万年筆はいいぞ 2【パイロット プレラ 色彩逢い F】

 二本目の万年筆を手にした時、[プラチナ万年筆 バランス]と出会って一ヶ月も経っていなかった。
 インクがぬらぬらはしる書き味に魅了されては、鉛筆もボールペンも手に取る気になれない。[バランス]は細字だがインクフローも良く、付属のカートリッジインク(黒)であっても筆跡に微かなインクの濃淡があり、己の字が普段より五割増で上手に見えた。
 趣味の小説執筆も、大学のレポートのアウトラインもすべて手書き派であったので、万年筆はごく自然に生活の一部となった。そして検索履歴は「万年筆 おすすめ」とか「万年筆 綺麗」とかで溢れていく。

 目に留まったのは【モンテベルデ/MONTEVERDE】のスケルトン(購入してはいないが、憧れたのは[アーティスタ クリスタル]だったと思われる)。
 万年筆といえば、黒い本体に金のニブという頭に衝撃がはしる。古典的万年筆と対にして、中のインクが見えるタイプを手にしたらさぞ素晴らしかろう。
 もう手の施しようがない。――思えば、ここが「万年筆沼」へと助走つけて飛び込んでいく瞬間であった。

 さて初陣とデパートへ赴き、大変な問題へ直面することになる。
 【モンテベルデ/MONTEVERDE】は販売されていたが、目当ての完全透明「クリア」カラーはなく、「ピンク」しか陳列されていない。そして試し書きするには、店員さんへお願いしてガラスケースから出してもらい、インクも準備してもらわねばならなかった。
 日本製と外国製では細字・Fでも書ける線の太さが違うという。試し書きせずに買う勇気はない。だが一対一で店員さんの手を煩わせて「やっぱりやめます」と断る勇気もない。不肖この鬢、和菓子屋で試食したら最後、羊羹一棹買ってしまうタイプである。ぐずぐずとガラスケース周辺を回遊していたところでそれを見つけた。

【パイロット プレラ 色彩逢い F】

 やや本体が短くコンパクトなつくり、頭冠と尾栓に色(クリアカラーなので透ける)がついているが、樹脂製の本体は透明。つまり中のインクが見える。この万年筆は「インキ色を楽しもう。」と謳われ、同社のインキ「色彩雫(いろしずく)」を用いることをおすすめされている。

 このため、「色彩雫(いろしずく)」が充填された試し書き用のペンがガラスケースの外に並べられており、店員さんに声をかけなくても全色分、好きなだけ試し書きができるようになっていた。

 これに私は飛びついた。外国製よりも日本製のほうがよさそうという未知のニブへの警戒、少し硬いからこそ画数の多い漢字も書きやすいニブ。そして価格は【モンテベルデ/MONTEVERDE】より二千円ほど安い。これは大きかった。

 【モンテベルデ/MONTEVERDE】の購入ハードルが目に見えて上がっていたこともあり、試し書きも終わらないうちから購入を決めてしまっていた。色はピンク、ニブはF(細字)、ついでにインキ「色彩雫(いろしずく)」シリーズの「山葡萄」とコンバーターも購入し、ほくほく顔で帰路についた。

 なおここで購入した「山葡萄」が「インク沼」へのロイター板でもあったのだが、それは別の話である。


【パイロット プレラ 色彩逢い F】

 カートリッジ式。別売りのコンバータも装着可能。ニブは特殊合金であまりしならない。1で紹介したプラチナのバランスが、鉄ペンでも比較的しなってやわらかい書き味なのに対して、こちらはカリカリと精密に細い文字が書ける。スケルトンな見た目に銀色のニブ、クリップも銀色で、スタイリッシュで爽やか。

 本体が小さく(私の手では)長時間の筆記には適さないため、明るめの色インクを入れて赤ペンのような役割をしてもらっています。

 ちなみに、当時私があまりにも万年筆万年筆と暴れまわる(万年筆全般への憧れが強すぎて、どれが欲しいとかではなく「万年筆」と鳴いていないと精神の平穏を保てなかった)ため、親が購入資金の一部を援助してくれました。最初に手に入れた万年筆は買ったものではなかったので、これが初めて親にプレゼントしてもらったに等しい万年筆となりました。感慨深いです。

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