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ガラスびんを使った売り場づくりからエシカル消費を考える

前回は生産者の立場であるファームキャニング様に、日々の食卓で生産者に想いを馳せ、商品の背景に興味を持つことがエシカル消費の第一歩であると教えていただきました。

ファームキャニング様のお話:https://note.com/binkyo_glass/n/n746332faabdf
 
そこで気になってくるのが、私たちの周りにあるエシカルな商品とはどのようなものか、という点です。
今回は、日本ガラスびん協会と一緒にさまざまな広報活動に取り組んでいただいている株式会社中村屋(以下、中村屋)の大谷雅広さんに、老舗企業が挑戦する、ガラスびんを通したエシカルな商品展開についてお話を伺ってきました。
 

新宿中村屋 Bonna/ボンナ内にあるびん詰め中村屋のコーナー

エシカル消費は生産者・消費者だけでは広がらない

中村屋と日本ガラスびん協会の関係は2018年頃までさかのぼります。日本の各地で活用されているガラスびんに触れ、実際に地元で働く看板娘を通して“ビンのビジンなところを知ってもらう”「びんむすめ」プロジェクトに参画していただいたことがきっかけです。
 
「私がソムリエということもあり、もともとガラスびんには親近感を抱いていました。中村屋ではお客様にご参加いただく食事会やワイン会を行っているのですが、日本ガラスびん協会さんとコラボすることでワインを楽しみながらガラスびんを学べる場にできれば、お客様にとっても環境について理解を深める良い機会になるのではないかと考えました。
実際に、ある食事会に簡単なガラスびんの勉強会を取り入れたところ、お客様の反応は上々で、皆さん『ガラスびんがこんなに環境に良いとは知らなかった』と非常に喜んでいただけました」
 
一方、私たち日本ガラスびん協会では、びん詰め商品の生産者を応援するためには、商品を消費者に届ける場所が必要だと考えていました。そうした中、日本ワインに力を入れている中村屋の大谷さんと出会いました。

びん詰め中村屋では日本全国のワインも数多く扱っている

「私は全国のワイナリーを巡っています。そうすると、昔ながらの製法やその土地ならではの素材を活かした商品をつくっている魅力的な生産者に出会うことがあります。また、日本ガラスびん協会さんとの出会いによって、各地域のびん詰め商品に一層興味を持つようになり、中村屋で扱えないかと考えるようになりました。そうして、2020年に誕生したのが『びん詰め中村屋』です」
 
びん詰め中村屋 リリース: http://glassbottle.org/glassbottlenews/3184
 
『びん詰め中村屋』は、私たち日本ガラスびん協会の想いと、大谷さんの『こだわりを持ち魅力的な生産者の商品をお客様に届けたい』という想いが一緒になり誕生した、セレクトブランドなのです。

温故知新
創業当時の精神をもう一度

「中村屋はレストランや販売店を手掛けておりますが、食品・菓子メーカーでもありますので、他社の商品を店頭で取り扱うことには多少なりとも抵抗がありました」
 
大谷さんは当初、セレクトブランド立ち上げに葛藤があったといいます。
 
「しかし、中村屋の歴史を調べていると、創業当時はお客様に良い商品をお届けするために、さまざまな他社商品を取り扱っていたことがわかりました。
また『びん詰め中村屋』は、新宿中村屋ビル地下にあるスイーツ&デリカ Bonna/ボンナ 新宿中村屋(以下、Bonna)で販売する予定でしたが、Bonnaの『安心安全で良質な素材をお客様にご提供する』というコンセプトにも合致していると考えました。そして、やるからには数種類ではなく、価値のあるものをしっかり取り揃えなければ意味がない、とセレクトブランド立ち上げを決断するとともに商品の選定を始めたのです」
 
大谷さんの決断と行動力により、『びん詰め中村屋』の立ち上げは一気に進み始めました。
 
「ソムリエという職業柄、ガラスびんはワイン(内容物)へ影響を与えないため、長期保存(熟成)に適しているなど、容器としての特性はある程度知っているつもりでした。しかし、勉強するほどに、ガラスびんについてまだまだ知らないことが多いと気づかされました。100%天然素材でできていること。だからこそ、万が一、川や海に廃棄されてしまっても砂に戻るだけで、環境や生態系に悪影響を及ぼさない。そして水平リサイクルできる。『こんなに優れた容器は他にはないな』と思いました。
さらに、バイヤー視点でも良い点がたくさんあると感じました。新宿は百貨店や専門店が非常に多いエリアです。そうした中でも、びん詰め商品に特化してエシカル消費を提案しているところはほとんど見かけません。容器という視点から社会や環境を考えるきっかけをご提案できる売り場として、大いに価値のある挑戦だと思いました」

ガラスびんという容器で選ぶエシカル消費に共感し、びん詰め中村屋を企画・展開させた大谷さん

商品を選ぶ際は
その背景も感じて欲しい

私たち日本ガラスびん協会は2023年1月から、“食卓から地域社会の活性化を目指す”取り組みとして、こだわりのびん詰め商品を集めた『エシカルダイニングセレクション』をスタートしました。全国から17ブランドを選定し、中村屋の『びん詰め中村屋』コーナーで販売しています。
 
エシカルダイニングセレクション
リリース:https://glassbottle.org/glassbottlenews/3786
 
 
エシカルダイニングセレクションでは、以下3点の基準でびん詰め商品を選定しています。
 
①地域の活性化につながる取り組みをもとに生産されている(Local)
②持続可能な生産現場でつくられている(Regenerative)
③伝統的な技術や文化にもとづいて生産されている(Traditional)
 
