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【小説】化ける

 異世界、それは不気味な憧れだろうか。
 見知らぬ世界が自分のすぐ隣に存在している、かもしれない。寝床に就いて目を閉じる。自分だったらどう行動しようか、異世界では己をなぜか力量のある転生者として描いているうちに、興奮して眠れなくなってしまう。未知の世界を切り開く第一線を駆けていく私。ああ、これじゃ眠れないや、水でも飲んでリセットさせようかと瞼を開こうとするのだが、なぜか開かない。いや、開けない。瞼の奥では無双していたはずだ。恐ろしさなど感じた覚えはない。けれど、だめなのだ。もしかして、もしかしたら、この目を開けたら最後、心あたたかな家にいるのではなく家に化けた何者かの手中にいるような気がしてならない。腹の中で、そうした恐ろしさが無意識のうちにむくむくと湧き上がっているのである。

 



 異世界にまつわる過去の話がある。私の話だ。

 スマホに表示された「今後のご活躍をお祈り申し上げます」という文字列を見て、うなだれる。これで十三社目だった。皺ひとつない綺麗なパンツスーツを身につけて、たった今面接を終えてきた私は涙を必死に堪えていた。一週間前に受けた不動産の会社だっただろうか。私にしてはうまく受け答えできたはずなのだが、こうもあっさり終わりを宣告されると、一体私という人間は果たして社会にとって価値あるものなのか、甚だ疑問に思われる。そして、私が私自身にそう思ってしまうことがあまりにも悲しく、電車に揺られていながら涙が溢れだしそうになるのを我慢するしかないのだった。
 気持ちを紛らわせるために、SNSを開いて友だちの投稿を見る。
「就活終わりました、各位遊びましょう」
「正直な話なんだが、内定三つもらっててどこもハズレじゃなさそうなんだよね マジで相談したい」
「今日は水族館行ってきた!明日みゆちとなかちゃんとバーベキューします笑」
 思わず、スマホの画面を切ってぎゅっと目を瞑ってしまう。紛らわせようとして開いたのに、友だちの成功を目にしてしまい、自分の惨めな状況と照らし合わせて気分を落とすのだ。つくづく、馬鹿だ。喜ばしいものも、毒として映る。
 電車は郊外に向かって走っていた。時折、ガタンゴトンと音を立てて、車体が揺れる。私はその子守りのような揺れに身を任せ、乗り換え駅に着くまでしばしの間、眠ることにした。寝るのに集中すれば、私のクソみたいな人生に多少は目を向けずに済む。



 巧実が私の隣で寝転んでいる夢を見た。二人とも服を着ないで、清潔な白いベッドに身体を預けて互いに見つめ合っていた。知らない部屋だ。家具屋のCMで見るような、朝日の程よく射しこむカーテンがひらひらと舞っている。私が彼の長い睫毛にそっと指を添えると、巧実は小さな声で囁く。
「どこにも行かないでね」
 行くわけがないじゃないか。私はあなたがいなければ、なんて。巧実がいるから、私も今の生活をなんとか生き延びているのだ。そう思って、私は言葉の代わりにキスをする。巧実の睫毛が私の瞼に触れた。顔を離して再び目を開けると、そこは巧実の一人暮らしの部屋になっていた。埃が飛んでいるのが、朝日に照らされてよくわかる。



 現実と混ざった夢だった。体感は十五分くらいだろうか。がくん、と顎が落ちる感覚に起こされ、はっと顔を上げる。車内の電光掲示板には、「津婆」と表示されていた。聞いたことのない地名だ。乗り過ごしたのだとすぐに気がつき、特に急いだ用が待ち構えているわけでもなかったが、不安になった私は慌てて時間を確認した。十五分寝ていたはずが、四十五分も寝ていたようだった。すぐに降りて、逆方向の電車に乗らなければ。そういえば、明日もウェブ面接があったじゃないか。首筋に汗が伝って、背中に落ちた。
 急行列車は津婆駅に到着した。私は急いで降りていき、階段を駆け上がる。夕方という時間帯であることもあり、少し古びた駅舎は薄暗い。そろそろ電灯がついても良さそうだった。急行停車駅なのに四つしかない改札のちょうど真横に、明るさの失われかけた電光掲示板が吊るされており、それを見てみる。
 
