見出し画像

【シカゴでバードウォッチング!】禿げてないのに

上の写真の鳥は何でしょう。

ハクトウワシです。

ハクトウワシという言葉を何回も読んだのは、写真家の故星野道夫さんの著作の中でです。アラスカを含むアメリカの先住民にとって聖なる鳥であるハクトウワシ、白頭鷲。

英語名は???

Bald Eagleです。bald = ハゲ。ええっ〜〜?「ハゲワシ」?!

「ハゲ」がつく鳥の名前ですぐに思い浮かぶのは、ハゲタカ。英語名はVultureで、しっかり頭が禿げています。

でも、ハクトウワシの頭は禿げていず、成鳥は、頭から首にかけて白い羽毛に覆われていてかっこいいです。そこで、どうしてハゲであるbaldという言葉が使われたのかなという疑問が浮かんできました。

調べてみると、baldという形容詞は、現在では頭に毛がない禿げという意味に使われていますが、古い英語では動物や鳥の頭や顔に白い部分があるという意味で使われていたことがわかりました。

ちなみに、学名はHaliaeetus leucocephalusといい、ネオラテン語つまり古代ギリシャ語で、haliaeetusは日本語ではタカ科オジロワシ属、leucocephalusは白いという意味だそうです。やはり誰が見てもあの立派な真っ白な特徴がちゃんと学名に入っていることがわかりました。バーディングを通して、新しい学びが多々あります。

さて、このBald Eagleは、1782年にアメリカ合衆国の国鳥に決められ、国章の図柄として使われることになりました。 Bald Eagleは、強さ、勇気、自由、長寿のシンボルであり、他の鷲と違って北アメリカだけに生息するからだそうです。

でも、ベンジャミン・フランクリンは娘に宛てた手紙の中で、Bald Eagleを国鳥にすることには賛成していない旨を記しています。なぜなら、Bald Ealgeは他の鳥が獲った獲物を横取りすることがあるし、時々自分よりも小さい鳥からの攻撃に対して逃げることがあるので、道徳的な手本としてふさわしくないからだそうです。

そして、その代わりに七面鳥 (あ、頭に毛がない!!)を国鳥に推したということです。確かにアメリカ人は感謝祭には宗教の枠を超えて七面鳥を食べる習慣がありますから、アメリカを一つにまとめるために七面鳥は国鳥に適していたかもしれません。でも、七面鳥を国鳥にしていたら、国鳥を食べるわけにはいかなくなり、他の鳥を感謝祭の食事に使わなければならなくなったかもしれませんね。ちなみに私は七面鳥はパサパサしていて好きになれませんが・・・。

さて、Bald Eagleのかっこいい面を見てみましょう。全長80-110センチで、翼を広げると2メートルを上回る大型の鷲です。嘴と足は黄色で、体色はこげ茶色ですが、成鳥は頭から首にかけての部分と尻尾が真っ白です。なんだかかっこいい白頭巾をかぶっているように見えませんか。そして、鋭い目。成鳥は本当に立派で、大国アメリカの象徴とされるのも無理ないでしょう。

長い翼を広げ堂々と飛ぶBald Eage      ©Dan Lory
枝上で休んでいてもかっこいいBald Eagle      ©Dan Lory

幼鳥は全身が褐色の斑点で覆われ、成長と共にだんだん頭部の白さがはっきりとしてきて、完全に真っ白になるのには四年ぐらいかかります。先日ある公園で遠くから川の中にある枯れ木の上に何か大きな茶色いものが見え、私は子熊かなと思ってしまいましたが (いるわけないのに!)、なんとBald Eagleの幼鳥でした。そのぐらい大きいんです。あんなのが隣に来たら、私は震え上がってしまいます。

まだ美しい白頭巾になっていないBald Eagleの若鳥      ©Dan Lory
遠くから見て子熊かと間違えたほど大きく、全身茶色のBald Eagleの幼鳥      ©Dan Lory

寿命は30年ぐらいで、5キロメートル先の獲物が見つけられるほど目がよく、地上4000メートルまで上昇、時速100キロで飛ぶこともできるそうです。そして、一夫一妻で、相手が死ぬまで寄り添い続け、毎年同じ巣に戻ってきて子育てをします。離婚が多いアメリカは、もう少し国鳥であるBald Eagleを見習った方がいいかもしれませんねえ。(笑)

Bald Eagleの大きな巣      ©Dan Lory
親鳥一羽と幼鳥二羽がいても余裕がある大きな巣      ©Dan Lory

餌は、魚をはじめ鳥や小動物などなんでも捕らえて食べます。冬に氷が張り詰めているミシガン湖で氷の隙間から魚を獲って食べていたり、鴨を捕まえたのを見たこともあります。また、川沿いなどで何羽も木に止まっていたりして、よく目にすることができるのは嬉しい限りです。

冬のミシガン湖で鴨を捕まえたBald Eagle      ©Dan Lory

ベンジャミン・フランクリンが指摘した、道徳的な手本にならない面についてですが、他の鳥や動物が獲ったものをサッと横取りしてしまうというのは本当です。YouTubeには、Bald Eagleが獲物を口に咥えた小キツネをそのまま捕まえてしまったり、釣りをしていた人が釣り上げた魚をBald Eagleにかっぱらわれたりという動画が出回っているほどです。また、なんでも食べるので、最近ではゴミ箱を漁ることもあるようで、国鳥としての威厳が失墜してしまいかねません。

でも、このように生きるために餌を横取りするのは他の鳥も動物もやっていますし、それを道徳的でないと判断を下すのは人間の勝手な考え方ですよね?人間世界の道徳を適用して判断したら、ちょっとBald Eagleに可哀想な気がします。

人間の勝手といえば、人間が自然環境を無視して森林伐採を進めたためにBald Eagleの営巣地が減少したり、DDT (dichlorodiphenyltrichloroethane、ジクロロジフェニルトリクロロエタンの略)やPCB (ポリ塩化ビフェニル)などの有機塩素系の殺虫剤及び農薬を使いまくったため、食物連鎖の生態系の頂点にいるBald Eagleは濃縮された毒を食すことになり個体数が激減し、1967年には絶滅危機種 (Endangered Species)に分類されてしまいました。

そのため、継続的な保護活動が始まり、1918年の渡り鳥保護条約法や1940年のハクトウワシ・イヌワシ保護法のおかげで個体数が戻り、1994年には絶滅危惧種(Threatened Species)に変更され、2007年には米国絶滅危機種リストから完全に除外されたそうです。よかった、よかった。自分達のせいで個体数を減少させてしまったら、すぐに対策を取って保護するという姿勢は素晴らしいですね。

また、アメリカの先住民たちは、聖なる鳥であるハクトウワシやその羽を儀式や正装に用いていたのですが、現在は鷲羽法に従わなければならなくなり、合法的に鷲の羽を採集するには、まず魚類野生生物局から許可を得なくてはならなくなっているそうです。先住民たちが宗教儀式のために鷲を殺すことに、どこまで連邦政府が関与し規定してもいいのかという「インディアンの宗教の自由」という観点から大論争にもなったそうで、政治的に複雑な事情も絡み合っている鳥です。

アメリカでは色々なところにBald Eagleがシンボルマークとして使われています。今度それを見かけた時に、この記事の情報を思い出していただけたら嬉しいです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?