選定には、バイヤーである大谷さんとエシカルダイニングセレクションのブランドキュレーターであるファームキャニングの西村さんにご協力いただきました。
 
「全国には非常に多くのびん詰め商品があり、また添加物を使わずにつくられているものなど、こだわりの商品が多いことにも驚きました。中村屋には『インドカリー』という長い歴史を持つ商品があります。現代はさまざまな変化への対応が求められる時代であり、もちろん必要な変化には対応していきますが、『伝統的なつくり方』『決して変えない味』『想い』は私たちにとって譲れない部分であり、それが中村屋の『インドカリー』の存在価値だと思っています。
私たちと同じように、商品に並々ならぬこだわりを持つ生産者が全国にたくさんいるのだと知ることができたのは、嬉しい発見でした。背景にあるストーリーも含めて商品の味わいであり、選ぶ楽しみになると考えています」

エシカルダイニングセレクションの商品は作り手の想いも一緒に楽しんで欲しいと語る大谷さん

意識改革は売り場から始めるべき

「エシカル消費は消費者だけが取り組むのではなく、企業も取り組むべき課題だと考えています。エシカル消費は人や社会、環境に配慮して商品を選ぶ行動を指しますが、私は中村屋のサステナブル委員も務めていますので、特に環境面に注目しています。2050年にはプラスチックの生産量は現在の4倍になり、海洋プラスチックの量は海にいる魚を上回るとまでいわれています。廃棄物の削減、プラスチックの削減に取り組みつつ、水平リサイクル可能なガラスびんの活用という部分についてもBonna内で議論し、環境面を中心としてエシカル消費を後押しできる企業の形を模索しようと考えています」
 
「少しでもお客様にエシカル消費への関心を持っていただくためには、まずは売り場から変わる必要があります。私たち小売側がもっと環境への意識を強め、『いま本当に求められている商品か』『十分に価値をご提供できる商品か』を考えた売り場をつくることで、お客様の意識も変化していくのではないかと考えています」

びん詰めの商品は見た目も可愛く、若い人たちにも人気です

実現したいのはミールソリューション

「Bonnaが目指しているのはミールソリューション、つまりお客様中心の売り場づくりです。ミールソリューションは、お客様が欲しい商品、お客様のためになる商品をご提案することで実現できると考えています」
 
創業当時の精神をよみがえらせたともいえる『びん詰め中村屋』は、Bonnaの目標であるミールソリューションの実現を目指す舞台になっているといいます。
 
「ミールソリューションの実現には二つのポイントがあると考えています。

まず、お客様が欲しいと思うものがあるということ。もちろん、何でもあるという意味ではありません。売り場にはさまざまな年代の方がいらっしゃいますが、年齢に関係なく、多くの方が裏のラベルを確認されます。今の時代、多くの人が添加物の有無や産地など、価格だけでない基準を持って商品選びをしているのです。『びん詰め中村屋』コーナーで販売する『エシカルダイニングセレクション』は、商品の中身はもちろん、『容器で選ぶ』という新しい価値視点も提供しています。こうした試みはBonnaが目指すミールソリューションの一つになると思っています」

大谷さんはミールソリューションを実現するために、
今後も全国の生産者とのネットワークを強化していきたいといいます

「もう一つ大切なのは、欲しいものをご用意できるネットワークです。『エシカルダイニングセレクション』の選定では、ファームキャニングの西村さんをはじめ、全国の生産者とのつながりができました。
私たちBonnaで、お客様が欲するものをすべてつくるのは困難です。それよりも、Bonnaでつくれない分野は全国から良いものを探し集めて、自信をもってご提案する。その過程で、社会や環境に配慮したこだわりの商品をお客様にご紹介する機会をつくることができれば、それが私たちの存在価値になると思っています」

エシカルダイニングセレクションで特に人気の3商品

これからの抱負も伺いました。
 
「恥ずかしながら、日本ガラスびん協会さんと出会うまで『エシカル』という言葉を知りませんでした。パッケージについて考える機会もほとんどありませんでした。しかし、取り組んでみると思いの外、多くのお客様が『エシカル』という言葉に反応してくださいます。『エシカルダイニングセレクション』の取り組みを通して多くの発見があり、中村屋の環境経営を考える上でのヒントもいただいたと思っています。中村屋の一社員として、ソムリエとして、バイヤーとして、お客様に『やっぱり中村屋だね』と仰っていただけるような活動を、これからも日本ガラスびん協会さんと一緒にやっていけたらと思っています」
 
“食卓から地域社会の活性化を目指す”取り組みである『エシカルダイニングセレクション』は、日本ガラスびん協会だけの力では完結できません。生産者と小売と消費者、これらのネットワークを強固にしつつ、活動の輪を広げていくことが大切だと考えています。
 
今回の取材を通して、大谷さんの決断力、行動力にとても驚かされました。Bonna、そして『びん詰め中村屋』や『エシカルダイニングセレクション』の今後の発展がますます楽しみになりました。


今回のインタビューにお答えいただいた株式会社 中村屋の大谷雅広さん

株式会社 中村屋
直営店舗・EC営業部
大谷 雅広
 
・和菓子類、洋菓子類及びパン類の製造販売
・業務用の食材や市販用食品類及び調理缶類の製造販売
・レストラン事業


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