   オ半猩
   オ半猩
   オ半猩
   具レ蟇縺 19:20

 ぎょっとした。一体何事なのだ。いや、どこかで変換ミスがあって、掲示板に文字化けが並んでいるのだ、とすぐに思い直した。たぶん、上の三つは「通過」とか書きたかったのではないか。とにかく、十九時二十分になれば、電車が来るのである。急行が停まる駅なのに通過が続くとはいささか違和感を覚えるが、一時間近く暇なのをホームのベンチでただ座っているのも困るので、街を散策してみることにした。

 津婆駅前はスーパーやドラッグストアなどが建っており、それなりに栄えていることが見て取れた。よくある郊外の景色。サラリーマンが帰って飯を食い、泥のように眠ってまた出社していくためだけに存在するような家が数多くある街だった。駅前の小さなロータリーに軽自動車が入る。歩道脇に寄せると、そのまま動かなくなった。習い事から帰ってくる子どもを待っているのか、はたまた買い物帰りに夫を乗せていこうという算段なのか。
 しかし、ありふれた街並はどこか奇妙さを帯びていた。スーパーには、赤い看板に店名が書いてある。ドラッグストアには、ヒビ割れかけた壁に店名とロゴが書いてある。コンビニには、淡い青空のような色の看板に店名が書いてある。
「痕責ホヌ保壹無サ」
「伽繧瘖」
「コココ日殷用エ迴」
 知っている文字でありながら、単語として認識できるものではなかった。だが、店外に出されている物を見れば、たぶんあれはスーパーの特売品なのだろうとわかるし、あれはドラッグストアの人気商品を売り出しているのであるとわかった。
 けれど、私はぞっとした。なんだか様子のおかしい場所に来てしまったのではないか。私の知っている言語が使われずに、私の知っている文明とまったく同じ発達をしていることが特別おそろしく感じた。その未知の言語を使っている、あそこを歩いている中年の男は、なんなのだ。同じ人間なのか?答えがどちらでも、恐怖が中和されないことには変わりなかった。パンプスを履いた足が突然重くなる。まるで、歩き出すのを拒んでいるかのようだった。

 私が駅舎の前で呆然と佇んでいると、不意に人間が大声で泣き出す声が聞こえた。女が泣いている声のように思われる。それは近いところからの発生だった。おそらく切符売り場のような場所の前で、四、五人がごにょごにょと背中を丸めて集まっていた。その中心に、私からはよく見えないが、泣いている本人がいるようであった。集まっているうちの大柄の一人がしゃがむ。続いてもう一人、スーツを着た社会人のような者もしゃがんだことで、泣いている人が見えた。両手を顔に覆って、涙を他人に見せないよう必死な様子だった。それをなだめようとしているのが、うかがえる。
 害はなさそうだ、と私は判断し、ふらりとそちらに近づいた。いつもはこんな人助けをしようと思わないのにそうしてしまったのは、私も同じ傷心を抱えているからなのだろうか。
「あの、大丈夫ですか」
 私はバッグから、新宿でもらったポケットティッシュを取り出した。そして、泣いている彼女に差し出す。それに気づいたのか、覆っていた片手をポケットティッシュのほうに伸ばした。そのときにちらりと見えた、充血して赤くなった目は私とよく似ていた。私は自分を撫でてやるような気持ちで優しく笑ってみせた。

