【神奈川のこと97】行きつけの酒場(藤沢駅南口/スケアクロウ)
ああ、3年半ぶりに訪れた。
よって、これを書く。
平成29年(2017年)から3年間、みっちり通ったバー。その名は「スケアクロウ」。
藤沢駅南口を出て徒歩2分、江ノ電の藤沢駅やカトリック藤沢教会のある界隈。ビルの階段を地下に降りれば、その奥まった木製のドアの先に、めくるめくスケアクロウの世界は広がっている。
粋なマスター。そして、カウンターの中でマスターを手伝う女性たちの個性が楽しい。やっこにみーたん、そしてくるみさん他。
その一人やっこは地元、西鎌倉小学校と手広中学校時代の同級生で、「きっと、びっくん気に入るよ」と誘われて通い始めたのがきっかけだ。
美しいマリリン・モンローのポスターとジャズ。常連さんで賑わっていても、一人グラス傾ける夜でも、それはどちらもいい感じ。常連さんたちは皆、大概年上で、私なんぞは子どもの部類に入る。
「では、また来ます」。
令和2年(2020年)。まだ冬の寒さを引きずっていた3月中旬。バーボン「ノブ クリーク」のボトルが空になったので、ダッフルコートに袖を通しながら、いつものようにマスターにそう別れのあいさつをして店を出た。
その後、世の中は一変。
以来、足は遠のいてしまった。それはこのスケアクロウだけではない。地元、西鎌倉の居酒屋「あさくま(現在閉店)」、そして会社の仲間と「社外会議室」と称して足繁く通った東京は赤坂の「折おり」。この3年間で、数少ない行きつけの酒場と縁が切れてしまった。
仕事を終え、東京駅から東海道線の通勤快速に乗り込み、大船駅で降りる。5,6歩進み、「ムムム、今日は何だか…」と心のうずきを感じたら、発車ベルが鳴り終わる前に、ひょいと最寄のドアから乗り直す。
「ああ、やっちゃった」。
ワクワクと後ろめたさの両方を抱えながら、一つ先の藤沢駅で降りて、改札口を出る。気持ち早歩きとなり、その2分後に木製のドアを開けると、そこにはマスターと馴染みのお客さんが、あるいはマスターだけが。
「こんばんは~」。
「ああ、いらっしゃい」。
上着を脱いで、鞄を置いたら、マスターの指し示す席に腰掛ける。
自分の名札が掛けられたバーボンのボトルが目の前に置かれる。
マスターによって注がれる琥珀色の水を姿勢を正して見つめる。
すぐに口はつけず、まずはひとしきり香りを楽しんでから、「う~ん」と唸りを入れ、舌下にて味わう。
「食べる?」と空のお皿を持ったマスターが無言の合図を送る。
「はい、お願いします」と答えると、旬の食材を使った3種類のお通しが出てきて、これがまたいちいち旨い。
たまに流しの女性が来て、シャンソンを弾き語る。シャンソンなんてこれまで生で聴いたことがなかった。
大人で良かったと感じる瞬間。
「マスターすみません、酔っぱらってまして」、あるとき常連客の一人が2、3軒寄った後にやってきて言った。
「何言ってるんですか、ここは酒場ですから」とマスター。
マスターの発した「酒場」という言葉に年季が入っていた。
これを機にまた通い始められたら。
ただ、長っ尻はしねぇと決めている。
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