言えないと思います。

前線のポジショニング

さて、ここで考えてみたいのは、ユベントスがロカテッリを下げてラツィオのファーストプレスを外す仕組みを用意していたにも関わらず、ボール保持率で大きな差ができてしまったのはなぜかという点です。後半からアケ、バルンボをピッチに送り込み、若手中心のチーム構成となってボール保持が安定しなかったという面もあるでしょう。ただ、それだけではないと思います。ユベントスのボール保持時のポジションを確認してみましょう。後方3バックのような形でボヌッチ、ロカテッリ、デリフトを配置し、その前のアンカーポジションにミレッティが入っていました。ラツィオは4-5-1からミリンコビッチサビッチを前に出してプレスに来ていましたが、4対2でユベントスが数的優位を確保していました。ミレッティはラツィオの中盤にも警戒されていたので、主に3バックを形成するロカテッリ、デリフト、ボヌッチの誰かがフリーとなって時間とスペースを活用できそうでした。しかし、3バック化した選手の誰かがフリーになっても、中々縦パスは出ることはなく、ユベントスが効果的な攻撃を仕掛けることはできませんでした。

それは、前線の選手のポジショニングに課題があったからだろうと思います。両サイドはクアドラードとサンドロが上がって幅をとっていました。守備時には中盤のサイドに入っていたモラタとベルナルデスキはボール保持では中に入ったポジションをとっており、この試合に関してはディバラも下りてくることは少なく前線に残っていることが多かったという印象でした。そして、サンドロ、モラタ、ブラホビッチ、ベルナルデスキ、ディバラ、クアドラードの6人の距離が結構離れていたことが気になりました。仮にモラタやブラホビッチにパスが入っても、周りの選手が近くにいないため、落としのパスを出す選手がいなかったり、フリックでボールを流しても受ける選手がいなかったりと個人で打開するしかない状況になってしまっていました。これなら、ラツィオの守備陣も思い切って強く当たりに行くことができます。周りとのパス交換を警戒しなくていいなら、自分が1vs1で負けなければいいわけで、パスを受けるタイミングで強く出て潰すのがセオリーとなります。最悪ファウルで止めてしまえばいいので、ユベントスの前線の選手たちはゴールに背を向けつつ厳しいマークに対応しなければならなくなりました。さらにラツィオの中盤のプレスバックも早かったため、ユベントスは前線にボールが渡った瞬間にボールロストしてラツィオがボールを保持するという流れになってしまいました。

また、前線の6人が段差をつけたポジショニングをできていなかった点も気になりました。特に、ブラホビッチとモラタ、ディバラはラツィオのディフェンスラインに並ぶ形になっており、ボールが出る前からラツィオの守備陣にピタリと密着マークを受けているような状態でした。この状態では、ボヌッチやロカテッリ、デリフトもなかなかパスは出せないでしょう。例えば、左CBのデリフトがボールを持った時にモラタが少し下り目の、いわゆるライン間にポジションを取っていれば、中盤の選手がモラタにマークにつくのか、ディフェンスラインの選手がモラタのマークにつくのか、選択を迫ることができます。別の言い方をすると、ラツィオの守備に迷いを生じさせることができます。仮に中盤の選手がモラタにマークにつくなら、デリフトがドリブルで前に運んでチームを押し上げ、ラツィオ陣内にチーム全体で入ることができるタイミングを作れるでしょう。逆にディフェンスラインから一枚飛び出してモラタをマークにきたなら、ディフェンスラインに段差ができることになります。その段差ができたことによって生まれたスペースにブラホビッチやサンドロが斜めに走り込んで裏を狙いに行けば、あわよくばGKと 1vs1という決定機を作り出すこともできます。とにかく、前線の選手がディフェンスラインに張り付いていないで少し下り目のポジションを取る選手を作って、段差を取ることでラツィオに選択を迫り、その選択に対応した選択肢をユベントスが取ることで攻撃を優位に進めることができたでしょう。グアルディオラが指導しているマンチェスター・シティはこの手の攻撃が得意です。今季のユベントスでは、ライン間にポジションを取って、相手に選択を迫ることができていたのは、ロカテッリとマッケニーでした。ただ、ロカテッリは守備時に抜群のポジショニングセンスを発揮してディフェンスラインの前をプロテクトできる選手です。アンカーとしての起用が多く、ライン間でプレーする機会は多くはありませんでした。しかし、マッケニーのケガに伴ってCHとして出場していた2〜4月は傑出したパフォーマンスを披露していました。マッケニーは昨季から臆することなくライン間にポジションをとってプレーしていました。ワンタッチで前を向くプレーだけでなく、周りの選手とのパス交換なども活用してライン間を起点にスペースを攻略できる技術と眼を持っている選手です。CLのビジャレアル戦でのケガはチームとしても、マッケニー個人としても大きなダメージがありました。マッケニーとロカテッリが怪我から戻ってくることで、後方からのボール出し、ライン間で受けるプレーのクオリティや頻度が上がるだろうと期待しています。

相手の守備組織を少しでも広げて守備をする選手同士の距離を少しでも遠くしてカバーリングのチェーンを切るために幅をとる選手は必要です。ただ、ボールが前線に入るタイミングで、ボールの周りにコンビネーションが使える距離感で選手を配置しておくことは重要です。そのタイミングを共有して、互いに適切な距離感でポジショニングすることは、トレーニングを通じて監督が指導すべきことでしょう。今季のアッレグリは守備の再構築、ビルドアップの構築にはある程度成功しています。攻撃のフェーズのプランニングは、ロナウドの移籍、キエーザやマッケニー、ディバラのケガ、ブラホビッチの獲得など、大きなトピックが重なって難しかったかもしれません。マンチェスター・シティですら、デブライネを欠いた試合では攻撃のクオリティに明らかに差が出てしまいます。戦術は全てを解決することはできません。最終的には傑出した選手のクオリティによるところが大きいこともフットボールの面白さであり、奥深さなのだろうと思います。来季はブラホビッチを軸に、2、3月を見据えて攻撃の構築にも落ち着いて取り組むことができそうです。無冠の責任をとって解任される可能性も十分ありますが、来季も指揮をとるとしたら、真価を問われるシーズンとなるでしょう。

ミレッティ

ここ数試合、積極的に起用されているミレッティについて感想を書いておきます。

ヴェネツィア戦で見せたように、いきなりトップチームでフリーキックやコーナーキックのキッカーを任されるほどキックの精度は高いと思います。また、前線に上がって行った時のアイデアは豊富で、ワンツーやスルーパス、シュートなど決定機に絡むシーンも何度かありました。一方で守備についてはマークにつくタイミングやポジショニングなどはこれから経験を積んで学んでいく必要があります。ボールを扱う技術も高く、おそらくですがロカテッリではなくマッケニーとポジションを争う選手になっていくのではないかと思います。ラツィオ戦ではボール保持の時にアンカーポジションに入っていましたが、個人的にはライン間でプレーした方が高い技術や周りと連携するアイデアがより活きるのではないかと思います。高いキック精度を活かして後方からの組み立てに参加するのも悪くはないと思いますが、ユベントスがライン間をうまく活用し切れていない現状からすると、ミレッティにはライン間でプレーして新しい風を吹かせてほしいという期待を持ってしまいます。最終戦でも起用されれば、注目したい選手です。

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