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【MLB】地区再編は必要なのか

2023年のMLB、みなさんはこの衝撃の画像をご覧になったことがあるでしょうか?

6/27の順位表

はい。なんとアメリカンリーグ中地区から勝率.500を超えるチームが消えてしまったために、当時東地区首位だったタンパベイ・レイズから中地区最下位のカンザスシティ・ロイヤルズまで綺麗に勝率順で並んでしまうという珍事件が起きたのです。

シーズン最終成績

最終的にミネソタ・ツインズが87勝したため、勝率.500未満の地区優勝とはなりませんでしたが、88勝をあげたシアトル・マリナーズがワイルド・カードでのプレーオフ進出を逃し、87勝のツインズが地区優勝でプレーオフ出れちゃうのはどうなん?と正直思いました。

個人的な印象として2021年、2022年頃から地区格差について議論されているのをよく見かけますし、また2023年開幕前にMLB公式が「Who will win the AL Central?」と投稿した際には、ファンから↓のようなコラ画像でリプライされる始末。

キツい言い方になってしまいますが、ここ数年の成績を見れば、アメリカン・リーグ中地区がレベルの低い地区と言われてしまうのは致し方ないのかもしれません。2023年から全球団が対戦するようにスケジュールが組まれたことで、よりその戦力差が顕著に表れてしまったのでしょう。

しかしここ数年の成績を見ただけでは短絡的な議論になりかねませんよね。MLB球団は再建とコンテンドを繰り返しますし、オーナーやフロントオフィスの交代によりチーム方針がガラッと変わることだってあります。またここ10年のスパンで見ると、スモール・ベースボールで悲願のWS制覇までたどり着いた2015年のカンザスシティ・ロイヤルズ、リンドーアラミレスバウアーといった若きスターを擁した2016年クリーブランド・インディアンズ(当時)、史上最多のチームHR数を記録した2019年のミネソタ・ツインズなど、アメリカン・リーグ中地区には非常に魅力的なチームが多数存在しています。

ということで2013年から2022年の10年間を対象とし、①成績(勝率)②経済力(球団価値・総年俸・都市圏人口)③人気(観客動員数・Instagramフォロワー数)④遠征距離の四つの観点から地区の格差について議論してみたいと思います。なお基本的に各項目は地区内5球団が2013年から2022年の間に残した数値の平均をとっていますが、勝率は10年間合計の勝敗から算出し、都市圏人口は2020年国勢調査、Instagramフォロワー数は2024年2月4日時点のものを使用しています。

とりあえず集計結果を載せておきます↓

全然真面目に見なくて良いやつ

辛気くさい表だけだとわかりづらいと思うので、グラフを使ってみたいと思います。まずは成績を比較したいので、勝率のグラフを見てみましょう。

えらく差が強調されるグラフになってしまった

これを見ると、アメリカン・リーグ中地区の勝率の低さが目立っています。あと意外とナショナル・リーグ東地区も伸び悩んでるんですよね。まあここから数年間はブレーブス、メッツ、フィリーズがコンテンドし続けると思うので、それに伴って地区全体の勝率も向上しそうですが。

それからアメリカン・リーグ東地区の強さには目を見張るものがあります。ヤンキースとレッドソックスがこの地区を引っ張っているのは言うまでもありませんが、他にも世界最強の貧乏球団レイズ、時々爆発的に強くなるオリオールズ、カナダ全体の後押しを受けるブルージェイズを擁していますので、”魔境”と呼ばれるのも納得です。

続いて各地区の経済力を比較してみましょう。球団価値、総年俸、都市圏人口のグラフを作ってみました。

君だけタイトルの文字サイズでかいな

これらのグラフを見ても、アメリカン・リーグ中地区の厳しい立ち位置に目がいってしまいます。さらにナショナル・リーグ中地区も低い水準に留まっていることもわかりますね。やはりどうしても東海岸、西海岸の球団に比べ、五大湖周辺の地域がスモールマーケットであることは否めません。アメリカ全体で見たら超絶ビッグマーケットだとは思うんですが。

あと勝率で他の地区を圧倒していたアメリカン・リーグ東地区が、都市圏人口ではナショナル・リーグ東地区に、総年俸ではナショナル・リーグ西地区にそれぞれ1位を譲っていたのが意外でした。

