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30年間で2億7000万本、生協が独自に実現したびんリユースの仕組み

私たち日本ガラスびん協会が取り組むSO BLUE ACTIONでは、びんリユースの実証実験と共に、さまざまな事業者によるびんリユースの活動を応援しています。

前回は自治体のガラスびん回収を支えている東京壜容器協同組合の『東京システム21』をご紹介しましたが、今回は事業者独自のシステムを構築し、びんリユースを通じて持続可能な社会の実現を目指している、生活協同組合(生協)の『びん再使用ネットワーク』の取り組みをご紹介します。

読者の皆さまの中にも、生協をご利用されている方はたくさんいるのではないでしょうか。生協は一人ひとりがお金(出資金)を出し合い、みんなで利用、運営しながらくらしを向上させていく消費者組織。地域や職場の人々が協力して設立したもので、歴史や特徴が異なる独立した組織として、地域生協や職域生協、医療生協、大学生協などさまざまな種類があります。近年は特に、食の安全、宅配ニーズ、そして持続可能な社会への関心の高まりに伴って、消費生協の組合員数が大きく増えているといいます。

生協はどのような想いでびんリユースに取り組んでいるのか。
そして、どうやって独自の仕組みを作りあげたのか。『びん再使用ネットワーク』事務局長の山本義美さんに伺いました。


SO BLUE ACTIONの話はこちら
東京壜容器協同組合の『東京システム21』の話はこちら

組合員が出資し、利用し、運営するからこそ、地域のためのことに積極的に取り組める生協

食の安全性への不安を
払拭するために誕生した生協

私たちの身の回りにはさまざまな生協がありますが、生協とはどのような組織なのでしょうか。

「生協は組合員が出資して、利用して、運営する非営利組織です。私たちの身の回りの社会問題を解決したいという想いからスタートしており、SDGsの『誰一人取り残さない社会の実現』と同じ理念をもって活動しています。
日本では1970年代に食の安全への信頼性が低下した時期に大学生協を母体とする地域生協が数多く生まれ、全国に広まっていきました」

山本さんは4つの生協が参画する『びん再使用ネットワーク』の事務局長を務めていらっしゃいます。生協の組合員数は年々増えているそうです。

「4生協の合計では、2012年の220万人から2022年には273万人と、10年間で53万人も増えました。特に近年では、食品偽装の問題や新型コロナウイルス感染症の影響による生活様式の変化によって、生協への関心がますます高まっているのを感じています」

多くの生協では、安心・安全にこだわった商品を宅配で直接届けています。生産者、サービス提供者の顔が見えるという安心感が、満足度の高さにつながっているそうです。

生協で規格を統一したリターナブルびん

ごみ問題に対応するため
60種以上あったガラスびんの規格を統一

生協でのびんリユースはどのように始まったのでしょうか。

「1980年代に『あと数年で最終の埋立処分場が埋まってしまう』といわれ、ごみが社会問題化しました。この社会問題に対応するために生協内で検討委員会が立ち上がり、多くの生協でびんのリユースについて議論されました。

結果、びんリユースを選択した生協が集まり、1994年に『びん再使用ネットワーク』が発足しました。家庭ごみの容積の約半分は容器包装廃棄物です。生協の容器を可能な限りリユースできる容器に切り替えることで、ごみ問題の解決に取り組もうと考えたのです。この『びん再使用ネットワーク』にはパルシステム連合会、グリーンコープ連合、生活クラブ連合会、東都生協が参画しています」

『びん再使用ネットワーク』が発足した30年前といえば、ビールびんや一升びん、牛乳びんのリユースがまだまだ盛んに行われていた時代。リユースできるリターナブルびんへの切り替えはスムーズに進んだと思いきや、びんリユースの実施には2つの大きな課題があったといいます。

「その頃生協で主に使っていたガラスびんは、一度使ったらリサイクルするワンウェイのガラスびん。そして、ガラスびんの種類は60以上あり、規格もバラバラ。リユース可能なリターナブルびんに置き換えるためには、まず、リターナブルびんの規格を統一させる必要がありました。
例えば、ジュースとお酢などの調味料で使うリターナブルびんを同じものにすれば、よりリユースしやすくなりますから。検討の結果、5つのリターナブルびんに規格を統一することができました。これらのびんには、日本ガラスびん協会が認定したRマークが刻印されており、現在、7種類のRびんとなっています。」

7種類で規格が統一されたびん再使用ネットワークのリターナブルびん
びんの規格を統一することで、一つのリターナブルびんをさまざまな商品に活用することが可能に

びんリユースへのもう一つの壁
ガラスびんをもっと軽く運びやすく

もう一つの解決しなければならない課題。その解決には私たち日本ガラスびん協会も協力させていただきました。

「組合員から、配達された時のガラスびん商品の重さについて意見がありました。良い商品を提供することはとても大切なことですが、びんの扱いやすさも求められていたのです。」

この重さの課題を解決するため、日本ガラスびん協会では技術を集結。リユース可能な耐久性を維持しつつ、極限まで軽量化に取り組みました。ガラスびんの厚みを薄くしながら、外側にコーティングを施して耐久性を上げるなどの試行錯誤を重ねた末に誕生したのが『超軽量リターナブルびん』です。

