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【シカゴでバードウォッチング!】忘れられない鳴き声

約30年前、アメリカに来て初めて大自然の中でキャンプを体験しました。

ミネソタ州の北、カナダとの境にあるBoundary Watersというところで、そこには1100ぐらいの大小の湖があり、カヌーで行き来をします。夫と私は、食べ物やテントなどを詰め込んだ大きくて重いバックパックを背負って、宿泊許可をもらった目的地まで自分のカヌーを漕いで行き、大自然の懐に抱かれて数日を過ごしました。水道も電気もガスもなく、なぜか普通の白い陶器製の洋式便器がゴロンと囲いのないところに置いてありました。日がな一日、風を感じ、鳥の声を聞き、湖に跳ねる魚を見、ハンモックで本を読んだりして過ごし、晩ごはんのために魚を獲ろうとしましたが、なかなか獲れず小さい魚を二人で分けて食べたりしました。

夜には満天の星。本当に星が天から降ってきてもおかしくないほどでした。ある晩、シ〜〜ンと静まりかえった湖のほとりのテントで熟睡していました。すると、夜のしじまを引き裂くように、突然この世のものとは思えないほど美しい鳥の鳴き声が聞こえたんです!夜にあんなに大きな声で、しかもすぐ近くで鳥が鳴くなんて!生まれて初めての経験で、感動で打ち震えました。どんな鳥か見たくても、外は漆黒の闇ですから鳥の姿は全く見えませんでしたし、名前を聞いてもその時点で私はどんな鳥なのかも全くわかりませんでした。

All About Birdsのここの、動画の下にある2番目のQuebecで録音されたSongを聞いて、夜のしじまにこの声が鳴り響いた瞬間を想像してみてください。いかがですか。私は今でもあの時のことが思い出され涙が出そうになります。

その鳥は、Common Loon (ハシグロアビ、日本にはいません)といいます。日本にいるハシジロアビに似ていますが、嘴の色が違って、Common Loonの嘴は夏には黒いです。そして、ミネソタ州の州鳥になっています。

1981年の映画「黄昏 On Golden Pond」の最初にキャサリーン・ヘップバーンが「Loons!」と言うシーンがあります。映画の途中にもLoonが何回も出てきます。湖の景色を見ながらLoonの鳴き声を聞いてみたかったら、このYouTube (無料)で映画をご覧になってみてください。

このCommon Loonは、私たちがよく行くシカゴの南にある公園沿いのミシガン湖にも来ます。でも、一度も鳴き声は聞いたことはありません。広大なミシガン湖で、それも岸から離れたところで鳴いても、私たちには聞こえないんだと思います。ミシガン州の北のUpper Peninsulaにある国立野生動物保護区で見た時には鳴き声が聞こえましたが、あの夜のしじまで聞いた神秘的な鳴き声ではありませんでした。やはりBoundary Watersでの経験は、全ての条件が重なった時の唯一無二の体験だったのだと思います。

さて、Common Loonについてですが、繁殖期にある成鳥は、目が赤く、頭部から首にかけては光沢のある黒色で、喉と側頸に白と黒の縦じま模様、途中に黒の幅広の横縞もあります。そして、体の上面は黒く白斑が点在し、体の下面は白いです。嘴の色は黒く、まっすぐ伸びています。とにかく白黒の組み合わせがモダンでとても美しい鳥です。

Christian Hagenlocher,  Macaulay Library
https://macaulaylibrary.org/asset/245172211
Common Loonの成鳥と幼鳥     ©Dan Lory

他の鳥と違い、この鳥は骨がしっかりしているため浮力が少なく、肺から素早く空気を吹き出し、羽毛を平らにして羽毛内の空気を排出することができます。そのため水中に潜ると潜水艦のようになり速く泳ぐことができ、小さい魚を獲るのが非常に上手で、獲った魚を水中で呑み込むそうです。

水中では「水を得た魚」のようですが、Common Loonの脚は普通の鳥よりも何故か後ろの方についているため、陸を歩くのには向いていません。陸に上がるのは営巣の時だけです。

また、この鳥は水から飛び立つには飛行機のように長い滑走路が必要で、風の向きによって違いますが、27メートルから400メートルぐらい羽ばたきながら水面を走って加速して離水します。生き物はそれぞれ得手、不得手がありますねえ。

最後に、世界で一番長く子育てのためにつがいになっていたと記録されている二羽のCommon Loonについて。

それは、この記事のはじめの方に書いたミシガン州のUpper Peninsulaにある国立野生動物保護区で私たちが鳴き声を聞いたCoomon Loonです。1987年に雛の時に固体識別番号標識を脚につけられた雄のABJ (Adult Banded Juvenileの略)と、1990年に標識を付けられた一年年上のFeという雌です。この二羽は1997年から毎年この国立野生動物保護区で巣を作り子育てをしてきました。雛たちが育った後、ABJとFeは冬を過ごす地へ行き別々の生活をしますが、毎年春になるとここに戻ってきて同じ相手と巣を作り子育てをしていたようです。すごい忠誠心ですよねえ。幼鳥の巣立ちの後に別居生活があるのが長続きの秘訣でしょうか。(笑)

雛に与える魚を咥えている、オスのABJとメスのFE。そして、その雛。
https://www.fws.gov/story/oldest-known-common-loons#:~:text=Seney%20National%20Wildlife%20Refuge%20is,loons%20benefit%20from%20added%20security  © Laura Wong

2022年の春にもこのABJとFeはこの国立野生動物保護区に戻ってきたので、26回連続営巣子育て記念になると観察員たちはワクワクしていたらしいのですが、なんと別れてしまったようだという記事がウェブ上に出ていました。今年2023年の4月の記事には、他の若いつがいが営巣するようになりこのスーパーカップルを追い出したためなのか、ABJとFeは別々のところにいたと書いてありました。そして、なんと世界で一番長生きの雌のFeは新しい若い雄 (Loonなのに、「若いツバメ」! )を相手に巣作りを始めたとか。一方、雄のABJは一羽だけでいた姿が目撃されているとか。観察員の方たちもABJとFeの現在の関係がよくわからず、これからも注意深く観察し続けると記事に書いていて、まるでパパラッツィみたいでおかしいです。(笑)来年の報告を待ちたいと思います。


私にとって本当に特別な鳥であるCommon Loon。皆さんにもいつかあの素晴らしい鳴き声を聞く機会が訪れたらいいなと思います。



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