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なぜMLBはビッグマーケットなのか
大谷翔平が10年7億ドルという衝撃の契約を結んでから早くも2週間が経とうとしています。この契約は北米スポーツ史上どころか世界のスポーツ史上最大規模の契約となりました。
MLB機構も選手会も、自身のリーグからスポーツ史に残る契約を結んだ選手が出たのですから、案外仲良くほくそ笑んでいるかもしれません。
今回のオオタニサンの契約に関しては日本でも大きく報道されていましたが、少しお金に興味がある人はこんなことを思ったことがあるのではないでしょうか。
「なんでMLBってこんなにお金あるの?」
というか自分が常々思ってます。試しに経済産業省の資料を見てみると、2021年のMLBの売上高は1兆516億円だったそう。これはプレミアリーグとブンテスリーガの売上高を足してもまだ届かない数字です。
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また、フォーブスが発表している「最も資産価値の高いスポーツチーム2023年版」には、MLBから5チーム、NBAから6チーム、NFLから30チームランクインした一方、プレミアリーグからは3チーム、ブンテスリーガからは1チームのみのランクインとなっています。
そもそもベースボールってどれくらい人気があるんですかね。目安としてインスタグラムのフォロワー数を比べてみますが、MLBのフォロワー数は1,057万人。これはプレミアリーグの7,165万人に遠く及ばないどころか、ブンテスリーガの1,442万人にも届いていません。他方NBA・NFLに目を向ければそれぞれ8,487万人・2,891万人と、意外と北米スポーツも頑張っていることがわかりますが、それでも市場規模や資産価値で大きな差がつくのは違和感があります。
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なので「なぜMLBはお金があるのか」という質問に対する回答としてよく言われるのは、「アメリカ資本だから」というもの。スポーツ自体の人気云々ではなく、アメリカの経済力でゴリ押していると。この指摘は全くもって間違っていないと思います。
ただ、どうせならもう少しブレイクダウンしてみたいなと思いました。スポーツそのものに何か鍵はないかと。普段は北米スポーツばかりを観ているのですが、いっそのこと欧州サッカーの見識を深めようと考え、WOWOWで放送していた「ボルシア・ドルトムント vs パリ・サンジェルマン」を観てみました。
1試合丸々観て思いました。「CM全然なくね?」と。
思えば北米スポーツは非連続的です。クォーター制・イニング制を通して頻繁に試合が中断されます。対してサッカーやラグビーなどの欧州スポーツは連続的です。一度試合が始まればハーフタイムまたは試合終了を迎えるまで時計が止まることはなく、CMを入れる余白がほとんどありません。
WOWOWは現地放送局がCMを流すタイミングで独自のハイライトを流すことが多いので、あくまで推測の域を超えませんが、今回私が観ていた試合では、まともに流れていたCMはオランダのビール会社ハイネケン社のものくらいで、またキックオフから試合終了のホイッスルが鳴るまでの1時間52分のうち、CMが入っていてもおかしくない時間はせいぜい12分程度でした。
言うまでもなくCMは放送局にとって最も大きな収入源です。放映権料がスポーツリーグの主たる売上になっている以上、CMをどれだけ入れ込めるかによってリーグの市場規模に大きな違いを生むことになります。
暇に任せてMLB・NBA・NFLも実際に測ってみました。最初に注意点を少々。
・試合開始から試合終了までを計測の対象とする。開始前や終了後のウダウダは考慮しない。
・試合の映像と同時に放送される数秒の広告は無視する。
・あくまで日本から視聴しているため多少の誤差があると思われる。許して。
さあやってみましょう。やっぱり最初は野球だろと思ったのでMLBから測りました。対象試合は現地2022年7月22日に行われたジャイアンツ対ドジャース(スコア1-5)です。8回裏にベリンジャーがカッコ良すぎる満塁ホームランを打ったやつです。配信プラットフォームはMLB.tv(映像はSportsNet LA)を使用しました。
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野球大国に住むみなさんであれば説明不要だとは思いますが、野球中継ではイニングの切れ目やイニング中の継投時にCMが入ります。なので試合が打ち合いの展開になると必然的にCMの放送時間が増えます。
この試合はジャイアンツ先発ウェブ、ドジャース先発アンダーソンがそれぞれ好投を見せ、かつイニング中の継投が8回表の1度しかなかったため、CMを入れ込む余白が多いとはいえませんでしたが、それでも合計で30分程度CMが放送されていました。CMの放送時間が試合時間に占める割合は約16%でした。
CM放送時間のばらつきが大きいのは、投手がベンチからマウンドに上がるまでの時間がバラバラだからだと思われます。放送局側からすると困ったものかもしれません。
