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どういうフィルターなんだ/「他人の顔」

安部公房「他人の顔」を読んだ!

こんばんは。瓶宮です。
顔を事故でなくした男が、人間そっくり精巧な顔の形をした仮面を作って、自分を取り戻すぞ!という話を読みました。
初読の感想をファ~~~と書くので、ネタバレを含むと思います。未読の方はお気をつけて。





顔というものが自分自身とイコールで結びついているという感覚が、読者であるこちらに植えつけられるようなレベルで詳細に語られています。顔が相手とのコミュニケーションの通路になるという部分は、めちゃめちゃそうだなあと思いました。

というか、顔に限った話でもないかも?みんなにはできるのに、自分だけができない……みたいなことだったり、できるできない以前にそういった概念が自分に存在しない……みたいなことだったり。私も心当たりがあると思ったのですが、とりわけ食事が苦手なことが挙げられると感じました。どうもごはんを食べることを楽しみにすることよりも完食するというノルマを達成することのほうに重心が偏ってしまい、緊張で食欲がなくなってしまいます。社会では、食事を通してコミュニケーションをはかるというのに、それを苦痛に感じるだなんて……という劣等感が、個人的に「ぼく」に共感を覚えてしまうポイントであるように思いました。私じゃなくても、読む人によってはそういうこと、きっとあるのではないか……と思います。

仮面を新たな素顔、ひいては新たな自分の一面として捉えることができた「ぼく」は、ハッピーエンドなのでしょうか、それとも闇堕ちエンドなのでしょうか。
これまで対人関係に悩んできた「ぼく」が、くよくよして何もできなかった過去のしがらみから解放されるという図に関しては、素直にハッピーに見えるんですよね。物事を見るにあたって、かけられるフィルターの種類が増えたみたいな、認識のアップデートは良いと思うんです。
しかし、そのフィルターが善なのか悪なのかということで話が変わってくるんですよ。手記の続きを書かずに終わっているのだから、これやっちゃってない?って気持ちが生まれています。奥さんのこと殺しちゃってない?そして、それは俯瞰的に見ればただの闇堕ちエンドでしかない。う~~~ん。無知ゆえの幸せととるべきか否か、難しいです。

かなり難しい話でしたが、手記にたくさん書かれている比喩がなんとなく咀嚼すれば読み取れる……!って感じだったので、脳の回転が凄まじくだいぶパワーを使いました。読んだ日はよく眠れます。
最後に、作中でのお気に入りの文章を紹介して終わりにします。

「どこの売場でもかならず陳列台一つがヨーヨーのためにあてられており、そのまわりに子供たちがダニのようにへばりついている。

言い過ぎだろ!


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