 すると、先ほどの大柄の男が涙を拭く女の肩をトントンと叩いた。それは声をかけるときに行われるような優しいものではなく、この女に知覚させなければならないという義務のような衝動に駆られてのものだった。女がティッシュで目や鼻を覆いながら、彼のほうを向く。そして、彼は私を指さしたことで、人々の注目が一斉にこちらを向いた。視線が矢のように飛んでくる。どうしてこちらを見定めているのだろうか。真意が掴めない。
「なん、なんですか?」
 私の質問に答える者はいなかった。代わりに視線をこちらによこすのみであった。十二の目玉がぎょろりと凝視する。一体、何事なのか。彼らのだんまりに、不気味さと怒りが込み上げてくる。けれども私ひとりと多くの見知らぬ人たちとでは分が悪い、と思ってその視線から逃れるようにその場を立ち去ろうとすると、大柄の男が彼女の覆っているティッシュと手を優しくほどいた。

 そこに現れたのは、よく知った顔だった。毎朝、鏡に向かって対面するそれと酷似していた。私が、いるのだ。
「あっ……」
 私の口から出た驚きはひどく小さなものだった。自分の顔というのは、鏡以外で見るとなると、案外その知覚に時間がかかるものらしい。とにかく、何かが変なのだということに対して出た身体反応がこうだったというしかない。やがて、――実際にはおよそ数秒での出来事でしかないが――私は「私の姿をした何者か」を目撃したことを受け入れ、その何とも言いようのない不気味さに身体を徐々に強ばらせていった。蝕まれるという感覚がよくわかったような気がした。
 女もそれに気づいた。私ほど驚いている様子はなかったが、持っている小さなバッグをごそごそと慌てて漁り出した。その間も、誰も何も発しなかった。一連の流れが、ほぼ無音で展開されたといってよい。言うなれば、私だけが行動を起こし、それがこの場においては浮いたものであるとどことなく断罪されるような感じである。じんわりと不快が押し寄せる。
 女――もうひとりの私は、バッグから目当てのものを引き当てたようだった。それを私の鼻の先に突き出す。
「これ……」
 一枚の写真。淡いフィルムの中で、巧実と彼女が近い距離にいる。彼が彼女の背中に腕をやり、腰に触れているようにも見えなくはない。彼女はピースした指を顔に近づけ、カメラに目線を遣っていた。二人とも、屈託のない笑顔を浮かべ、不幸を一切寄せつけなさそうな雰囲気を帯びている。そして、私はこの写真を撮った覚えがまったくない。
「どうして、これを持っているの?」
 女は答える。
 
「趙コハ永娉 會架莫縺ア」

「え?」

「趙コハ永娉 會架莫縺ア」

 女の口から放たれる音は、逆再生にしたような奇妙な息が渦巻いていた。生ぬるい風。たちまち耳が粟立ち、私は今、確信する。ここは異世界なのであると。私が私たりえなかったときの私がいる世界なのだ。ぞわぞわと背筋が細い息を吐く。
 しかし、彼女の訴えは怪しい環境の中でひときわ粒だっていた。言葉こそ通じないものの、右手で私の目の前に写真を差し出し、左手で私の肩を強く掴んでいる。それは私と彼女が何らかにおいて同志であることを主張していた。おそらく、巧実の。
 私は彼を知っていると伝えるために、必死に首をコクコクと頷き、写真に指をさした。すると、彼女は写真を強引に私の手によこした。大事な写真ではないのか、と受け取るのを断ろうとするが、彼女は一向に引きさがろうとせず私に押しつけた。鬼気迫る雰囲気に気圧され、右手は写真を受け取ってしまった。額にうっすらと汗が滲む。その湿り気にそよいだ種が芽生え、彼女は役割を終えたようにすとんと腰を下ろした。周りの男たちはその間もやはりずっと黙っていた。私と彼女だけが言葉のない時間を紡ぎあっていた。
 彼女が落ち着きを取り戻したことで、人々はそれぞれの帰路についた。日の入りをとうに過ぎ、空は赤黒くなっている。電光掲示板を見やると、いつの間にか次の電車がやってくる時間になっていた。私は彼女を一瞥する。彼女もまた、ずっと私を見ていた。そして、その場を離れ、改札を抜けてホームに駆け下りていった。カツカツカツとからっぽの音が響く。私は電車に飛び乗り、端っこの席に腰かけた。その頃には、完全に太陽の光が失われ、どっと瞼の重くなった私の姿が窓に反射して浮かび上がっていた。

