映画「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」
ロシアが2024年以降、国際宇宙ステーションISSから撤退、との春先のニュースで、昔観た映画が頭をよぎった。
この映画を、どこで観たかは覚えてないけれど、主人公の少年のモノローグは鮮明に記憶に残っている。
👦…ロケットに乗せられ、たった1匹で宇宙に送られ、餓死して死んだライカ犬。あの犬に比べたら、僕はまだマシだ。
父は仕事で不在、いじめっ子の兄と病弱の母と暮らしていた少年イングラム。いろいろと問題を起こして、大好きな母の病状の悪化に伴い、愛犬シッカムとも引き離され、叔父夫婦の元に預けられる。
周囲と上手くいかずに沈み込む時、初めて地球軌道に到達した、地球に帰る予定の無いソビエトのロケット、スプートニク2号(1957年)に乗せられた犬に心を寄せ、自分の身に起こるこんなことなどどうってことない、と自分を慰める。
そして、精神的に追い詰められると、犬の鳴き声で周囲を威嚇し、自分を守る。
不運な犬に感情移入する少年の感受性が切なく愛おしく印象に残ったのだが、かつてのニュース画像に残る、選ばれてロケットの席に据えられた雌のライカ犬の、戻れない運命を知らぬ凛とした姿を、最近ネットで見て、改めて胸を突かれた。
📰…軌道に乗った一週間後、薬物の入った餌で安楽死したとの当局の発表は50年間信じられていたが、2002年になって、犬の心拍数と温度データの分析から、打ち上げ時5Gがかかったストレスと40°を超える船内温度上昇で、打ち上げ後数時間で死んだ、との論文が出る…📰
スウェーデンにも届いたろう、より残酷な真実を、イングラムが知らなくて良かった。まったく、人間にも生き物にも非情な国だ。
やがて母は他界、愛犬も死に…と辛いことが続き、神経症の発作もひどくなるが、ちょっとユニークな叔父さんや愛情豊かな叔母さん、近所の風変わりなおじさん、ボクシングを通じて新しく親友になった男の子みたいなサガ、叔父の会社のセクシーなお姉さん…など、周囲の人々の中で、揉まれ、鍛えられ、繊細で孤独だった少年は少しずつ、心の居場所を見つけていく。
「ギルバート・グレイブ」「サイダーハウス・ルール 」をアメリカで撮った監督、ラッセ・ハルストレムが、渡米する前にスウェーデンで撮ったこの作品は、ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞している。
主人公の少年イングマル役で、繊細且つコミカル、秀逸な演技を見せたアントン・グランセリウスは、役者の道は選ばず、長じてテレビ局のプロデューサーになったそうだ。
今年観た「コンパートメント」もそうだったが、アメリカ映画とは少し趣きが違う、人間の微妙な揺らぎを掬い取る北欧の映画作品は魅力的だ。
子供を、大人の事情の中に容赦なく放り込み、ひとりの人間としての成長を見守る。少年の目線での性的な興味の描き方など、さすがスウェーデンだと思う。
少年の成長物語には、秀逸な作品がいくつもある(「リトル・ダンサー」、「スタンド・バイ・ミー」、「泥の河」…)が、この「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」も、繰り返し観たい映画のひとつである。
U-nextでまた配信してくれることを期待🍿
Mitt Liv som Hund (My Life as a Dog )
監督 Lasse Hallstrom
出演 Anton Glanzelius
Melinda Kinnaman
1985 Sweden (1988 日本公開)
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