ナショナル・リーグ東地区の球団が本拠地を構える都市圏は、いずれも600万人以上の人口を誇っているのですが、これに対してアメリカン・リーグ東地区はボルティモア、タンパ(セントピーターズバーグ)という300万人規模の都市圏を二つ擁していますので、ここで差がついたのかなと。

また総年俸に関しては、ドジャースのマーク・ウォルター、パドレスのピーター・サイドラーといった「金は出すが口は出さない」系オーナーの存在がアメリカン・リーグ東地区の1位を阻んだと考えられます。

では各地区の人気はどうなっているのでしょうか。そろそろ見飽きたかもしれませんがこれも縦棒グラフで比較してみます。

ナショナル・リーグ西地区が観客動員数で1位、Instagramフォロワー数で2位になっていますね。

確か2022年頃までInstagram のフォロワー数1位はヤンキースだったと記憶しているのですが、最新のデータではドジャースがヤンキースを上回っており、西地区の人気を牽引しています。さらに意外や意外コロラド・ロッキーズも、本拠地デンバーから半径800km圏内に競合球団がいないため、観客動員数でこの地区を下支えしているんですよね。

それからふと気づいたんですけどInstagramフォロワー数のグラフがほとんど総年俸のグラフと同じ形をしていますね。当たり前のことかもしれませんが、お金を使えばそれだけ注目される、ファンがついてくるということなんでしょう。2020年から2023年のパドレスによる巨額投資とそれに伴う観客動員数の増加はそれを象徴しているように思えます。

では最後に遠征距離を比較してみましょう。

これ10年分のデータとる必要あったか…?

両リーグの中地区はめちゃくちゃ遠征距離が短いんですよね。よほどの飛行機絵文字好きでない限り、移動は少ない方が良いと思うのですが、その点中地区は移動嫌いな選手にとっては天国かもしれません。五大湖周辺に集中する立地は、マーケット規模からいえばポジティブなことではありませんでしたが、遠征距離の観点からは良い方向に働いています。

一方アメリカン・リーグ西地区は…なかなかハードですね。あと少しで40,000マイルに届いてしまいそうです。オオタニサンよくこんな地区で二刀流とかやってたな。

以上で①成績②経済力③人気④遠征距離の四つの観点からの考察は終わりました。順位と色をつけて改めてまとめてみたいと思います。

各項目の順位表

うーん。他のスポーツリーグと比較はしていないので印象論でしかないのですが、やっぱり地区間で均衡はとれていないように見えます。特にアメリカン・リーグ中地区にはなんらかのテコ入れが必要な気がします。

何より問題なのは地区間で格差が生まれることで、本来プレーオフに進出できるだけの成績を残したチームが進出を阻まれてしまう可能性が生まれることです。先述した88勝でプレーオフを逃したマリナーズと87勝でプレーオフに進出したツインズは良い例です。

さらに言えば、2023年から全球団同士で対戦させ、戦力差がより顕著に出るようなフォーマットに変更したにも関わらず、地区優勝をプレーオフ進出のステータスとして認め続けるのは整合性がとれていないように感じます。地区優勝をプレーオフ進出の条件にするのであれば、より同地区内での対戦を増やすべきです。

なので「本来プレーオフ進出に足る勝率を残したチームが進出できなくなる」という問題の解決のためには、①同地区との対戦を増やす②地区制は維持しつつ、地区優勝をプレーオフ進出の条件とせず、リーグ内での勝率が高いチーム順にプレーオフ進出を認める③地区制を完全に廃止し、リーグ内での勝率が高いチーム順にプレーオフ進出を認める、という三つの方法が考えられます。

しかし①の方法はまだ良いにしても、②③は既存のライバル関係に悪影響を及ぼしかねません。ヤンキース対レッドソックス、ドジャース対ジャイアンツ、カブス対カーディナルスなど、MLBの人気を長年支えてきた対戦が減ってしまうのは、地区格差の是正から得られる利益よりも大きな損失をもたらしてしまうのではないでしょうか。

また地区戦力を均衡させるという観点からは、NFLが採用しているサラリーフロアをMLBに導入することも考えられます。サラリーフロアとは「総年俸は最低でも〇〇円使いなさい」と定めるものです。これにより総年俸を低く抑えている中地区のオーナーたちは、強制的に選手への投資を求められることになるため、チームが強化され、結果的に地区格差が是正される可能性があります。