 疲れた身体で、受け取った写真を眺めた。写っているのは私であり、私ではない。腰に手を回し、顔と顔を近づけて笑いあっている。似たような写真なら巧実といくらでも撮った気がする。そして、何度も見返したカメラロールを再び眺めてみても、この写真は入っていなかった。
 ある記憶が脳裏によぎった。
 
「どこにも行かないでね」

 巧実の声がする。風に吹かれて消えてしまいそうな声。白いカーテンがゆらゆらと舞う。
 どこにも行かないで、なんてまるで前の恋人に愛想を尽かされたり、浮気されて出ていかれたりだとか、そういうことがあった人間が言うものだと、あのときは思っていた。そんな巧実は私がいないと、そして私も巧実がいないとだめなのだ。バニラアイスが口いっぱいに広がるような甘い言葉に撫でられ、私は微笑んで目を糸のように細くさせた彼の目元にキスを落とした。
 だが、今は違うのではないか?あの写真を見ることで私の中に疑念が湧く。巧実は、あの私でない私のことを知っているのではないか?もしかしたら、異世界の私と仲良くやっていた?
 ……冗談がすぎる。何を、一体何を言っている。疲れているのだ、面接帰りなのだ。そうして電車で少し眠り落ちていたら、様子のおかしな場所へ迷い込んでしまい、私によく似た何者かと出会って……。これまでの経緯を難なく振り返れてしまうことが、気味悪く感じる。自分自身が変に思われる。最寄り駅に向かうこの電車が、本当に向こう側に進んでいるのかも知らないというのに。けれども、もうどうすることもできない。ため息をついたところで、私は考えることをやめた。瞼を閉じて、最寄り駅に着くまで眠った。



 私が玄関で巧実に抱きしめられたのは、あのことが起きてから三時間後だった。無事に最寄りのホームで下車した頃にはすっかり夜になっていた。様子のおかしくない街に戻って来たことを確認し、コンビニで適当に弁当を買って家に帰る。すると、巧実が珍しく甘えたような声でおかえり、と言って身体いっぱいで捕まえるように覆いかぶさってきたのだった。
 ああ、好きだ。他の誰よりも、この私が巧実のことを一番好きだ。疲労が私の鍵穴をこじ開けて気持ちをどろどろと溢れ出させた。彼の匂いに包まれ、私は夢の中で出会ったぶりにキスをした。ここにいる巧実は、紛れもない巧実なのだ。あの記憶に蓋をするようにそんなことを思う。
 事実、私の心のうちには安心感とともに、疲労によってこじ開けられた鍵穴からどろどろとした不安感もまた染み出してきていた。日常に身を預けようとするたびに、怪しく弧を描いた刃が胸の前に突きつけられるのである。異世界に迷い込んだこと。巧実が異世界にいる私と関係があるかもしれないこと。
 
