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【猫の日エッセイ】わが家にやって来た「考える福猫」

 11月初旬の良く晴れた冷たい朝、
事務所下の道路で小鳥を撮影中に、
ボクの背後から、かすれたような、
ほとんど声にすらなっていない、
子猫の鳴く声が近づいてきた。

 振り向くと、19年間一緒に暮らし、
数年前に死に別れたテス君と、
まるでそっくりの子猫だった。
野良のはずなのにどんどん近づき、
ボクの足許まで空腹を訴えに来た。

 考えたらこの事務所は以前住居で、
テス君と一緒に暮らした家だった。
きっと子猫に生まれ変わって、
また会いに来てくれたのかと、
マジに思った。

 それが、今一緒に暮らしている、
推定、生後3か月の、
テツとの出会いだった。

推定生後3か月のテツ

 野良育ちのためか、
よく遊びよく寝てよく食べる。
しかし、ある日突然、お尻から、
ヒモのようなものが
ズルズルと出てきた。
そう、野良猫にありがちな寄生虫、
真田君(サナダムシ)だったのだ!
獣医さんに虫下しを処方してもらい、
真田君との戦いは一か月かかった。

 完全に真田君がいなくなったテツは
獣医さんも太鼓判の健康優良児として
我が家の中で完全にリラックスし、
のびのびと育って行った。

リラックスするテツ

 テツが我が家に来てから、
些細なことだが、何かが変わった。
受験に失敗して一浪していた息子が、
翌年春、難関の志望校に、
無事合格した。

 ボクの零細企業の仕事も順調で、
TVのハイビジョンへの移行期のため、
カメラなど機材のリースや購入など、
高額出費の時期も何とか乗り切れた。
テツが来てから家の中が明るくなり、
いつとはなく、テツは福を呼ぶ猫、
「福猫」ということになった。


福猫、テツ

 普段から自然や生きものを相手に、
取材・撮影しているボクは、
人間より、動物や鳥や虫など、
生きものたちの方が
心が通じ合えるようになっている。
(社会的には困ったもんだが・・・)
 だからいつも一緒に家にいるテツが
今何を想い、
何を考えているのかなんて、
当然ながらよくわかる。

 身勝手な奴だが、
甘えたい時は甘え、
空腹時やトイレの際は、
声を出して呼ぶ。
その声と表情で、
何を求めているかが、
ほぼ100%わかる。

わかったよ、一緒にいてあげる

 でも一日に数回、その表情から、
今、いったい何を考えているのか、
わからない時がある。
それは、
ご飯が食べたいとか、
眠いとか、
そうした形而下的な欲求ではなく、
もっと哲学的な、
形而上学的な何かを、
間違いなく考えていると思う。

???

 テツは今年の秋で17歳を迎える。
人間なら相当なご高齢だ。
寝ている時間が多くなったとはいえ、
よく家中を元気に走り回っている。
そして時に、物思いにふけっている。
彼が哲学している内容を、
いつかボクも、
共有できる日が来ると信じている。

その日が来るまで、
テツにはまだまだ、
長生きをしてほしい。

テツ 16歳

文責:増田達彦(映像作家)







 






 

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