インフォームド・コンセントにVRを活用―松村雅代の「VRは医療をどう変える?」(2)

https://medicalai.m3.com/news/190613-series-matsumura2
※本記事は、2019年6月13日(木) m3.com AIラボ公開の記事になります。

第1回では、医療におけるVR(を含むXR)を俯瞰する「5つの視点(以下に再掲)」を挙げ、3番目の視点である技術の特徴についてお伝えしました。

1.地域
2.サービスの対象: 医療従事者、患者・家族
3.技術の特徴: Virtual Reality (VR)、Augmented Reality (AR)、Mixed Reality (MR)、VR AR MRを総称するExtended Reality(XR)
4.疾患・領域
5.目的: 医学教育、治療支援、治療手段、

第2回となる今回は、「患者と家族が、治療チームの一員として治療に参加する」ことを実現する、VRを活用したインフォームド・コンセントについてお伝えします。「5つの視点」では、1 米国、2. 患者と家族(一部、医療従事者)、3. VR、4. 外科領域、5 医学教育、となるテーマです。

医師にとって、インフォームド・コンセント、「病状や検査・治療方針について、医師等が患者や受診者に対して複数の選択肢があることやその行為による利益と不利益を事前に十分に説明し、患者や受診者自身が理解し納得した上で医療行為を受けてもらうこと」を実現することの難しさを感じる局面は少なくないのではないでしょうか。

私自身、大学病院の総合診療内科に勤務していた際、精査を経て診断し、外科へ転科という判断となった患者への対応に悩みました。転科の前、主治医となる外科医が患者・家族へ説明を行う際、私も同席しました。外科医は「ご質問はありませんか?大丈夫でしょうか?」と確認しながら説明していきます。画像を提示し、模型を使い、手描きで手術の内容を説明。いかに心を砕いて丁寧に説明しているか、痛いほどわかります。けれど、説明終了後に患者・家族がそっと私に呟くのは「先生、説明はあまりよくわからなかったんだけど、外科の先生が一生懸命なのはわかった。だから頑張ります。」という言葉だったのです。こういった状況を打開する有効な方法のひとつが、VRがもたらす「本質的な体験」の活用です。

[脳外科手術を受ける患者が、VRで自身の脳の中を体験]

まず紹介するのは、「脳外科手術を受ける患者が、自分の脳の中を巡るVRツアー」を提供するサービスです。患者自身のCTやMRI画像を再構成してVR空間を実現。患者と家族は、VR空間をアバターで移動し、様々な角度から脳の内部を見ることが出来ます。担当医の説明を聞きながらVRツアーを体験することで、患者と家族は、病態や予後、手術のリスクと利益をより明確に理解することができます。

動画
https://www.pbs.org/newshour/show/virtual-reality-allows-neurosurgery-patients-to-tour-their-own-brains?fbclid=IwAR0DDHZfAf1Ys30RaNtOaaulEpORbkuIBcsdImt9qvC3xZXhIVykdvhJNRA

このサービスを提供するのは、Surgical Theatre社(https://www.surgicaltheater.net/)。米国オハイオ州に本社を置く同社は、脳外科医向けの術前計画や医学生対象の教育用のVRサービスも手掛けるスタートアップ企業です。「脳のVRツアー」はStanford,、NYU,、Mt. Sinai、 Case Western Reserve University Hospital,、UCSF Benioff Children’s Hospital,、Hackensack Meridian Health、Providence Hoag Hospital等で活用され、6000人を超える患者に提供されています。

[先天性心疾患をVRで理解し、治療へ]

次に紹介するのは、Stanford Virtual Heartという、先天性心疾患の理解を進めるVRツールです。代表的な24種類の先天性心疾患を様々な方向から観察し解剖し、術式を当てはめて確認することが出来ます。心臓内部から血液の流れを確認し、通常の心臓とどう違うのか理解することも可能です。先天性心疾患の患者は、複数回の手術が必要となることも多く、本人・家族にとって大きな負担となります。それぞれの段階の手術の役割を理解して治療に臨むことで、具体的な目標を持つことが出来、治療への意欲を高めると言います。

動画
https://www.wndu.com/content/news/Virtual-reality-gives-doctors-patients-3D-look-at-hearts-501151471.html?fbclid=IwAR2rHUMV5MtEROJaYNxl3miyjr_-f1kdGj31HB4DE4JbwQzUcyTaVBYpxUQ

Stanford Virtual Heartは、米国カリフォルニア州のLucile Packard Children's Hospital (https://www.stanfordchildrens.org/en/innovation/virtual-reality/stanford-virtual-heart)で開発されました。研修医や医学生が先天性心疾患の病態を深く理解することにも活用されています。

VRをインフォームド・コンセントのツールとして活用することで、医師の努力と思いが報われ、患者・家族がより能動的に治療に向き合うことが出来るという可能性を示唆しています。

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