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シュート25万本のデータを見てみて感じたディープスリーの可能性

こんにちは!
普段は impactmetrics.jp というウェブサイトでインパクトメトリクスをはじめ、様々なバスケットボールに関するアドバンススタッツを紹介しています。今回、初めてnoteに投稿します。今日は、Bリーグのシュート25万本のデータを見てわかったこと・思ったことを紹介できればと思っています。また、今後も140字では書ききれないような分析はこちらで投稿していこうかなと考えてます。

今回のデータ分析は、こちらのYouTube動画からインスピレーションを受けて行ったものです。 作成しているプロット等は、動画の中で扱われているものをBリーグのデータに置き換えて作成したものが中心になります。
元の動画ではNBAの過去24年分、400万本を超える数のシュートのデータを分析されているので、是非こちらの動画もご覧ください!

Bリーグでは2022-23シーズンからショットチャートが公式のボックススコアページに公開され、今回の分析にはそのデータを使用しました。期間は2022-23シーズン開幕から2024年2月18日までで、B1/B2両リーグの約25万本のショットアテンプトを対象としています。

ゴールからの距離とシュートの確率

早速本題に入っていきましょう。まずはシュートの距離と、距離毎の確率を元動画と同じように図に表現していきます。 ここでは、横軸がセンチメートル単位での距離、縦軸が確率となっていて、各点は10cm間隔のシュート確率を表しています。

ゴール付近では7割を超える高い確率のシュートですが、そこから約2mの地点まで直線を描くように確率が下がっていく様子が読み取れます。2mの地点を過ぎると傾きが緩くなり、そこからは約8mの地点まで確率が30%台の地点が続きます。

スリーポイントラインが6.75m地点となるので、8mを過ぎたシュートはディープスリーといわれる部類に入ってくるシュートになります (参考: 昨年11月11日の沖縄アリーナ、4Q残り30秒で岸本選手が決めた「ココナッツスリー」は約7.7mでした) 。8mを超えるディープスリーは総アテンプトも少ないので、きれいなカーブではなくまばらなプロットになっています。

また、元動画でも「リングに近すぎるシュート」は少し離れたシュートよりも確率がわずかに低かったと紹介されていましたが、Bリーグのデータでも同じような結果となりました。

ゴールからの距離とシュート1本の期待値

この図は、先程の図の確率に、2ポイントは2倍、3ポイントは3倍をしてシュート1本の得点期待値 (Points per Shot, PPS) をとった図になります。主に変わったところはスリーポイントのところで、6.75mを過ぎたところで得点期待値が跳ね上がる様子が見られます (直前の6.6m~6.75mの区間は、コーナースリーとロングツーが混在している区間のため期待値も間になっています) 。

この図から、3つ感じたことがありました。

  1. スリーポイントラインのすぐ後ろで打つシュートは、平均してリングから1.5m程の距離と同等の得点期待値がある
    バスケではステフィン・カリーの登場から「スリーポイントの時代」と言われるようになりましたが、ミッドレンジ(図で言う2m~6mの区間で得点期待値が0.7~0.8程度)のアテンプトが減り、スリーポイント(得点期待値が1.0を少し超える)のアテンプトが増えているのはこのような背景があることがわかります。

  2. スリーポイントの期待値が高くても、リング付近1.5m以内のシュートはそれよりもさらに高い期待値である
    この中にはファストブレイクのダンクなどの物凄く期待値が高いものも含まれていますが、レイアップやダンクが得点期待値のかなり高いシュートであることに間違いはなさそうです。また参考までに、同じ期間のフリースロー成功率は71.84%となり、2本打つと得点期待値は約1.44となるので、フリースローもレイアップやダンク同等の期待値があるといえるでしょう。

  3. スリーポイントラインから2メートル以上離れた位置で放たれるディープスリーでも、ミッドレンジシュートを上回る得点期待値がある
    ディープスリーは高い技術と自信を持つプレーヤーによってアテンプトがされる傾向がありそうなので、セレクションバイアスの可能性は十分に考えられます。しかし、それを考慮しても、予想外の高い期待値となっていることは驚きです。