 私たちは抱き合った状態のまま、リビングまで歩いた。そして、持っていた鞄や弁当を乱雑に置いてソファに沈んだ。
「ねえ」
「何?」
「変なこと言うけど、いい?」
「いいよ」
 互いに顔は見えない。彼のあたたかい声が響く。柔らかいオレンジ色の光を放つ電灯を眺めながら、私は話した。
「今日の帰りに電車の中で眠っていたら、変な駅についたの。字が、全部変なの。文字化けしているというか」
「うん……」
「そこで、私の姿をした人に出会ったの……。その人は巧実とその人が仲良くしてる写真を持っていて……。疲れてるから変な夢を見たのかなって思ったんだけど違うよ。その写真もらったんだから……」
 すると、巧実はガバリと上体を起こした。あまりの速さに私の目は電灯を直視してしまい、一瞬だけ動けなくなる。彼は何も言わずに真剣な顔つきで私の顔を凝視した。その様子にいささか違和感を覚えたが、それを無視して鞄の中を漁った。写真はあった。それを彼に向かって突きつける。
「……どうやってそれを」
「え?だから、私に似た人がくれたんだって」
「……どうやって、そこに行った?」
 その声はひどく冷淡だった。検事が被疑者を問い詰めているかのような、凄みのある声だった。私は身体を縮こませた。今まで聞いたことのないそれに私は威圧され、思わずソファから立ち上がった。手から写真がこぼれ落ちる。
「なあ、どうやってそこに行った」
「……巧実?」
「答えろ!」
 何かに取り憑かれているのではないか、そう思った。さっきまで私に甘えて好きだと宣っていた彼はどこへいったのだ。一歩、また一歩と退くと、答えるまで追い詰める気である巧実が近づいてくる。それは恋愛漫画でキュンとするような甘い雰囲気のものではなく、狩り、狩られるものたちの命を懸けている、駆け引きじみたものであった。
 恋人たちの間に流れる異様な空気はやがて割れた。その隙間で、追い詰めているはずの巧実がはらはらと涙を落としていた。私はさらに訳が分からなくなった。
「巧実……?」
 床に落とした写真を拾い上げ、それを見ている。さめざめと泣いている。狩る者の中を巡っていく感情の多さに、異変を通り越して得体の知れないおぞましささえ感じていた。巧実のあまりの豹変に、私の身体はこわばったまま動かない。
 すると、巧実はさらにその形相を激しいものにさせた。その視線は冷たい鉄のようで、触れればそのまま凍り付いてしまいそうだった。逃れようとして目を逸らすと、巧実は泣きながら激昂した。
 そして、その間をすり抜けてきたのは彼の拳だった。それは、動けない私の腹を殴る。何百倍にも膨れ上がった衝撃が襲いかかり、私は膝をついてうずくまった。うう、う、うう、とむせび泣くように苦しむ声が出た。私の喉から出るそれで、異世界のあれと出会ったことが不覚にも思い起こされた。
「化け物め!絶対に許さないからな」
 巧実はそう言い捨てると、苦しむ私を取り残し、写真を握りしめて部屋から走り去ってしまった。今日という日はあっという間に過ぎていく。「待って」とも言えなかった。さんざん苦しんで胃液を吐いた後、喘ぐように私は泣き続けた。

 

 そんなことがあってもなお、生活は止まらない。騒がしく、そして目まぐるしく繰り返している。
 あの後、私はしばらくめそめそする日々が続いた。巧実に連絡をしても返ってこないばかりか、彼の一人暮らしの家を訪ねてみても姿を一向に現さないのだった。夜になると、私は布団の中で戻らない過去を思い出して泣いていた。暴力を振るった男でも、多少の罪深い情が残っていたのだ。
 だが、私の場合は一ヵ月も経てば、嫌なことも霞んで忘れてしまう性質なのだった。一時期はどうなることかと思った就活も、あの出来事があってからは「どうにでもなれ」とやけくそになった。面接に噛みついていたら、逆にその態度で評価をもらうことになり、気づけば内定までいってしまったのである。なんだか呆然とする。今までの私って本当になんだったのだろう。
 落ち着きを取り戻した私は、あの男のことを考えた。仮説にすぎないが、巧実と異世界の私こそがもともと仲良くやっていたのではなかろうか。馬鹿馬鹿しい話だ。それなら、巧実も異世界の住人だったことになるのではないかとも思った。愛しい人に擬態した化け物だったのかもしれない。それでも、私は巧実のことが好きだった。
 そうして今、電車に乗っている。これからひと眠りするのだ。なぜか。異世界にもう一度行って、あの女とあの男をしばくためである。

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