見出し画像

鳥取城跡と巻石垣

はじめに

 弊社の測量技術のPRと地域貢献を目的に、鳥取県内唯一の日本百名城であり、国指定史跡でもある「鳥取城跡」の3次元測量をさせて頂きました。
 今回は、その測量結果シリーズ第1弾として、「巻石垣」についてスポットライトを当てたいと思います。

巻石垣ってなに?

 鳥取城跡天球丸の『巻石垣』は、石垣の崩落を防ぐことを目的に江戸時代の終わり頃に築き足されたものです。このように角を持たない球面の石積は治水工事などに用いられる技法ですが、城郭の石垣においては 国内唯一の大変珍しいものです。
 過去の資料によりますと文政12年(1829年)には実在していたと考えられ、第二次世界大戦中(1943年)に発生した鳥取大地震などにより損傷したとのことで、現在は2012年に復元されたものを見ることができます。
史跡鳥取城跡天球丸『巻石垣』(復元)について|鳥取市 (tottori.lg.jp)

測量結果

・巻石垣周辺の3次元データ

 測量結果として、3次元データの作成を行いました。以下のリンク(SketchFab)でテクスチャ付きメッシュデータを見ることができます。
 VRゴーグルを使って見ると、その場に行ったかような臨場感がありますのでおすすめします。
 ちなみに、このデータは容量制限のために随分圧縮(間引き)しております。圧縮前の生データはもっと高精細ですよ。

圧縮前の生データ、巻石垣頂部拡大。
石の質感が分かるぐらいに高精細です。

・測量方法

 今回の測量は、将来的な災害等により石垣が損傷した場合に、復旧前の形状を示す基礎データ収集という目的がありましたので、比較的広い範囲を対象に実施しました。範囲が広いということで、測量はUAV(無人航空機、最近はドローンとも言います)を用いて実施しました。
 測量手法は2つで、UAVレーザ測量とUAV写真点群測量。上のテクスチャ付きメッシュデータは、写真点群測量によるものです。
 地上に基準点を配置し、補正および精度検証を行っています。

・分析

 鳥取城跡天球丸巻石垣付近の等高線図を作成しました。
 巻石垣の頂部中心点の座標(世界測地系5系)は X=-54670.704m、Y=-8476.199m でした。緯度経度に換算すると 東経35°30'25.86040"、北緯134°14'23.61418" 頂部標高は T.P.+45.67m 

 上部石垣の肩ラインに直交する中心断面(A-A断面)を作成すると、頂部付近はきれいな円曲線に近似できました。腰部分は直線に近い形状で、標高42m(等高線図の橙色線)付近を境に勾配が変化していることがわかります。
 上部石垣の肩ラインに平行な中心断面(B-B断面)を作成すると、頂部付近の曲線半径がA-A断面に比べて小さく、少し尖っていることがわかります。中腹部分はなだらかな曲線状で、複合円に近い形状となっています。
上部の球状の部分(等高線図の青っぽい部分、断面図の破線より上の領域)の高さは6.8m、体積は201立米となっています。

巻石垣周辺の等高線図(主曲線:赤:1m刻み、計曲線:緑:0.1m刻み)
①球体頂部付近の等高線図心より中心点を設定
②中心点を通り上部石垣の肩ラインに直交するA-A断面を設定
③中心点を通り上部石垣の肩ラインに平行のB-B断面を設定
標高42mの主曲線を橙色に着色しています。
中心点を通る断面と近似線

もうひとつの巻石垣

・曹源寺の巻石垣

 城郭においては非常に珍しい巻石垣ですが、実は鳥取藩領内の曹源寺(鳥取県三朝町曹源寺)の山門部に、天球丸のものに似た巻石垣があります。
 
 こちらの測量も行いまして、3次元データの作成を行いました。以下のリンク(SketchFab)でテクスチャ付きメッシュデータを見ることができます。

こちらは範囲が狭いため圧縮なし。鳥取城跡に比べて撮影枚数はかなり少なめですが
拡大すると石の質感が伝わるデータとなっています。


・測量方法

 曹源寺の巻石垣は比較的規模が小さかったため、地上レーザ測量と地上写真測量(通常のデジカメによる静止画を利用したもの)を行いました。
 地上レーザ測量は据置き型機器による点群測量で、非常に精度が良いことが知られていますので、写真測量との比較検証も行いました。
 結果は良好。両データの誤差は最大で18mm,比率0.5%程度でした。今回使用したデジカメは本当にそこらへんにある現場用のデジカメだったのですが、熟練者が仕事をすると良い精度のものが作成できます。