2つ目までは、ミッドレンジのシュートを極限まで減らし、リング付近・フリースロー・スリーポイントの得点期待値が高いシュートを中心に組み立てられたヒューストンロケッツの「モーリーボール」が取り上げれる際によく言われていたことですが、3つ目は正直驚きでした。


次の図では3つの区間の異なるトレンドを見ていきます。1つ目は先程の確率の図でも見られた、リングから2m程までの区間。2つ目の区間が2m程の地点からスリーポイントラインまでの平らに見える区間。3つ目がスリーポイントライン以降の区間です。

各区間の直線の傾きを計算すると、リング付近では1m遠ざかる毎に0.33点得点期待値が下がり、それがミッドレンジだと1m毎に0.03点、スリーポイントラインより後ろだと1m毎に0.14点という結果になりました。

特に最後のスリーポイントに関しては、ラインちょうど(6.75m)で打つのと、ラインより1m離れて打つ(先のココナッツスリーの例がちょうど7.7m程)では期待値が0.14点しか変わらないという計算になるのはここでも意外でした。

ゴールからの距離とシュートの量

最後に、今回分析に使用した約25万本のシュートがどこからきているのかを見るべく、各区間のアテンプト数のヒストグラムを作成して重ねてみました。

期待値の低いミッドレンジのアテンプト数は、やはり全体的にみると低くなっていて、リング付近とスリーポイントに集中している印象を受けます。中でもスリーポイントラインから50cmあたりのアテンプトが一番多いという結果になっています。

これを見て、「リング付近が一番効率が良いならリング付近でもっと打てばいいじゃないか」と思われるかもしれません。これは正しい意見だと思いますが、ディフェンスとしても相手に一番効率が良いシュートは打たせたくないので、リング付近ではビッグマンのヘルプディフェンス等を使ってアテンプトを阻止しようとするでしょう。なのでリング付近のアテンプトは多いことに越したことはないですが、そう簡単に増やせるところではないと思いました。

この図を見て一番可能性を感じたのはディープスリーです。スリーポイントライン付近のシュートは全ショットアテンプトの中で一番多いのにも関わらず、少し遠ざかると急激にアテンプトが減少しています。リングから8mの距離まで後退するとアテンプト数は2m強の地点と同等まで減少していますが、期待値を見ると2m強の地点よりもこの8mのディープスリーが0.2点程高いという結果になっています。

このことから、もう少しこの7.5~8.5mの区間からのアテンプトがあってもいいのかなと思いました。もちろんこの距離のスリーポイントは全員に打てるものではありませんし、ゴールからの角度によってはこれだけ下がれない場所もあります。スリーポイントラインがFIBAルールよりも遠いNBAのスリーポイントラインも23フィート9インチ(7.24m)なので、これよりも50cm~1m程遠い距離のシュートということになります。ただ、この距離を自信持って打てる選手については、アテンプトを増やしていっていいシュートという風に感じます。また、もしもこの長い距離のシュートを止めるべくディフェンスが外に外に出てくる場合、反対に今度は中が空くといったスペーシングへの効果も見込めるでしょう。

最後に

今回の分析では、コート内でのエリアや、そのシュートが「アシストされているか」等の文脈を無視して距離のみを見ているため、この結果をもってディープスリーのアテンプトを増やすという選択をするのは難しいかもしれません。ただ、スリーポイントラインから1m以上下がったディープスリーでも得点期待値はある程度キープされるという興味深い結果になったため、可能性は見出せたのではないかなと考えています。
このあたりは今後も違うアプローチで分析していく必要がありそうです。

以上、長文になってしまいましたが、最後まで読んでくださった方がもしいましたら、ありがとうございました!
他にもこのようなデータに興味のある方は、シュート関連のデータも impactmetrics.jp では見られますので、是非ご覧ください。また、Xの方でも様々なデータの紹介を行っておりますので、こちらもフォローをお願いします!


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