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「作者の死」について(テキスト分析の技法)

Think on paper.

思考力を身につけるとはどれだけ紙の上で考えられるかです。頭の中だけで思考するだけでは思考力は身につきません。

さらに思考をアウフヘーベンさせるには、レベルの高いテキストを取り込むことが必須です。

そうすることで、それまで見えていた世界が更新され、新たな世界が拡がっていきます。真の思考(メタ思考)とは自分を突き放すことであり、世界を更新することです。

というわけで、今回は紙の上で考える。すなわちテキスト分析の技法について書いていきます。

読書感想文とテキスト分析の違い

読書感想文とは作者の意をくみ取ろうとすることです。それは日本の義務教育時に植え込まれる方法でもあります。

対するテキスト分析とは、作者の意をくみ取ることが目的ではなく、あくまでテキストそのものを分析し、そこから何らかの構造を抜き取ることを目的とします。

分かりやすい例でいうなら、読書感想文は試食会、テキスト分析は創作料理です。試食会ではシェフが作った料理を食べて感想を述べることが目的です。

対する料理では、出された素材から新しい料理を創作することが目的です。

この2つのアプローチはスタート時点で大きな違いがあります。

そもそも料理では、いちいち素材を生産した人の思いをくみ取ることはしません。するのは与えられた素材の特徴を知り、いかに活かすかを考えるだけです。

テキスト分析もこの創作料理とアプローチが似ています。

つまり、誰かが生みだした思考(作品)を解読する時、表現した人(主体)ではなく、表現されたもの・作品(構造)だけを解読し、抽出するというアプローチです。

これは読書感想文アプローチとは真逆です。感想文では、作者は「作品の真理を知っている」ということを大前提に、作品のことを理解するには、作者に「何を伝えたかったか」を直接聞けばいいと考えられ(教えられて)ています。

テキスト分析では「心」は存在しない

テキスト分析は

「作物の上にのみ現れた特性」

を抽出し分析することです。

テキスト分析では「心」というものは存在しません。そこにあるのはテキスト上で発生する意図のみです。そしてこの意図と心はまったく違うものです。

そもそも言葉というもの自体は借り物であり、私たちが生まれた時にはすでに存在しています。子供は言葉のルールを習得することで、使い方を覚えていきます。

言葉をマスターするというのは、共同体におけるルールをマスターすることを意味します。

では心とは何なのかというと、借り物の言葉を使っているにしかすぎません。「心」という言葉のルールに従って、言語を構築しているのであって、そこに心があるかの証明にはならないです。

自己啓発というのは「自分」や「主体」という言葉を駆使した言語構造のゲームであるということです。

ちなみに、この考え方は構造主義と呼ばれています。

「構造主義」のアプローチ法

構造主義とはフランスで1960年代に隆盛を極めた思想体系で、今でも強い人気を誇っています。

それまでフランスで主流だった実存主義という思想が提起する「実存は本質に先立つ」に対するアンチテーゼとして誕生しました(ちなみに現代における自己啓発の源泉はこの実存主義です)。

構造主義が掲げるテーゼとは「構造が主体を定義する」です。

これが意味することは、「私」という主体を定義するのはその人が属する構造であるということです。例えば、社会の構造、法律や憲法、さらにいえば言語の構造などといった環境的なものです。もっと視野を広げるなら人間界の構造という解釈もあるでしょう。

構造が主体を規定する。

こういった構造の上に主体が生成されるのであり、その構造を抜き取ってしまえば、私たちの主体というものはなくなるのです。

分かりやすい例を出すなら、魚という生き物を定義するのは水であり、水がなければ魚たるものは存在できません。

同様に人間という生き物を定義するのは人間が生息できる自然環境であり、言語環境であり、社会であると言えます。そして、私たちはそういった環境の構造に従うことで生きています。

こういう解釈を推し進めると「心」もまた構造による産物であり、見方によっては虚構とも言えます。

「作品=作者」という虚構

この構造主義の考え方をテキスト分析において応用すると、作品とは言語構造や社会構造などあらゆる構造によって出てくる言葉を編み出したものとなります。

つまり言葉は借り物であり、その言葉は構造によって規定されている。

ならば作品とは構造の産物であって、作者の産物ではないという解釈が成り立ちます。

作品が完成したら、それは作者の手を離れています。これが構造主義の考え方です。

なぜなら、その作品は書いている最中の構造から生み出されたものであり、その渦中にいる臨場感の中に作者はいないからです。

テキスト分析とは

テキストとは織物であり、テキスト分析上ではその織物を分析することが重要で、作者自体を分析することではない。

家庭・学校・会社・国家・メディアなどの影響や過去のテキストのかけらが絡み合って織り上がっている。

あるテキストは、オリジナルではなく、すでにある他の無数のテキストから引用してできているという考え方。これが分かれば冒頭で紹介した「作物の上にのみ現れた特性」を分析するのがテキスト分析、という意味が分かるのではないでしょうか。

テキスト分析を実践する上での指針

以上を踏まえた上で、テキスト分析を実践する上でのアドバイスをすると:

・作者はいないとものとして扱い、テキストのみに向かい合う。

  • 作物(テキスト)の上にのみ現れた特性」を分析する。

  • テキストから現れた特性=あなたの考えである。

  • その考えを演繹的にまとめあげていく

ということになります。ちなみに演繹的思考では「〜であろう」、「〜のようだ」のような表現は禁止です。これらは帰納法の表現であり、演繹法の表現は「〜だ」「〜である」です。

言い切り型として思考を展開していくこともメタ思考を磨く上で重要です。

おすすめ書籍

寝ながら学べる構造主義
日本の構造主義者である内田樹さんの初心者向け解説本です。

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