地上レーザ測量と動画による写真測量の比較


~地上レーザ測量について~

 地上レーザ測量は据置き型の機器から発射したレーザー光線の反射時間から各方向の地物の位置を推定するもので、測定距離を短く,測定間隔(測角)を密にするほど高精度の点群データが得られます。植生等の遮蔽物があってもレーザー光が通れば反射した位置形状の点群データが得られますが、点群データは点の集まりのデータであるため、十分な密度がないと形状を特定しにくいという特徴がありますので、測定の目的や現地状況に応じた作業計画が重要になります。

曹源寺巻石垣付近の地上レーザー測量による点群データ
巻石垣部分の点密度は十分に高いため、写真測量に劣らない
リアルな表現になり地物の位置形状の特定が可能です

~地上写真測量について~
 写真測量は撮影写真と現地に設置した補正基準点をもとに、写真の撮影位置と撮影写真内の特徴点の位置座標を推定してモデルを作成するものです。原理上見た目のよいモデルを作成できますが、補正基準点から離れるにしたがって歪み等の誤差が累積していきます。また、写真どうしの写り方の違いをもとにモデル化を行っているため、視差のある複数の写真に映らないものはモデル化できません。
 このことから、植生等の遮蔽物や影により奥が見えない場合に弱いという特徴があります。また、自動車や強風時の木など動くものが多くあると補正が難しくなります。

・分析

 山門の出隅角の座標(下図黄丸、世界測地系5系)は X=-73435.927m、Y=-45298.952m でした。緯度経度に換算すると 東経35°20'13.34711"、北緯133°50'06.05239" 頂部標高は T.P.+221.9m
 高さは3.54mで鳥取城跡の巻石垣の約半分です。
 鳥取城跡の巻石垣との測地線長(地球の丸みを考慮した最短距離)は 41.332km、標高差は176mで、マラソンで走る距離より少し短いです。

 曹源寺の巻石垣は、直線部の石垣より前に出た山門部の出隅を巻く形状の石垣で、通常の石垣において出隅に用いられる隅石がなく、平面的にも断面的にも凸形の曲線状が採用されています。
 河川護岸に古くから用いられる『巻天端』『巻込止』の技法に類似していますが、鳥取城跡天球丸の巻石垣のように球形になるまでは盛り上げていませんので、意匠的には控えめな印象となっています。

曹源寺の巻石垣付近の等高線図
曹源寺の巻石垣の断面図
B-B断面では円形に近似できるが、
A-A断面は円形というわけではない

・『巻天端』『巻込止』について

 巻天端、巻込止は河川護岸において古くから用いられていた技法で、河川内で水の勢いを制する『水制(すいせい)』や、護岸を地山などにすりつける際に用いられます。
 これらは現代の河川においても景観保全に資する護岸工法として用いられており、『河川の景観形成に資する 石積み構造物の整備に関する資料 』に詳しく説明されています。

https://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/kankyo/stone-structure/s-1.pdf

巻天端の説明(P4より)
巻込止の説明(P5より)

さいごに

 今回は、巻石垣にスポットライトを当てながら、様々な3次元測量についてご紹介させていただきました。
 当社では普段、公共測量や応用測量、地籍測量などの業務を行っていますが、最近使用する測量機器・ソフトウェアは非常に高性能なものとなっており、様々な分野に応用できる可能性を秘めています。今回は歴史的景観の保全やPRに活用できるデータの例として紹介させていただきました。
 このような取組に興味のある方がおられましたら、ぜひご連絡ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?