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ガラスびんを使った昔ながらの保存食で新しいエシカル消費の形を届ける

私たちがサステナブルな社会の実現を目指していく上で、今『エシカル消費』が一つのキーワードとされています。『エシカル』は直訳すると『倫理的な』『道徳的な』という意味で、より良い未来に向けて人や社会、環境に配慮して商品を選ぶことをエシカル消費と呼んでいます。

日本ガラスびん協会では、ガラスびんを通して“食卓から地域社会の活性化を目指す”『エシカルダイニング』という取り組みを、2021年より提唱しています。
リリース:http://glassbottle.org/glassbottlenews/3184

今回、note編集部はエシカル消費を生活の中に無理なく取り入れる方法を聞くために、「エシカルダイニング」のブランドキュレーターを務めていただいているファームキャニング合同会社(以下、ファームキャニング)代表の西村千恵さんにお話を伺ってきました。

葉山にあるファームキャニングの畑

出産を機に、オーガニックな生活を求めて葉山へ

8年前に葉山に移住し、ファームキャニングを立ち上げた西村さん。
ファームキャニングでは、野菜を栽培し、収穫した野菜をびん詰めにして楽しむなど、畑を中心としたコミュニティを運営しています。さらに、規格外で出荷できなかった野菜を使ったびん詰めの製造販売やケータリング事業、企業向けのコンサルティングも行っています。以前は東京で働いていたという西村さんが仕事を辞め、葉山に移住を決めた理由を伺いました。

「私は大学を卒業してからずっとオーガニックカフェで働いていました。しかし、こどもが生まれると、育児と仕事の両立がとても難しくなってきました。こどもを預けて夜遅くまで働く生活に疲れ、『自分と家族のためにも、もっと自然の中でこどもとゆとりをもった生活をしたい』と思ったのです。『ダメなら1年で戻ってこよう』と、思い切って葉山に移住を決意しました」

「葉山に実際に住んでみて、やはりいいところだなと思ったのですが、驚いたこともありました。スーパーマーケットに地元の野菜がほとんどなかったのです。こんなに緑が多い土地なのに、なぜ別の地域の野菜ばかりなのだろうと思いました」

取材時はちょうどナスを栽培中

数か月かけて育てた野菜が
ヤギのえさになる衝撃

スーパーマーケットに地元の野菜が並んでないとはいえ、野菜を栽培している農家がないわけではありません。西村さんは、友人を介して無農薬・無化学肥料栽培を行っている農園に出会ったことが、ファームキャニング立ち上げのキッカケになったと教えてくれました。

「毎日通っているうちにこの農園のお手伝いをするようになったのですが、やればやるほど『もっとこうやった方が良いのでは』と思うことがたくさん出てきました。しかし、農園は人手が足りず、経営的にも余裕ないの状況でした。無農薬での栽培や有機栽培は環境にも社会にも良い影響をもたらしてくれるのに、なぜもっと社会的に守られる仕組みになっていないのだろうと、私は憤りを感じました。農園が丁寧に仕事をするほど損をしてしまう構造になっていたのです」

「また、無農薬での栽培は、虫や雑草を手で取り除くなど、多くの手間がかかります。そうして数か月後にようやく収穫できた野菜が、形が不揃いという理由だけで出荷できずヤギのえさにされてしまったのです。『数か月間、私はヤギのえさをつくっていたのか……』とショックを受けました。それと同時に、形は不格好でも味は問題なく体にも良いのだから、美味しく食べられるように加工すれば生産者に少しでも還元できるのではないかとも考えました。一方の見方で価値がないと思われるものでも、別の形で価値を付加することができればもっと幸せな社会になる。そういう社会のためになる仕事をしたいと思ったのです」

『数か月間、私はヤギのえさをつくっていたのか……』を当時の想いを語る西村様

びん詰めで
野菜に新たな価値を

『規格外の野菜に新たな価値を与えたい』という想いから立ち上げたファームキャニング。西村さんは事業を立ち上げる際に2つの決めごとをしていました。

「私はもし何か事業を始めるなら、社会に悪影響を与える事業はしたくないと考えていました。ゴミやCO2をたくさん排出してしまうのなら自分のエゴだけで会社を立ち上げる必要はないと思いました。せっかく自然のたくさんある葉山に移住したのに、自分の事業が自然を害してしまったら当初の想いと実際にやっていることがちぐはぐになってしまいます。
もう一つが、ピクルスなど既にある加工品はつくらないということ。既にあるものをつくっても、この野菜たちに新しい価値を与えることはできないと考えていました。自分たちの商品を通して消費者に新しい気付きを提供し、地域や生産者に思いを馳せることができるものをつくりたいと考えたのです」

無農薬・有機栽培は手間がかかる分、食物を考える機会も増える

思案を巡らせた末、西村さんが選んだのが野菜のびん詰めでした。

「びん詰めは、世界中で昔から用いられていた食品の保存方法です。しかも常温で長期間保存できます。東日本大震災などの経験で、エネルギー問題も社会的に課題になっていましたので、常温で保存ができることは、これからの社会にフィットするのではないかと思いました。しかも、ガラスびんはリサイクルできます。長期保存しても、食品に悪影響を与えません。ゴミも出ないし、食品にもやさしい。びん詰めの保存方法を知った時、『こんなに素晴らしい方法があったのか』と驚きました。
また、例えば農業体験をした後に野菜のびん詰めをつくって家に持ち帰ってもらえれば、ガラスびんを開ける度に農業体験を思い出してもらえます。野菜のびん詰め自体が農業や地域、生産者について日常的に思い起こしてもらうアイテムになると考えました」