バンバンいきましょう。続いてNBAです。対象試合は現地2023年12月15日に行われたレイカーズ対スパーズ(スコア115-129)です。WOWOW NBA(映像はESPN)で視聴しました。WOWOWさん、帰ってきてくれてありがとう。
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NBAでは1試合に7回までタイムアウトをとることができ、基本的にクォーター中に入るCMはタイムアウトによるものです。その放送時間は合計で11分58秒となっていました。それに加えてクォーター間のCM放送時間が5分32秒、ハーフタイムのCM放送時間が14分25秒で、全て合わせると31分55秒になっていました。また、NBAの試合時間はMLBと比較すると格段に短いこともわかります。CMの放送時間が試合時間に占める割合は約24%となっており、より効率的に広告宣伝を行うことができます。NBAは放送局にとってより魅力的な投資先に映るかもしれません。
最後はアメリカの国技NFLを見てみましょう。対象試合は現地2023年12月10日に行われたビルズ対チーフス(スコア20-17)です。配信プラットフォームはNFL GAME PASS(映像はCBS Sports)を使用しました。どうでもいいですが今年からNFL GAME PASSがDAZNに移譲され、使用感がかなり悪くなっています。マジでなんとかしてください。
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アメリカン・フットボールは、得点後・パント後の攻守の入れ替わり、タイムアウト、ツー・ミニッツ・ウォーニング(第2Qと第4Qのラスト2分になると自動的に時計が止まる制度)など、CMが入る余白を豊富に有するスポーツです。NFLがスポーツビジネスの王者たる所以が見えてきましたね。CMの放送時間は合計で53分45秒、CMの放送時間が試合時間に占める割合は約27%と、他の追随を許しません。いくら試合時間が長いとはいえ、1時間近くもCMを観せられているというのは衝撃でした。道理で40分のハイライトしか観なくなるわけだわ。
CMそのものの特徴としては、NFLのスターが自ら出演することが多い印象です。この試合ではペイトン・マニング、パトリック・マホームズらが出演していました。ちなみにCBS Sportsでは時々オオタニサンのニューバランスのCMが流れます。この人やっぱりすごいね。
さらにCMの放送時間がほとんど2分25秒前後で固定されているのも特筆すべきポイントでしょう。これはNFLがいかに商業的にコントロールされているかということを示唆していると思います。
このように北米スポーツはCMを入れ込む余白がアホほど存在します。もはやそのように設計されたのではないかと思えるほどです。
また今回調べていた初めて知ったのですが、どうやら欧州サッカーでは「スポーツはスタジアムで観るもの」という文化が根強く残っているらしく、無料の地上波で観戦できる試合は限られているようです。なのでそもそもテレビCMによる広告宣伝効果は北米スポーツほど見込めないのかもしれません。
以上を踏まえると、サッカーのスタジアムやユニフォームにやたらとスポンサー企業のロゴが入っているのは、テレビCMによる広告宣伝効果を代替しているように見えてきました。それと同時に北米スポーツが欧州サッカーと同じようなスポンサービジネスをやり始めたら、一体どこまで成長してしまうのかと興味が湧いてきました。NBAは2017年から、MLBは2023年からユニフォーム広告を解禁したようですが、その発展はまだまだこれからといえそうです。
長くなってきたので簡潔にまとめたいと思います。
・北米スポーツにはアメリカの経済力が最大限活かされる環境が整っている。加えてさらなる発展の余地がある。
・欧州サッカーはスポーツの構造上、または文化上の理由からテレビCMによる宣伝媒体として適していないため、スポンサー収入に力を入れている。
大体こんなところですかね。ここまでお読みいただきありがとうございました。
…?NHL?ナニソレオイシイノ?
【References】
・経済産業省(2023).「事務局説明資料 トップスポーツのさらなる拡大」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sports_future/pdf/002_03_00.pdf
2023年12月23日閲覧.
・Forbes(2023).「The World's 50 Most Valuable Sports Teams 2023」
https://www.forbes.com/sites/mikeozanian/2023/09/08/the-worlds-50-most-valuable-sports-teams-2023/?sh=5c7ac2c62b44
2023年12月23日閲覧.
【Photos】
・Shohei Ohtani (52250838762) by Mogami Kariya CC表示-継承2.0
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Shohei_Ohtani_(52250838762).jpg
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