地域コミュニティのハブである銭湯×リターナブルびん それぞれの文化が融合して生まれたものとは
「こんぶ湯」や「梅の湯」、「豆乳風呂」など、お客様の健康と環境問題、そして地域の活性化を考慮した新しい取り組みを行っている銭湯、妙法湯。店主の柳澤幸彦さんは、「銭湯が人々の日常に寄り添う場所であり続けたい」という強い想いをお持ちで、地サイダー・地ラムネと銭湯とのコラボレーション企画『ガラスびんでシュワシュワ市』など、日本ガラスびん協会の取り組みにもご協力いただいています。
そんな妙法湯の特徴は、お客様の約半数が若い世代ということ。そして妙法湯が展開する数々の新しい取り組みは、若い世代から高い注目を集めています。このような背景から、地域コミュニティの新しい“ハブ”として、若者を含めたさまざまな世代の方が集う妙法湯に、今夏に開催した『しよう!再使用!リターナブルびんラップチャレンジ』にご参加いただきました。
銭湯業界での環境問題やSDGsとの向き合い方、そして若い世代の反応など、番台から直にイベントの様子を見ていた柳澤さんにお話を伺いました。
※しよう!再使用!リターナブルびんラップチャレンジのリリースはこちら
銭湯が人々の日常に寄り添う場所であるために
地域を巻き込んだ取り組みにチャレンジする
―80年という歴史ある老舗銭湯が、なぜさまざまな新しいな試みを行っているのでしょうか?
私は「銭湯が人々の日常に寄り添う場所であり続けたい」という強い想いを持っています。
そのために大切にしているのは「伝統と革新の融合」です。80年の歴史で積み上げたお客様との信頼関係を守りながら、新しい挑戦を通じて次の世代に銭湯文化をつないでいく。そんな想いを胸に、さまざまな取り組みにチャレンジしています。
例えば、環境問題やSDGsを意識した取り組みとして、東京湾で養殖したこんぶを使った「こんぶ湯」や規格外の紀州南高梅を利用した「梅の湯」、地元の豆腐屋と協力した「豆乳風呂」などがあります。
他にも、地域の子どもたちや高齢者、障がいのある方々に向けた染め物などの体験イベントを実施するなど、銭湯が単にお湯に浸かる場所でなく、さまざまなコミュニティのハブとなることを目指しています。
―環境問題やSDGsを意識した取り組みを始めたきっかけは?
「こんぶ湯」でいいますと、海洋環境問題に取り組んでいる企業、幸海ヒーローズ合同会社の方との出会いがきっかけです。東京湾が抱える環境問題、特に「海の砂漠化」と「海洋汚染」は逼迫した問題で、海藻類の減少は生態系に悪影響を与えるだけでなく、二酸化炭素の吸収能力が低下し、気候変動の悪化につながります。
海藻、特にこんぶには、水質浄化、二酸化炭素吸収、海の生態系の回復といった多くのはたらきがあり、「海の砂漠化」と「海洋汚染」に対策には、こんぶの養殖が効果的であることを知りました。
この話を聞いて、もし銭湯が海洋環境問題の解決に貢献できたらどれほど素晴らしいだろうかとワクワクしたのを覚えています。
そして、東京湾で養殖したこんぶを使った「こんぶ湯」にトライしてみるとともに、この取り組みを一過性で終わらせない仕組みはないだろうかと考えました。
そこで私が模索したのは、地元の子どもたちや企業、教育機関との連携です。学校教育として、子どもたちに海の現状や環境保全の大切さを学んでもらう。地域企業との連携では、こんぶを銭湯で利用した後、肥料として農業に再利用する。こうした循環型の仕組みを構築し、地域全体で問題解決に取り組む一体感を生み出したいと考えました。
こうして地域を巻き込んだ取り組みにしたことで、「こんぶ湯」はただの入浴イベントではなく、 海洋環境問題への意識向上、地域資源の活用、地域交流の促進といった多面的な価値が生まれたのです。銭湯の常連のお客様だけでなく、子どもから高齢者まで幅広い世代が参加できる場を設けることで、地域ぐるみの活動へと発展させることができました。
その後、この『豊島区こんぶ湯SDGsプロジェクト〜東京湾こんぶ養殖と教育・地域企業を巻き込んだ循環型社会へ〜』は環境省のグッドライフアワードを受賞し、妙法湯以外の銭湯にも参加していただけるようになりました。
ラップチャレンジは
銭湯の価値をさらに進化させる
―『しよう!再使用!リターナブルびんラップチャレンジ』への参加を決めた経緯について教えてください。
