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【MLB】サラリーフロア導入を真剣に考えてみる

現地2月15日、MLBのロブ・マンフレッドコミッショナーが2029年限りで退任する意向を示したと報道されました。

彼がコミッショナーに就任して以降、MLBは申告敬遠や大谷ルール、ピッチクロックなどを導入してきました。"We Play Loud"のスローガンに代表されるように、MLB機構はより刺激的な試合を作り上げることで、野球人気を取り戻そうとしていたように感じます。

マンフレッドの急進的な改革は賛否が分かれるところですよね。私は彼がコミッショナーに就任する以前のMLBはまともに見たことがないので、あまり下手なことはいえないのですが、「野球人気を取り戻したいのなら、制度面からもう少しできることあるやろ」とは常々思っています。

それはサラリーフロアの導入です。

サラリーフロアとは、「チームの総年俸は最低でも〇〇円は使いなさい」と定めるものです。サラリー(総年俸)のフロア(床=最低限)を規定しているわけですね。現在、おそらく全スポーツリーグで最も厳格な戦力均衡を掲げているNFLが採用しています。これにより、どのチームも一定の資金を戦力補強に回す必要性が生まれるため、より白熱した争いを期待することができます。

マンフレッドは利益第一主義の立場から基本的にオーナーを擁護する姿勢を見せているため、現実的には彼の退任まで実現される可能性は低いでしょうが、私はMLBへのサラリーフロア導入はとある理由から実施すべきだと考えています。それはMLBの収益分配制度リーグ構造です。

MLBファンの方であれば、既に収益分配制度についてご存知かもしれませんが、一応説明させていただきます。収益分配制度とは、①MLB各球団が上げた収益の一部をMLB機構が徴収し、②それを各球団に再分配する制度です。絵にするとこんな感じです↓

↓↓↓

これにより、スモールマーケットチームも一定の収入を得ることができるため、それを戦力補強に回せば、ビッグマーケットチームへの戦力集中を防ぐことができます。

そう。ただ「戦力補強に回せば」なんですよね。現行制度上、各球団は戦力補強の努力を怠っていても分配金を受け取れてしまいます。それに加えて、選手への投資を規制する制度は贅沢税のみで、しかもその贅沢税はあくまでキャップ(天井=最大限)を定めるものです。戦力補強の努力を怠っている球団に対するものではなく、むしろ積極的な補強に動いている球団を規制する趣旨で作られています。

身近な例で考えてみましょうか。MLB機構を政府、球団を国民として考えてみます。現在のMLBの状況は、政府が全国民の給与所得を吸い上げる代わりに、一定額を無条件で支給している感じでしょうか。これは社会主義計画経済と似た構造をしていますよね。大した努力をしなくとも、生活を維持するだけのお金を手にすることができるのであれば、他人が稼ぎだしたお金を懐に溜めて堕落した生活を送ってしまいそうです。

ただもし政府が、支給額のうち一定割合は必ず指定期間内に、かつ指定用途に投資しなさいと強制してきたらどうでしょうか。そう、これこそサラリーフロアです。その投資が効率的なものになるかは疑問符がつきますが、投資が促されれば経済は幾分か成長しそうですよね。

MLBは収益分配という自由主義市場経済から逸脱したキャッシュイン管理制度を採用している以上、キャッシュアウトについても厳格なルールを設けなければどこかしらのタイミングで綻びが生じかねません。幸いスティーブ・コーエンやピーター・サイドラーといった野球大好きおじちゃんのおかげで、MLB全体で見れば選手への投資はある程度維持されているように見受けられますが、同時にオーナーの過度な倹約に悩まされているチームが複数あることも事実です。2月初旬に書いたnoteでも少し取り上げましたが、積極的な補強を見せなければファンはチームからどんどん離れていってしまいます。

また、MLBというリーグの構造上、収益分配金を戦力補強に充てるインセンティブが生じにくいのも大きな問題点です。MLBには欧州サッカーリーグが採用しているような昇格・降格制度が存在しません。上位リーグから下位リーグへの降格に際して、テレビ放映権収入、スポンサー収入、観客動員数が減少し、それに伴って収益の減少も予想される場合であれば、それを防ごうと戦力補強に資金を回すかもしれませんが、現行制度では飲んで食って寝ているだけでMLBに留まり分配金を受け取れますので、そりゃ自堕落生活まっしぐらです。

Instagramフォロワー数・プレミアリーグ1部と2部の比較

以上、収益分配制度とリーグ構造の観点からサラリーフロアについて議論してみましたが、その導入に対する反対意見として見たことがあるのは「世界的に有名なチームが生まれにくい」というものです。サラリーフロアの導入→戦力が均衡する→特定のチームが王朝を築きづらい→世界的な知名度を持つチームが生まれない、というロジックですね。確かにMLBやNFLで誰もが知っているような圧倒的なブランド力を有するチームはないと言って良いでしょう。せいぜいヤンキースやドジャースのキャップロゴは見たことあるよ程度だと思います。レアル・マドリードやマンチェスター・ユナイテッドのようなサッカークラブと比較すると、その差は歴然です。

もはやグラフとは呼べない

ただ、MLBやNFLと同じように戦力均衡をリーグの理念として採用しているNBAは、欧州サッカーに負けずとも劣らない人気を博しています。チームのフォロワー数ではさすがに差はありますが、リーグのフォロワー数では全く引けを取っていません。

数字はすべて2月20日時点

このような状況を考慮すると、人気の隔たりを戦力均衡のみの視点から捉えてしまえば儚い議論になりかねません。スポーツの人気格差を論ずるならば、第一にスポーツの構造を見ていく必要があると思います。

他にもサラリーフロア導入に伴うデメリットを考えてみたのですが、正直あまり思いつかないんですよね。せいぜい球団に赤字経営を強制しかねないという点なのですが、そもそもサラリーフロアごときで危うい財務状況を招くような人に球団を持たせるなよと思ったり思わなかったり。さすがに視野が狭くなっている感じがするので、私の主張には何か重大な欠落があるような気がしないでもないですが、ひとまず本noteではサラリーフロア導入に関してよく言われていることをまとめてみました。現地のMLBファンの中で「サラリーフロアを導入しろ」と主張している方はあまり見たことがないので、日本からその機運を高めていきましょう()。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

【Photos】
・Commissioner Rob Manfred conducts his annual -ASG Town Hall at -FanFest (28342735251) by Arturo Pardavila III CC表示-継承2.0
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Commissioner_Rob_Manfred_conducts_his_annual_-ASG_Town_Hall_at_-FanFest_(28342735251).jpg#/media/File:Commissioner_Rob_Manfred_conducts_his_annual_-ASG_Town_Hall_at_-FanFest_(28342735251).jpg
・フリー素材はイラストセンター(https://illustcenter.com)より

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