XR技術で遠隔モニタリング、COVID-19感染拡大による医療現場の負担減へ―松村雅代の「VRは医療をどう変える?」(21)

https://medicalai.m3.com/news/210216-series-matsumura21
※本記事は、2021年2月16日(火) m3.com AIラボ公開の記事になります。

COVID-19感染拡大による医療現場への負担は大きく、深刻さを増しています。医療の質を担保し、医療現場の負担を軽減する工夫が求められる中、産業用として用いられてきた、XR(VR/AR/MR)技術による遠隔モニタリングの医療転用が進んでいます。

1. COVID-19軽症患者の遠隔モニタリング

Holo4Med社は、ポーランド保健省と共同でPulsoCareというMRのアプリを開発し、在宅で療養する軽症患者への導入を進めています。PulsoCareは、マイクロソフト社のHoloLensとAzure(クラウドコンピューティングプットフォーム)を用いたアプリで、パルスオキシメータと連動し、脈拍、血中酸素飽和度、体温などの個人のバイタルサインをモニタリングすることができます。また患者本人も、頭痛、咳、副鼻腔の症状、臭いや味の喪失、不安などの情報を手動で入力します。バイタルサインと入力データからリスクが高いと判断された場合、医療機関のスタッフが装着するHoloLensにアラートが表示されます。同時に、患者本人と緊急搬送サービスにも通知されるという仕組みです。

PulsoCareは、同社の関連会社であるHolo4Labs社の技術を応用したものです(Holo4Med社とHolo4Labs社はTenderHutグループ)。Holo4Labs社は、研究機関の科学者を対象とした実験支援のツールの開発・提供を行っています。HoloLensを用い、音声コマンドによる実験データの統合や、チーム間でのデータ共有を可能としたツールで、2019年にEmerging Europe Award for Innovation(EU域内のスタートアップ企業を対象に、優れた技術革新に贈られる権威ある賞)を受賞しています。

2.COVID-19ワクチン輸送プロセスの遠隔モニタリング

AR技術を有するVuzix社のスマートグラス(ディスプレイを通して現実にデジタル情報を表示するメガネ型のデバイス)は、COVID-19ワクチンの輸送プロセスのモニタリングに活用されています。採用しているのは、冷蔵航空貨物(特に医薬品)の輸送を行うEnvirotainer社です。ワクチン輸送には厳格な温度管理が求められますが、入国制限の影響で冷蔵輸送の専門スタッフは立ち会うことができません。専門スタッフは、輸送業者が装着したスマートグラスを通して、適宜指示し、輸送プロセスのチェックを行っています。スマートグラスを活用した医薬品や医療機器の遠隔モニタリングは、ワクチン輸送以外でも進んでいます。例えば、医療機器の定期的なメンテナンス。かつては、メーカー担当者が医療機関を訪問して行っていましたが、訪問が困難となっている今、病院スタッフが装着するスマートグラスを通じた遠隔メンテナンスの導入が進められています。

3.災害救助での活用も期待される、犬用AR

遠隔モニタリングが注目される中、Command Sight社が犬用ARの開発を進めています。米国陸軍のプロジェクトですが、遠隔モニタリングの可能性を広げる試みとして注目されます。ARゴーグルは、悪天候時の任務に既に導入され、犬も装着に慣れている保護用ゴーグルを利用。ARに投影する合図は、犬それぞれにフィットするよう個別に設計されています。

ハンドラー(犬に指示する人)は、犬の目に映るもの全てを共有し、その情報をもとに、的確な指示を送ります。当初は、遠隔指示を可能にすることで、ハンドラーの安全を確保することが主な目的であったようですが、開発の過程で犬の視覚と認知に関する研究が進み、犬と人とのコミュニケーションをより正確により豊かに変えるツールとしても注目されます。現在、プロトタイプの段階ですが、将来的には、災害救助犬への導入も期待されます。

[参考文献]

https://arpost.co/2021/01/14/holo4med-pulsocare-hospital-covid/ 
https://arpost.co/2021/01/12/vuzix-ceo-remote-assistance-covid-future/
https://www.army.mil/article/239705/augmented_reality_dog_goggles_could_help_protect_soldiers

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