この『超軽量リターナブルびん』は500ml容量で195g、900ml容量で310gと驚きの軽さを実現。『超軽量びん』は日本ガラスびん協会が定める軽量度指数において、最も軽量度の高いガラスびんを指します。『超軽量びん』でありながらリユース可能な耐久性を併せ持つ、技術の粋を集めたのがこの『超軽量リターナブルびん』です。また、それぞれ従来は320g、470gであり、4割近くの軽量化となりました。

従来品から4割近くの軽量化を実現した超軽量リターナブルびん

30年間で2億7000万本のびんリユースを実現

宅配型の生協がいち早くびんリユースに取り組めたのは、やはり利用する組合員の家に直接訪問することにあります。商品を届けるタイミングで空きびんを回収できるので、高い回収率を維持することができるのです。

生協4団体でのリターナブルびんの回収本数と回収率

「年間1400万本出荷して、1000万本を回収できているので回収率は70%くらいです。『びん再使用ネットワーク』がこれまで取り組んできた30年間の累計では、リターナブルびんを2億7000万本回収しており、重量にすると7.4万トンに上ります。およそジャンボジェット210機分に相当します。仮に自治体がこの量のガラスびんをリサイクルのために回収した場合には約43.5億円かかる計算になりますので、これだけの税金の節約に貢献できたことになります」

30年間で2億7000万本を回収、節約した税金は43.5億円。大きなことを成し遂げるためには、一つひとつの小さな積み重ねが重要であるということの良い証です。しかし山本さんは、この数字にまだ満足していないといいます。

「目標は回収率80%です。近年、新しく加入された組合員の特に若い世代は、リターナブルびんの存在とびんリユースの仕組みを理解されていない方が多く見受けられます。一般市場からリターナブルびんが激減してしまった影響が大きいです。ワンウェイびんとリターナブルびんの違いをわかっていないので、配達員へ返却せず自治体回収に出しても同じだと勘違いしているのです。
リターナブルびんは同じ場所に戻さないとリユースしにくくなってしまうので、びんリユースを推進するためには、びんリユースの仕組みとその意義への理解を深めてもらうための啓発活動も欠かせません」

回収され、洗浄されたリターナブルびん

包装容器が製造→輸送→販売→廃棄・リサイクルされるまでの
ライフサイクルで考える視点が重要

啓発活動では、びんリユースの仕組みはもちろん、以下のことも伝えているといいます。
・ガラスびんの口は丁寧に扱う
・広口のガラスびんでは金属のスプーンなどを使用しない

また、回収する職員にも丁寧に扱うことを徹底させているそうです。
・回収したガラスびんはコンテナに立てて置く
・横に倒したり、重ねたりしない

「パリ協定を実現させるためには、将来的に物流からのCO2排出もゼロにしなければいけません。製品のライフサイクルである製造→輸送→販売→廃棄・リサイクルまでの全体の環境負荷を表すLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)では、包装容器はリユースするほどCO2が削減できるとされています。こうした環境負荷の視点を生活者がもっと意識するようになれば、
びんリユースはさらに進んでいくと考えています」

各種びんのCO₂排出量の比較

海外で進むリユースの取り組み
フランスでは2027年に全容器の10%をリユースへ

世界的に見ると、びんリユースはどのように広がっているのでしょうか。
山本さんによると、他の国に比べて一歩進んでいるのはドイツ。それをフランスが猛烈な勢いで追いかけているといいます。

「フランスは脱プラの取り組みの一環で、リターナブルびんの利用を積極的に推進しており、2025年までにガラスびんの回収・再利用の仕組みづくりを義務化。2027年には全容器の10%をリユース容器にする目標を掲げています。しかも、そうした国の方針に企業も敏感に反応しており、大手企業が容器の試験提供を表明しています。こうした官民一体の取り組み方は見習いたい部分ですね」

ドイツ・フランスでは、包装容器の回収とリサイクルにかかる費用はすべて事業者が負担する流れになっています。結果的に、その費用は商品価格に転嫁されるため、使い捨ての容器を使用した製品は、リユース容器を使用した商品よりも高額になります。環境問題が消費者の日常生活に直結する施策になっていることが、ドイツ・フランスでの環境意識の高さにつながっているのかもしれません。

海外を見ると、日本はまだまだ遅れていると話される山本さん

日本にもびんリユース推進の種火はたくさんある

「びんリユース推進をしているのは私たち生協だけではないと思います。
私たちは日本ガラスびん協会と親しい関係にあったので、いち早く『超軽量リターナブルびん』の開発などご協力いただき、独自のシステムをうまく構築・運用することができています。私たち以外にも、日本にはびんリユース推進に取り組んでいる人たちがたくさんいると思います。そういう人たちをサポートし、同じ活動している人たちが力を合わせられるようになれば、
ごみ問題・環境問題の解決はもっと前進すると思っています」

私たち日本ガラスびん協会が取り組むSO BLUE ACTIONは、まさにびんリユースの推進と、それに取り組む人々の応援を行っています。私たちはもっともっと多くの人とつながり、びんリユースの活動を応援していかなければなりません。今回のインタビューを通して、このnoteもその一助になれるようにと、気持ちが引き締まりました。


びん再使用ネットワーク
事務局長 山本義美さん


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