第8回「ナイチンゲール」を読む(後編)
ここで物語世界の構成をもういちど確認しておきましょう。宮廷の中の世界は皇帝の支配の下に置かれた人為的制度の領域で、廷臣や従者たちはその秩序に従って生きています。その支配を象徴する文明的な装置が、整然と設計された巨大庭園です。世界の諸物を集約し人びとに誇示するという、近世以後のヨーロッパにみられたコレクションの欲望を具現化したこの庭園は、皇帝の支配領域の広さを示す指標になっているのです。
ナイチンゲールの生きる森の世界は宮廷的秩序の外側に広がる自然の領域で、そこには漁民