Vファームキャニングでつくっている野菜のびん詰め

レシピの存在しないびん詰め
4年にも及んだ試行錯誤

さっそく野菜のびん詰めの商品化に動き出した西村さんですが、いきなり大きな壁に直面しました。

「さまざまな資料を見たのですが、書いてあることはバラバラ。明確なレシピが存在しないことが分かりました。とにかくいろいろ試すしかない状態でした。一つの野菜で上手くできても別の野菜だと上手くいかず、カビが発生してしまうという試行錯誤を繰り返しました」

びん詰めは明確なレシピがない上に、野菜によってレシピを変更する必要もあり、一筋縄ではいかなかったといいます。

「保存することが前提なので、最低2か月は放置しないと商品として問題ないかどうかの検証はできません。最初はひたすら『つくっては放置して』を繰り返す日々でした。今私たちがつくっている安定的な製法にたどり着くまでに約4年もの歳月がかかってしまいました」

商品開発時の苦労を語る西村様

生産者を思い浮かべることから始める
エシカル消費

ファームキャニングで野菜のびん詰めの販売が始まってから数年後、日本ガラスびん協会は、ガラスびんを通して “食卓から地域社会の活性化を目指す” 『エシカルダイニング』を提唱。近しい考えを持たれていた西村さんに、『エシカルダイニング』の取り組みへの協力をお願いしました。

「日本ガラスびん協会さんから話を伺った時、ファームキャニングの考え方とピッタリだと思い、すぐに協力させていただくことを決めました」

とはいえ、私たちがエシカル消費を実践するには何から行えば良いのでしょうか?西村さんは難しく考える必要はないといいます。

「難しく考えずに、まずは食卓でつくり手のことを想像してみてください。どんなところでつくられた食材を使っているのか、どのような工程で調理加工されているのか、どのような人がつくっているのか。その商品の背景にあるストーリーに興味を持ち、商品を選ぶ一つの基準にしてみてはいかがでしょうか。きっと、心も一緒に満たされると思いますよ」

緑に囲まれた環境で野菜の栽培が楽しめる

形を変えて広がり続ける
エシカルダイニング

ファームキャニングの商品は、びん詰め商品を集めた『エシカルダイニングセレクション』のブランドの一つとして、2023年から新宿中村屋で常設販売されています。
リリース:http://glassbottle.org/glassbottlenews/3786

「ファームキャニングを含め、手づくりで小さな規模で製造されている商品はなかなか大きな流通にのせることができません。新宿中村屋さんのようにまとまったロットをご注文いただくことで、安定的に生産者に還元できるようになりますし、小さな事業者を多くの方に認知してもらえる機会になります。
『エシカルダイニング』の取り組みの一つである『エシカルダイニングセレクション』では、地域の活性化につながる『Local』と、自然環境を改善し持続可能な方法を取り入れている『Regenerative』、伝統的な技術や文化に基づいている『Traditional』の3つの視点から、ガラスびん入り商品ブランドを紹介しています。これらの商品にはつくり手の想いがあり、ストーリーがあります。そうした想いをより多くの人に届けることができる『エシカルダイニングセレクション』は、生産者を支えられる大きな仕組みだと思っています」

VEGGIE BAGNA ニンジン、VEGGIE BAGNA ビーツ、香味オイル ニラ、
GREEN GREEN コマツナ、KINOKO CARNIVAL シイタケ

また、ファームキャニングでは新たな事業も展開しているといいます。

「びん詰めはとても有効な保存法ですが、それで処理しきれないほどの規格外野菜があります。それらを無駄にしないために、少しでも生産者に還元するために、ケータリングサービスも展開しています。ケータリングであれば、分量があらかじめわかっているのでロスが出る心配はありません。企業からサステナビリティに関するコンサルティングのご依頼も頻繁にあるのですが、こうした勉強会のブレイクタイムに、プラスチック容器のお弁当を食べてしまったらちょっと矛盾していまいますよね。規格外野菜を使ったケータリングであれば、食べることからも学べるのでご好評をいただいています」

今回、西村さんの話を伺って、商品を通してつくり手と消費者の心がつながることが、エシカル消費の根幹であると感じました。
畑を中心に活動の幅を広げている西村さん。日本ガラスびん協会はこれからも西村さんと協力して、『エシカルダイニング』の取り組みを広めていきたいと思います。

ファームキャニング合同会社 日村千恵

ファームキャニング合同会社
代表社員 西村千恵

・野菜の栽培、びん詰めを楽しむコミュニティ運営
・循環型農業の生産者から規格外で出荷できない野菜を仕入れ、野菜のびん詰めの製造販売
・上記野菜を使った”モッタイナイケータリング”
・企業向けサステナブルコンサルティング


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