日本ガラスびん協会さんからの打診は、びん牛乳やびんラムネなど、昔からガラスびん飲料を提供する文化が根付いている銭湯こそイベントの舞台にふさわしいと、信頼していただいている証だと感じました。環境問題への意識を共有できるパートナーとして声をかけてもらえたことは、とても嬉しかったです。また、びんリユース普及による使い捨て文化を見直す取り組みに協力できることは、銭湯の社会的な役割としてもとても意義があると思いました。
そしてなにより、リターナブルびんの返却の仕組みをラップというエンターテインメントの形に変換するというイベントの面白さにとても感動しました。
「リターナブルびんの返却本数に応じた長さのラップを作曲する」というユニークなアプローチは、これまでにない新しさを感じましたし、特に若い世代が楽しみながら環境問題に貢献できる点に大きな可能性があると感じました。そしてこの企画を通じて、銭湯がさらに幅広い世代へアプローチできることにも期待が膨らみました。
その一方で、リターナブルびんの返却には、参加者の理解と協力が欠かせません。銭湯側としてどのようにお客様にリターナブルびんの意義を伝え、返却を促進するかをしっかり考え、責任を持って取り組む必要があるとも感じました。
遊び心とメッセージ性が
若者の心をつかむ
―イベントに参加した感想を教えてください
年配のお客様からは「昔を思い出す」「懐かしい雰囲気が楽しめる」といった声が多く寄せられました。リターナブルびんを通して、かつての銭湯での思い出を懐かしんでもらえたようです。
また、若い世代はリターナブルびんそのものを知らない方も多くいましたので、びんリユースの仕組みを説明するとともに「これを飲んでびんを返すだけで社会貢献できるんだぞ。しかも、ラップづくりにも協力できるぞ」と声を掛けました。
すると「こういった取り組みをしているのは素晴らしい」「銭湯でエコが体感できるのが面白い」と多くの若者が楽しみながら参加してくれたので、とても嬉しかったですね。
「自分が社会貢献に参加している実感が湧く」と楽しんでくれる方が非常に多かったのが印象的です。
今回のイベントを通して、リターナブルびんが環境貢献と銭湯文化を融合した象徴的なアイテムとして再認識されたのではないでしょうか。
―課題に感じたことは?
リターナブルびんの返却の仕方ついて、まだまだ説明に工夫が必要だと感じましたので、早速お客様への説明の仕方や返却ステーションの設置場所など改善を進めています。
―今回のイベントに、さらなる可能性を感じましたか?
今回のような若者に響く形で、リターナブルびん・びんリユースの仕組みの価値を再定義していく試みは、従来の方法では届きづらかった層へのアプローチとして魅力的だと感じました。遊び心とメッセージ性が両立したこのイベントは、これまで銭湯が培ってきた地域密着型の取り組みに新たな価値を加えてくれると期待しています。
とはいえ、大切なのはリターナブルびん・びんリユースの良さを伝えながらも、お客様に過度な負担を感じさせないバランスだと思います。リターナブルびんの良さを楽しく自然に伝え、実践してもらうためのコミュニケーション手法はもっともっと検討ができそうです。
地域の特色や文化と融合させた取り組みが
新たな可能性を広げる
―今後、日本ガラスびん協会に期待することを教えてください
今回の協業は、リターナブルびん・びんリユースの仕組みによる環境貢献と銭湯文化を融合し、銭湯をさまざまなコミュニティのハブとして機能させる新しい一歩でした。
そしてこの取り組みを銭湯だけに留めず、例えば地元の学校や商店街と協力して銭湯でワークショップを開催するなど、環境教育の場としてさらに拡張できると思いました。
今回のイベントの目的、すなわちリターナブルびん・びんリユースの仕組みの価値の見直しは、リターナブルびん飲料を選択するというアクションを継続し、定着させ、日常生活に溶け込むようにしなければなりません。そのために、消費者、事業者、行政の三者が引き続き一緒に協力していければと思っています。
日本ガラスびん協会さんには、リターナブルびん・びんリユースの仕組みを、ぜひ地域の特色や文化を反映したプロジェクトと結びつけてほしいと思っています。リターナブルびんというアイテムを通じて、銭湯をはじめ、商店街や観光地など、地域コミュニティが一体感を高められるような取り組みが実現してもらえたら嬉しいです。