しかし仮にサラリーフロアが導入されたとしても、ヤンキースやメッツ、ドジャースといったビッグマーケットチームがサラリーフロア基準額に比例して投資を増加させてしまえば格差は是正されません。なのでサラリーフロアを導入する場合、贅沢税よりも厳格な制度であるサラリーキャップ(総年俸の上限額を定める制度)の導入もあわせて行うべきでしょう。

ただサラリーキャップとサラリーフロアは徹底した戦力均衡策があって初めて成立するものだと思います。これら二つの制度を採用するNFLは、総年俸以外にもスカウティング分野にまで均衡を求めています。当然MLBも戦力均衡を掲げているため、導入できないわけではないでしょうが、NFLと比べて緩さが目立ちますし、同じ北米スポーツとはいえ他のリーグの戦力均衡策をそのままMLBに持ち込むにはそれなりの改革が伴います。

そもそも2021年〜2022年のロックアウト期間中にあれだけ贅沢税周りで選手会とオーナー側の意見が対立していた様子を見ると、サラリーフロアの導入にはかなりのハードルを感じます。

なので現行制度に修正を加えるのであれば、エクスパンション(球団拡張)が現実的でしょうか。現状、MLB球団を有していても不思議でない都市はいくつも存在します。例えばオレゴン州ポートランド、ノースカロライナ州シャーロットなどです。

特に現状は両リーグ西地区の遠征距離が他の地区と比べて格段に多いので、すでにNBAチームを有するポートランドとシャーロットに球団を拡張し、西地区の負担を軽減することは大いに考えられます。

その場合、MLBは32球団制となるため、必然的に地区再編に迫られることになります。つまりエクスパンションは地区格差を是正するチャンスともとることができるのです。

試しに32球団制となったMLBの地区を都市圏人口と立地の観点から再編してみました。

アスレチックスの本拠地はオークランドとして作成(抗議の意思)
これ作るのすごい楽しかった

なんか意外と良い感じになりました。平均都市圏人口は最大で7,529,479人、最小で4,519,685人、周遊距離は最大で2,615マイル、最小で1,609マイルとなっています。30球団制の場合、平均都市圏人口の最大値が8,969,733人、最小値が3,710,226人、周遊距離の最大値が5,036マイル、最小値が1,564マイルとなっていましたので、伝統的なライバル対戦を地区内に残しつつ、かなりばらつきを抑えられたのではないでしょうか(自画自賛)。

最大値と最小値の比較

もちろんエクスパンションに懸念がないわけではありません。特にアスレチックスの移転問題であれだけゴタついている中で、エクスパンションを円滑に実行できる器量が現在のMLB機構にあるのかは疑問符がつきます。

ただ↑のようなエクスパンションが実施されることにより、メジャー選手登録枠が単純に2球団分広がることになります。今まで手が届かなかった、あるいは注目されていなかった選手がメジャーリーガーになるチャンスを掴むことができるかもしれません。また一般的に球団創設初年度は大きな注目を集めるため、先行投資が必要にはなりますが、MLB全体の収益が向上する可能性もあります。これらは地区格差の是正を議論の対象とする本noteでは副次的な効果にすぎませんが、エクスパンションは選手側にとってもオーナー側にとっても悪い話ではないような気がします。

何より、エクスパンションに伴う地区再編により格差が是正されればそりゃもう最高です。そう何もかも上手くいくものではないでしょうが。

話がとっ散らかり始めたのでここでしっかりまとめたいと思います。

現在、一応発生が認められる地区の格差問題に対する解決策として、
・プレーオフ進出条件を変更する
・より厳格な戦力均衡策を導入する
・エクスパンション
という三つの方法が考えられる。どれもメリット・デメリットが存在するが、筆者はわりとエクスパンション賛成寄り。


とりあえずこんな感じですかね。いずれにせよ、MLBはより面白くなる、より観客を惹きつけられるチャンスを秘めているように感じます。NBA・NFLに人気で水をあけられている中、より拮抗した熱い試合が繰り広げられることを願っています。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

【References】

【Photos】

・Portland Skyline from OMSI pan.JPG by M. O. Stevens

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Portland_Skyline_from_OMSI_pan.JPG#/media/File:Portland_Skyline_from_OMSI_pan.JPG

CC表示-継承3.0

・Charlotte Skyline 2011 - Ricky W.jpg by Riction

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Charlotte_collage.jpg#/media/File:Charlotte_Skyline_2011_-_Ricky_W.jpg

CC表示-継承3.0

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